ローカルニッポン

地域が変われば、子どもが変わる/豊島子どもWAKUWAKUネットワーク

全国から注目される豊島子どもWAKUWAKUネットワークの活動

東京都豊島区要町に、全国から注目されている一軒の家があります。それが毎月第一、第三水曜日の17:30~19:00にオープンしている「要町あさやけ子ども食堂(以下:子ども食堂)」です。ここでは一食300円で愛情たっぷりのごはんを食べることができます。幼児から高校生までが参加でき、親の仕事が遅く一人だけで食べていた子どもや、シングルマザーの親子など、地域の中で孤立しがちな子どもや大人が、安心してごはんを食べ、人とのつながりを感じることができる場所なのです。

この場所をはじめ、池袋本町プレーパークや、無料学習支援などを通して、地域の子どもや貧困で孤立する家庭に手を差し伸べる活動をしているのが、NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワークです。

「要町あさやけ子ども食堂」はメンバーの山田さんの自宅兼パン屋の場所を改装して作られた。
今でも玄関には山田さんが作ったパンが並ぶ。

「今の子どもはみんなきれいな格好をしているし、家庭内のことも隠したいと思っているので、パッと見ただけでは貧困という状況にあるのかがわかりません。でも、どこの地域にも必ず困っている家庭はあるんです」

こう話すのは、不登校・引きこもりの支援活動をしながら、豊島子どもWAKUWAKUネットワークの副理事長兼事務局長を務めるソーシャルワーカーの天野さん。

「特に子どもの貧困というのは暮らしそのものが困っているので、生活支援が必要です。そういう家庭は、例えばお母さんが忙しさで余裕がなくなり、それが原因で精神疾患を患い家に引きこもってしまう場合があります。そうなると親子で引きこもるケースも少なくなく、地域から孤立しがちなんです」

2014年の厚生労働省の発表によると日本の所得ベースの相対的貧困率は16.3%。生活保護を受けていたり、生活保護とほとんど変わらない年収のワーキングプアの家庭で育つ子どもが6人に1人いる状態です。しかも、この数字は悪化し続けています。この問題を解決するためには、地域の力が不可欠であると天野さんは言います。

「地域の中で一人でも自分の子ども以外の子のことも気にかけて声をかけることができる人が増えてほしいと思っています。それは、子どもにとって、ものすごく大きなことで、ちょっとした声かけが本当に支えになるんです。学校の先生や親だけでなく、地域のおじさんおばさんが地域で子どもを育てるんだっていう気持ちになってもらいたいなって思っています」

地域を変える 子どもが変わる 未来を変える

理事長の栗林さん(左)と今回お話を聞かせてくれた副理事長・事務局長の天野さん(右)

豊島子どもWAKUWAKUネットワークのキャッチコピーは、「地域を変える 子どもが変わる 未来を変える」。この言葉には、どんな子どもであろうとも生まれた時から等しく持つ、「未来の可能性」への思いが込められています。

「貧困も虐待も連鎖します。けれど、子どもは変わることができると私たちは思っているんです。『子どもを変える』じゃなくて、『子どもが変わる』。それには、まず地域が変わらなくてはいけません。地域を変えることによって、子どもが変わっていくんです」

天野さんは豊島子どもWAKUWAKUネットワークで担当している「夜の児童館」の活動で、実際に「子どもが変わっていく」という体験をしたエピソードを話してくれました。夜の児童館は、地域の小中学生を対象に、毎火曜日16:00~20:00に集まって、宿題をしたり、遊んだりできる場。大学生のボランティアも参加します。「より家庭的な時間を過ごしてほしい」という思いから、子ども食堂とは違い、申込制になっているのが特徴です。

「夜の児童館に来ている子達の中で、最もシビアな環境にいる小学生の男の子がいました。私も一番気になっていた子です。夜の児童館に通い始めた頃は暴言もありましたが、たった半年でやさしい面やいい面を出せるようになってきています。それは、彼がこの場所で自分が全面的に受け入れられているというのを感じているからだと思います」

「子どもが変わる」と一言でいっても、ただ待っているだけでは変わりません。周りにいる大人が子どもに対して、どのように向き合っていくか、ということが大切なのです。

豊島区内でこの場所をもっと増やしていきたい

この日のメニューは、豆腐で作られた変わりかば焼き、トマトとかぼちゃのマリネなど。栄養のバランスを考えて毎回作られている。



豊島区内にある「子ども食堂」も「夜の児童館」も今のところ一つずつしかないという状況ですが、これらの場所をもっと増やしていきたいと天野さんは言います。

「いろんな人に私たちの活動を見ていただいて、子ども食堂のように全国に広がっているのは嬉しいことですが、豊島区でもまだまだ数は足りていないと思っています」

大人からすれば、隣町に行くことはそれほど大したことがなくても、子どもにとってはさまざまな危険がついてきます。子どもが安心して通える範囲に、このような場所が地域に点在することが必要なのです。

豊島子どもWAKUWAKUネットワークから生まれた新しいつながり

2012年に設立してから豊島子どもWAKUWAKUネットワークの活動は子ども食堂を中心に全国から注目されています。現在は、ボランティアスタッフをはじめ、関わる仲間も増え、抱えるメーリングリストも400人にも上ります。そこでは、新たなネットワークも生まれているそうです。

「例えば110サイズの子ども服がないとメーリングリスト流すと、『ありますよ』という返信が来る。シングルマザーやDVで逃げてきた方たちの支援も私たちはしていますが、そういう方たちは、ほとんど物を持っていないんです。服だけではなく、電子レンジや炊飯器といった家電といった場合もあります。そんな風に、役に立つネットワークに少しずつなってきているのではないかと思います」

豊島子どもWAKUWAKUネットワークを通して、地域の中で支え合う仕組みが、さまざまな形で育っています。

子どもの貧困は身近にあるということをもっと実感してほしい


天野さんは「子どもの貧困は身近にある」ということをもっと実感してほしいと言います。

「子どもの貧困について、最近では多くのメディアが取り上げてくれるので、以前よりも認識している人は増えたと思いますが、自分の身近にいるという実感がない人の方がやっぱりまだ多い。でも、そういう子どもや家庭は必ずどこの地域にもいます」

まずは、その意識を持つ。それだけで、自分の住む地域の違った景色が見えてくるかもしれません。そして、次は体験し、そこから新しいつながりを地域で育んでいくことが、地域に暮らす私たちのひとつの役割であるように思います。

「私たちが行っている、こども食堂などに実際に来てもらって、子どもと出会い、お母さんと話してみてほしいです。もし近所だったら、その辺で出会うかもしれない。その時に話ができるようになるといいですよね。地域が変わるというのは、そういうことの積み重ねだと思います。まずは、知ってもらわないと何事もはじまらない、ということはいつも思っています」

「子どもの貧困」というところだけに注目してしまうと、もしかしたらハードルが高く思えてしまうかもしれません。けれど、「地域で生まれ育つ子どもたちを、地域で見守り育てる」ということは、少し前の日本では当たり前の風景ではなかったのでしょうか。その風景はとても美しく、人々の心を豊かにしてくれたはずです。子ども食堂をはじめ、WAKUWAKUネットワークが行っている活動は、全国で広がりつつあります。少しでも心に引っかかるものを感じた方は、ぜひ知ることから始めてみてほしいと思います。

文:坪根育美