勝タン船団が未利用魚の加工品プロジェクトに着手/ONE勝浦企業組合
ご当地グルメでまちおこしの祭典「B-1グランプリ」。全国60か所以上の地域団体が出展し、地域で愛されるご当地グルメを中心としたまちのPRを行って、会場に集まった数十万人の来場者の箸投票でグランプリを決める年1度の一大まちおこしイベントです。このイベントに2011年から出展しランクを上げ、2014年にシルバーグランプリ(第2位)を獲得したのが「熱血!!勝浦タンタンメン船団」。人口2万人ほどの千葉県勝浦市の名が全国区へ名乗りでる快挙を成し遂げた船団の取り組みですが、この勢いは留まることなく、新たな商品開発を行うプロジェクトが立ち上がっているのでご紹介します。
勝浦タンタンメン(勝タン)を突破口に
B-1グランプリの名前さえ知らなかったところから、船団また地元の飲食業者との連携を取りまとめてきたのが、本業は水道関係の会社を経営する船団長の磯野典正さん。まずは磯野さんに勝浦タンタンメン船団についてお聞きしました。
“「熱血!!勝浦タンタンメン船団」は「勝タン」の団体と思われてしまっているところがあるのですが(笑)、僕らは元々飲食とは関わりのない人の多い異業種の団体なんです。B-1グランプリのコンセプトは「まちおこし」なので、これに共鳴した地元思いの有志が立ちあがって「勝浦のために」活動しようというのがその発端でした。”
漁師町である勝浦市には、昔から漁師や海女が寒い時期に身体を温めるための料理としてタンタンメンを食べる習慣がありました。そのため市内でも多くの飲食店がタンタンメンを提供していたことから、その独特の味をきっかけとして勝浦を知ってもらおう、勝浦へ人を呼ぼうと結成されたのが「熱血!!勝浦タンタンメン船団」です。
“当初は味を1つに決めることやB-1グランプリ会場でのパフォーマンス、デザイン等沢山の課題がありました。しかし地元で活躍する異業種の仲間や都会に出た地元民のセンスや力が垣根を越えて結集したことで受賞を成し遂げられたのだと思います。振り返ってみて私達の目的は勝浦全体を盛り上げることですから、この成果に甘んじず、次なる目標に向かっていきたいと思います。”
ONE勝浦企業組合
「勝タン」に集中して5年間の活動を行ってきた「熱血!!勝浦タンタンメン船団」は今年5月、本来の目的である勝浦全体の活性化を図るため「ONE勝浦企業組合」へ組合名称の変更を行いました。B-1グランプリに向けた活動も一層力を入れていきますが、より広範な活動に着手しようというチームの思いが1つになったのです。
“勝浦はこれまで次世代のまちづくりに向かう切り替えのタイミングを逸してきたと思っています。基幹産業である水産業も格差が広がり、里山の保全や空き店舗問題など手つかずの課題が山積みです。そんな中、船団の取り組みが地域に活力を取り戻すきっかけとなって、今後魅力ある勝浦を多方面からPRできるよう挑戦を続けていきたいと思います。”
勝浦市といえば、全国有数のカツオの水揚げを誇る勝浦漁港で知られ、他の漁港に比べ高値で取引が行われることから県外の船も多数入港しています。しかし、これは大中型船における特徴的な事例。漁業で栄えてきた町とはいえ、小型漁船を中心とする小さな漁港では後継者もなく近い将来の存続が危ぶまれています。
そこでONE勝浦企業組合が、新たな活動として本格的に始めたプロジェクトが未利用の魚「シイラ」を使った加工品販売です。
美味な未利用魚「シイラ」を使った加工品プロジェクト
シイラとは、暖かい海に生息する大型魚(1.5m~2m)で勝浦沖でもカツオなどと混獲されますが、身が薄く利用しにくいことからこれまで流通に乗ることはありませんでした。このシイラを新たな勝浦名産の商品にしようと開発を進めているのが、ONE勝浦企業組合水産事業部長である妙海寺住職佐々木教道さん。
“勝浦市の小型船による漁業は、魚価、漁獲高の低下から後継者不足が長らく続き、現在70、80代の漁師さんのみという危機的な状況です。勝浦の活性化を考えた時、漁業を守り雇用を生んでいくことは避けられないテーマですから、なんとかしなければなりません。これには、今までとは全く違うアプローチが必要だと思っていました。”
佐々木さんはお寺のスペースを利用して地域の未来を考える数々の会議を企画しています。その1つとして2013年12月に開催されたのが「勝浦ミラクル人会議」。地域活性化の識者を交え、まちづくりに関心ある全ての方を対象にして行われた異業種の会合で、全国の事例を学ぶだけでなく、勝浦をテーマに議論やアイディア出しが行われました。この会合をきっかけとして具体的に動き始めたのが「シイラ」の活用プロジェクトです。
“シイラは刺身にすると「ヒラマサ」や「金目鯛」に似て食味が良く、また高タンパク質かつ低カロリーで栄養素が高くヘルシーな側面もあって、ハワイでは「マヒマヒ」という高級魚として扱われています。ただ他の魚に比べて骨太で身が少なく、また大きくて暴れるので、勝浦では獲れても捨てられるケースが多かったんですね。シイラのようにすでにある資源を利用することが地域再生の鍵だと思います。”
小型船組合が全面的なバックアップ
こうして始まったシイラの加工品プロジェクトですが、いざ販売をしてみるまでは地域の活性化に繋がるのか、まだ誰もわかりません。また、そもそも漁師に避けられてきたこともあり、肝心のシイラを一定量仕入れられるのかが最大の難関でした。
“この未知の取り組みを始める上で非常に有り難かったのは、小型船組合長が「君たちはよく頑張っている。君たちのためなら全面的に協力しよう」とプロジェクトに応じて下さったことです。勝タン船団の取り組みが報われ、次に繋がったと感じる瞬間でした。鮮度を保つために船の上でしめてくださったシイラがすでに2トン、切り身にして冷凍保存してあります。”
もちろん漁業の活性化を目的としたプロジェクトとはいえ、会議や試作品開発すべてにわたって補助金などに頼らず自費で取り組んでいる企業組合にとって、スタートアップ時の資金繰りは頭を悩ませる問題です。そこで組合長に話を持ちかけたところ、ふたつ返事で協力が決まり、鮮度の良いシイラを安価に提供してもらえることになりました。船団のこれまでの取り組みが、漁師の心を動かしたのです。
この夏マヒマヒ(シイラ)ナゲット販売開始
各業者や料理研究家と共に試作品の開発に取り組むこと約1年。いよいよ5月には第一弾としてシイラの照り焼きとハンバーグによる「マヒマヒ弁当」が販売され、この夏本格的に「マヒマヒナゲット」の販売も開始します。
「今ある資源を生かしたまちづくり」をテーマとして始まった未利用の魚を加工するプロジェクトですが、今後「里山保全」「空き店舗利用」など数々の地域課題解決に向かうONE勝浦企業組合にとって大きな第一歩。勝浦タンタンメン船団で培った販売戦略も武器として、次世代のまちづくりの模範となる事例を全国に発信していってほしいと思います。
文:東 洋平