津和野町にある唯一の高校、島根県立津和野高校。この生徒数200名に満たない小さな高校が、いま全国的な注目を集めています。津和野町や近隣自治体の人口が急激に減少する中で、津和野高校の入学者数は平成14年度から平成25年度の11年間で約3分の1の水準にまで減少してしましたが、平成26,27年度と一気にその数はV字回復し、平成27年度の入試倍率は0.92倍にまで回復しました。
この背景にあるのが、「津和野高校魅力化プロジェクト」と呼ばれる、津和野高校に対する津和野町の手厚い支援です。津和野高校には、津和野町が雇用する9名ものスタッフが常駐し、高校のキャリア教育支援、広報、地域連携、学習支援などの領域で活動しています。
このプロジェクトは、津和野高校の統廃合も視野に入る危機的な状況のなかで、高校復活の起死回生の一手としてスタートしました。島根県教育委員会が離島・中山間地域に位置する県立高校を対象として、それぞれの高校が立地する市町村と協力しながら、高校の生徒数確保を目指して行われています。津和野高校は支援対象の県立高校のひとつに入り、島根県教育委員会と津和野町から助成を受けて高校の魅力づくりに取り組み始めました。
津和野高校の最大の強みは、全校生徒約200名という「ちょうどよい」学校規模を活かした、生徒にじっくりと向き合う教育です。1クラス25名以下なので、生徒一人ひとりに目を配ることができる上に、各学年3クラス展開なので体育祭、文化祭、球技大会におけるクラス対抗の行事も大いに盛り上がります。さらに学校の先生方に加えて、津和野町が雇用し、高校と町営塾に常駐する9名のスタッフのサポートを受けることができます。
津和野高校の生徒は、地域に積極的に飛び出し、地元のお祭、バーベキューや川遊び、農業や林業の体験を通じて地域の方々にも育ててもらっています。これらの経験を経て培われるコミュニケーション能力や自然への眼差しは、高校卒業後も必ずや役に立つものになるでしょう。都心部で育ち、地域の方とのコミュニケーションや、自然体験などを十分に体験できなかった中学生にこそ、津和野高校での高校生活を経て社会に飛び立ってもらいたいと考えています。
また、津和野高校にはキャリア教育やクラブ活動の一環で、世界や日本の一線で活躍する社会人や国内外の一流大学の学生が訪れ、生徒に大きな刺激を与えてくれています。2年生の総合的な学習の時間に行われているキャリア教育プログラム「ツコウゼミナール」では、2年生の全生徒65名を、町雇用スタッフおよび学校司書がリーダーとなる10のゼミに分け、密度の濃い空間で生徒の成長意欲を育てています。
高校に併設された町営英語塾HAN-KOHでは、東京の民間塾で活躍をしていた塾長、神奈川で公務員として英語で職務をこなしていた講師をはじめ、東京大学や慶應義塾大学の大学院を修了した若手スタッフが在籍しています。生徒一人ひとりのニーズに合わせて、授業の補習から難関大の受験対策、さらには就職試験対策までカバーすることができます。しかも町営塾は津和野町の補助によって、津和野高校生であれば誰でも無料で利用することが可能です。
津和野高校は、今年6月に学校WEBサイトを刷新しました。「高校WEBサイトの常識を覆すようなサイトをつくろう!」という意気込みで、デザイン会社との折衝を約1年間続けて完成させたものです。このWEBサイトは公開直後から大きな話題を呼び、全国から「なぜ高校でこんなサイトがつくれるのか?」「どこのデザイン会社に依頼しているのか?」といった問い合わせが相次ぎました。
津和野高校には、田舎でないと体験できない地域の方々との交流や自然とのふれあいがあると同時に、都心でも体験できない刺激に満ちたキャリア教育や、最高の学習サポート環境を備えた町営塾があります。田舎ならではの地域環境と都会を超える学習環境を併せ持つ津和野高校は、全国的にも極めて珍しい存在だといえると思います。
津和野高校の第一志望者数は、平成25年の57名から今年は75名にまで増加しました。また、津和野町が雇用する高校常駐スタッフの数も平成25年4月は1名でしたが、今年4月には9名まで増えています。この勢いを持続させ、全国から志望者の集まる高校を実現させたいと考えています。今後、津和野高校魅力化の取組みを数回に分けてご紹介していきたいと思います。
文 : 津和野高校魅力化コーディネーター 松原 真倫