ローカルニッポン

かやぶき古民家修復によるコミュニティ活性化 – 千葉大学岡部研究室による取り組み

かやぶき古民家修復によるコミュニティ活性化 – 千葉大学岡部研究室による取り組み


昨今、大学と地方自治体による様々な分野での連携が全国的に行われる中、館山市では千葉大学院工学研究科岡部明子研究室による建築まちづくりという見地から「コミュニティ活性化」をテーマとした研究活動や実践が展開されています。今回は岡部研究室の館山市での3つのプロジェクトと、その中でも特に「かやぶき屋根」の古民家を修復する活動に焦点をあてて、その取り組みをご紹介したいと思います。

2008年に始まり3拠点が誕生

同じ千葉県とはいえ、千葉大学の本キャンパス(西千葉駅近く)と館山市は電車で約100分の距離。決して近くはないここ館山にて岡部研究室(以下岡部研)が拠点を構えるきっかけとなった出来事は、なんと偶然だったとのこと。2008年にとある会合にて館山市で老舗旅館を営む女将さんと岡部先生が同席し、この女将さんの旅館を守り続ける強さに胸を打たれたことから岡部研と館山市との交流が始まり、これを発端としていくつものプロジェクトが立ちあがることとなりました。

プロジェクト1:「かやぶきの家ゴンジロウ」

里海、里山に恵まれた館山市塩見地区。老朽化が進んだ集落最後の茅葺き古民家を岡部研学生らが茅葺き職人と協働で段階的に補修し、現在ではお茶会や展覧会の場、さらに地域の核となる空間として活用されるまでに生まれ変わりました。

かやぶきの家ゴンジロウ

プロジェクト2:商店街のビルを改装

商店街利用者の減少に伴い利用されなくなったビルを、岡部研が中心となり地元の業者と協働して改装しました。現在は商店街の交流の場として活用されている他、耐震問題を抱える建築物の耐震補強事例となりました。

商店街のビルを改装

プロジェクト3:長須賀地区でのまちなか再生

館山城の城下町であり海上交通の拠点としてかつて栄えた長須賀地区にて町全体をフィールドにした様々な取り組みが行われています。いつの間にか物置になっていた旧商家を学生らがリノベーションして、地域のお年寄りが集う活動拠点が生まれました。

長須賀地区でのまちなか再生

こうした3事例をみると、「里」と「中心市街地」そして「伝統ある街並み」、とそれぞれが地方都市の中でも特徴的な空間であることに気づきます。始まりは偶然とはいえ、この活動は大学(院)の研究の一環。何らかのテーマがありそうですね。ここでは各プロジェクトを詳しくご紹介することはできませんが、その中でも「かやぶきの家ゴンジロウ」の活動からその一端を探ってみましょう。

研究室の拠点として

岡部研は館山との縁があって間もなく、2009年建築学科3年次スタジオ設計の課題で、塩見地区の散策MAPを作りました。そのとき、このかやぶき古民家があまり使われていなことを知ります。建物は老朽化が進み雨漏りもしている築100年以上の古民家。なんとかしたいと引き受けたものの、当初なにから手を付けたらよいのか見当もつかず、まずこの場に身を置くことから始めました。2010年には岡部先生が、研究休暇を利用してこのかやぶき古民家にしばらく住んでいたことも。その頃のご感想をお聞きしました。

“かやぶきの家で目覚め、朝の空気を胸いっぱい吸い込んだ瞬間『幸せ〜』と感じたことを覚えています。住んでみて地元の方の暮らしに触れ、この土地の良さを感じ、都会生活の日常に彩りが加わりましたね。また握り鮨が食べたくなったら館山に行くことが習慣になりました。

研究室の拠点

このように研究生が実地調査を重ね、また岡部先生自身が積極的に地域と関ったこともあって、徐々に大家や地区住民との話し合いが深まり、同時に岡部研内でこの集落最後のかやぶき古民家を「なんとかしよう」という声も高まることになります。

そこで市や住民と協働してこの古民家の「ケア」に継続的に取り組む協議会を立ち上げ、2011年からこの場で本格的に活動することになりました。

かやぶき屋根のふき替えワークショップ

かやぶき古民家の修復と維持で重要なことは「茅(かや)」の「ふき替え」です。昔はこのふき替えに必要な茅を集落全体で生育・管理する「茅場」があり、集落の共同作業でふき替えが行われていました。かやぶき屋根は、継続的に差し茅をして手入れし、20年から30年で全面葺き替えをしますが、現在はこの「茅場」がない上に、職人も少ないためこの一連の作業に高額な費用がかかります。

岡部研は、金沢の茅葺き職人や、南房総の専門家に協力を受けつつ、茅刈りのワークショップを開催することからこの問題に取り掛かりました。足りない茅は他地域にまで足を運び調達します。また全面葺き替えするには、茅の量も人手も足りないので、毎年一部分ずつ葺き替えることにしました。以下は、2011年から14年にかけてかやぶき屋根ふき替えワークショップが開催された様子です。

かやぶき屋根のふき替えワークショップ

 

2011年に屋根全体の1/6(北側)、2012年に1/6(北側)、2013年に1/6(西側)と行い、2014年春に1/3にあたる正面をふき替え、秋に残りの東面をふき替えること4年間で全面的な修復が完了。集落に茅も少ないことから比較的少量の茅でふき替えができる「段ぶき」という手法を採用し、今後のケアの方針も同時に提案しています。

ケアを通したコミュニティの活性化

岡部研では、「かやぶきの家ゴンジロウ」の修築や「茅のふき替え」をできる限りワークショップ形式で行います。また建物内で、伝統的な日本文化を堪能する「茶会」や、集落にあった数々の知恵を学ぶ「かや談義」など、建物を利用した数々のイベントも開催しています。

一連の活動に共通しているのは、建物の修築や活用のプロセスを共有することで、地元住民と学生、さらに古くからの建物を大切に思う人々らが集まり、建物とその環境を継続的にケアしていくこと。空屋が増加する中、コミュニティの空間を新たに計画するのではなく、こうした既存の「資産」をケアするプロセスにより、コミュニティの中心となる空間を生み出し、地域を活性化させることを目指しています。

ケアを通したコミュニティの活性化

岡部研の活動は随時ブログにアップされていますが、さらに詳しく研究内容を知りたい方には書籍や論文を参考にすることをお勧めします。そして学生や有志の手で2014年秋に全体のふき替えを完了した「かやぶきの家ゴンジロウ」に一度足を運んでみては如何でしょうか。

文:東 洋平