ローカルニッポン

地域住民との橋渡し 注目集める館山市への移住窓口-NPO法人おせっ会

ご存知の通り、日本は少子高齢化の真っただ中。2030年、2050年と人口減少の未来予想図が明らかにされるにつれ、地方では「限界集落」という言葉が用いられるほどに共同体の機能維持が問題になっています。一方、人口減少を見据えた上で、地域の課題を解決しようと、地域主導で特色のある試みが盛んに行われるようになってきています。南房総館山で、このムーブメントを引っぱっているのが、NPO法人おせっ会です。この団体の取り組みをご紹介しましょう。

田舎暮らし専門誌で館山市が上位ランクイン

2014年の内閣府調査によると都市に住まう人々の中で「農山漁村地域に定住してみたいという願望がある」と答えた人は全体の31.6%。2005年調査が20.6%ですので、田舎暮らしへの関心が近年、急速に高まっていることがわかります。こうしたニーズもあって、今や田舎暮らしの楽しみ方や注意点を比較的容易に知ることができるようになりましたが、中でも『田舎暮らしの本』(宝島社)が2013年から始めた「住みたい田舎ベストランキング」にて、館山市が上位(2013年と2014年で総合8位)に選ばれました。第三回となる2015年2月号では「週末通える田舎」部門で1位。首都圏から近い距離にあるとはいえ、移住促進の観点からすると注目すべき結果といえます。

文字通り「お節介」?な移住相談

なぜ館山市が上位ランクインしたのでしょうか?295市区町村が参加してアンケートにより決定するそうですが、南房総エリアの中で最も都市機能が整備されていることや、NPO法人の開催するイベントや移住相談が充実していることが評価されました。それではNPO法人おせっ会理事長 八代健正さんに、このNPOが実施している移住相談の方法についてまず伺ってみましょう。

NPO法人おせっ会理事長 八代健正さん

“NPOの設立当初から、「移住計画シート」というのを書いてもらっています。過去から未来へ、「安心と不安」「満足と不満」をそれぞれ簡単に書き出します。これによって何のために移住したいのか、移住後にこれまでより「幸せ」になれそうか、という点をお互いに共有して、その後具体的な相談を行っていきます。”

2009年にNPO法人が立ち上がってから現在約150組の移住のお手伝いをし、移住相談だけで考えると738件もの希望者と直接コンタクトをとって、アドバイスや橋渡しをおこなってきました。この経験やデータからみえてくるのは、多くの人が漠然としたイメージで、移住を希望していること。これを鮮明にして、移住後のリスクや不満を極力減らしていくことが自分たちの役割では、と語ります。

“私達の移住相談の特色といえば、移住促進といいながら簡単に移住をおススメしないことだと思います。もちろん、相談に来て下さるだけで有り難いんです。ただ移住というのは単に住まいを変えることとは違って、その後の人生に関わる大きな出来事。あくまで希望者の方が移住後に幸せであってほしい、この点を第一にお手伝いさせてもらっています。”

ふるさと回帰センターでの移住相談会の様子

話の中であがったのは、「物件を先に決めてしまう移住」パターンが非常に多いそうです。暮らしのイメージは住まいを決めることでより想像しやすくなることは確かですが、移住後は近隣の環境、仕事、コミュニティ等々、暮らしに関連する様々な要素が総合的な「幸せ」に関係するもの。できる限り事前に準備、心構えをしておきたいものですね。館山へ移住を考えている方はぜひ一度、NPOおせっ会の無料相談を受けてみてはいかがでしょうか。

NPO法人設立前の活動が現在の礎

第3回移住体感ツアー 「館山での子育て」をテーマに小学校への体験入学を実施

NPO法人おせっ会は、地元商工会議所青年部の創設50周年事業として2009年に立ちあがり、現在6年目という活動期間で市内に幅広いネットワークを形成してきました。商工会議所が主導する事業からスタートしたとはいえ、民間の異業種で活躍するメンバーが集まり、行政とともに移住促進を進める体制が、急速にできあがったことには、何か理由がありそうです。

―民間の青年商工業者から提案―

“50周年事業をどうしようか検討していた2007年でした。商工会議所青年部役員の一人が、市の長期基本計画を決める会議に参加して、近い将来人口が半分近くまで縮小することを聞いてきたのです。さすがに驚きの数字でしたね。では、どうしようか?何か自分達の手でできることはないか?こうして議論を重ねあったのが、NPO設立のはじまりです。”

NPO発足メンバーの写真

ここ数年、各研究所から人口減少のデータが明確に示されるようになって、全国的に移住促進が盛んに行われるようになりました。館山での動きは今から8年前。地元の疲弊を憂う若手商工業者に端を発したところがポイントだと思います。

―観光ではなく定住の地として―

“当時私は商工会議所青年部の事務局長を務めながら、旅館を経営していました。そこで感じていたことは、もちろん観光地としても良い場所ですが、館山の環境は住む場所として最適なのではないかと。ちょうど2005、2006年が「団塊の世代」が大勢退職され始める年で、第2次田舎暮らしブームでもあったので、これを50周年事業として館山でもやろう!ということになったわけです。”

第6回移住体感ツアーではヨットでクルーズが
実現

第1次は80年代に都会の喧騒から自然の中での生活を望んだ人々が主体となった田舎暮らしブーム。50周年事業を検討していた2007年は、団塊の世代が一斉に退職しはじめる時期でもあり、この世代が第二の人生を始めるまちとして館山をPRしようとのことで動き始めたのですね。

―移住受け入れのセミナー開催―

“活動がはじまった最中、移住したはいいが、地域に溶け込めずに不満を抱えている人の声が多数寄せられました。このことから外にPRすることも大事だけれど、地元住民との橋渡しをすること、これも私達の仕事であることを思い知りました。そこで、各地区の区長さんらと共同で、移住者を受け入れるにあたってのセミナーを開催することにしたんです。”

地域には地域に伝わる伝統があり、培われてきた地縁や血縁が残っています。そこに新たに移住者が越してくるのですから、うまくいかないケースが発生するのも当然のこと。

それでも、館山内では新旧住民が仲良く暮らしているのは、この働きによって、多くの住民の理解とこれに賛同する人々が現れたことによるのでしょう。実は、50周年事業にむけたこの一連の取り組み、2008年の商工会議所青年部の全国大会で、なんとグランプリを獲得。移住促進を行う自治体の模範例となりました。

課題をチャンスに

女性のためのお試しシェアハウス体験ツアー 参加者みんなで意見を交わすワークショップ

こうして地域全体を巻き込んで移住促進を進めるNPO法人おせっ会。手厚い移住相談もさることながら、移住促進を軸にして新たな活動にも積極的に取り組みます。駅前の飲食店と協力する婚活イベント「安房コン」や「秘密基地ワークショップ」などを行う「南房総ミライデザイン」など、NPO内から様々な事業が誕生しました。

この活動の基軸をなしているのは、地域課題をチャンスと捉えなおす発想の転換。「課題」というと少し重苦しいですが、「チャンス」と考えれば、前向きな未来が想像できるようになります。今地域に必要なことは、チャンスを掴む新しいアイディアと、豊かな未来像を共有していくことにあるのかもしれません。

文:東 洋平