ローカルニッポン

鴨川産釣りサバを食卓へ届けて小型船漁業の活性化へ

一口に漁業といっても「定置網漁」「まき網漁」「刺網漁」など、磯や沿岸、沖合そして遠洋まで様々な漁法が存在します。それぞれの漁法や地域によって漁獲される魚の種類も異なりますが、今回ご紹介する千葉県鴨川市の若手漁師2人が行っている漁法は、沿岸小型漁船での釣り漁法。5トンほどの船に1~2人で乗り込み、様々な漁具を駆使して沿岸の魚を漁獲する伝統的かつ漁師の腕がダイレクトに問われる漁です。また1匹ごとに漁獲するため、魚体に傷がつかず鮮度の高い魚が水揚げされる漁としても知られています。この2人が3年かけて取り組んでいるプロジェクトが、未利用の小小サバによる鴨川産釣りサバのブランド化。若手漁師の思いと挑戦に迫ってみたいと思います。

地元鴨川漁師と元料理人漁師との出会い

プロジェクトを考え、毎年漁の傍ら研究や販路開拓に努めているのは、鴨川市漁業協同組合の岡崎良平さん(37)と中原敬司さん(37)。岡崎さんは代々漁師の家に生まれ、中原さんは元料理人で京都から移住して漁師になったという2人ですが、どのような経緯でサバのブランディングに取り組み始めたのでしょうか。

中原さん:
“鴨川にきて念願の漁師になって、最初はまき網漁をやってたんですけど、岡崎君の協力もあって船を買い小型船漁を始めることになりました。そしたら、この漁で釣ったサバが異常に旨いことに気が付きましてね。それで岡崎君に提案したんですよ。岡崎君は生まれた時から当たり前のようにこのサバを食べてるんで特に感じなかったようですが(笑)、僕のような余所からきた者にとっては別格の味だと。”

サバの釣り方を説明する中原さん

塩焼きや煮付けさらに干物、しめ鯖でお馴染みのサバですが、ブランディングを目指すともなれば他との違いが問われるところ。京都にて様々な料理を提供していた中原さんが、これまで食べたことのないほどに特別な味を感じた鴨川で獲れるサバの食味には、その後調べたところ鴨川の立地とも関係する理由があることがわかりました。

鴨川で獲れるサバが旨い理由

“サバといえば北欧産が今は主流で、多くの人がこの味に慣れていると思います。ただ、実は鴨川沿岸を1月~3月あたりに南下するサバは、最も旨いと言われている産卵期直前なんです。僕の感じたところを率直にいうと、冷凍保存された北欧産のサバよりも臭みがなく、脂のノリも負けてません。何より小型船は釣り漁なので、網で押しつぶされることもなく、鮮度が高いことが大きく関係していると思います。この点をPRして是非多くの人に食べてもらいたいですね。”

サバ漁に使うハイカラという漁具

サバの産卵期は3月~8月で、産卵後のサバは卵とともに脂も急速に減少します。その後秋~冬にかけてサバは旬を迎えますが、脂は産卵期に向けて増加し、産卵直前の1月~3月の絶妙なタイミングで勝浦から鴨川沿岸を通過するとのこと。また小型船によるサバ釣り漁は、「ハイカラ」という漁具を使って一匹ずつ漁獲されます。もちろん手間はかかりますが、魚の内出血もなく鮮度の高い状態が保たれるため脂の臭みが軽減するのです。

沿岸小型船漁業の突破口に

岡崎さん:
“発端は中原くんの「旨いサバを食べてほしい」という思いにあったわけなんですが、彼のいうように僕は昔から魚を嫌というほど食べてきて、最初は「へ~」という感じだったんですよ(笑)。だけど、叔父さんや父さんの話を聞いてても、明らかに小型船の漁業は魚の需要も低迷している中、魚そのものが減ってきていて新しいアイデアを出さねばならない時期だという切迫感はありましたね。年間でサバやカツオ、キンメダイや伊勢エビ、ハマグリといろんな魚介類を扱ってはいますが、この中でも一番自信のあるサバからやってみようと思ったわけです。”

船の運転を披露する岡崎さん

岡崎さんは4代続く漁師の一家に生まれ育ち、22歳から小型船漁と海士もやっています。鴨川漁協の中でも、例えば定置網漁は、漁の効率化や船上で沖〆(血抜き)した魚にオリジナルのタグをつけるなど工夫して業績をあげる中、小型船漁は個人の力量に漁獲高が委ねられることもあり新しい試みが行われてきませんでした。そんな中で中原さんが提案してきたことが、小型船釣り漁ならではの味をセールスポイントにした鴨川産サバのブランディング。代々受け継がれてきた伝統的な小型船漁を盛り上げたい岡崎さんの思いと合致したことから小型船若手漁師数人でプロジェクトが立ち上がりました。

鴨川産釣りサバ干物は好評…されど課題

さて、いざ取り組みが始まっても鴨川産一本釣りのサバを多くの人に食べてもらうのは簡単なことではありません。鮮魚のまま流通することも数人の漁獲量では難しく、また規模を広げるにせよ、水揚げ後の段取りから販売までの流れを作る必要があります。2人ができることからと始めたのは、釣ってきたサバを沖で〆て水揚げしたその日に開き、乾燥させて真空パックにしたサバの干物でした。

鴨川産釣りサバのサンプル

岡崎さん:
“いや~ほんとに地道な作業ですよ(笑)。朝3時に漁にでて昼前に帰ってきて、釣れたサバをまずは漁協に卸すでしょ。その後釣った魚を自分達で買い取って、午後漁港でまな板広げて包丁で開きます。それでもできあがった干物はとても好評で、いくらでも送ってくれってお客さんや業者さんも出てきたので、これまで3年は1月~3月の時期に目一杯作ってきました。でもね、一番肝心な商売って意識がすっぽり抜けてしまってたんですねぇ(笑)。”

毎年約10000トンもの魚を水揚げする鴨川漁港

美味しさを知ってほしいとの一心で眠る暇を惜しんでサバの干物作りに勤しんできた2人でしたが、そもそも組合法上、水揚げした魚は一旦漁協に卸し、その後買い取る過程を踏まねばなりません。漁協から直接仕入れるとしても釣りサバの価格はそう安くはなく、この原価とその他の費用を換算して干物の価格を積み上げると、とても一般の食卓で日常食べるような価格帯に収まらないことがわかってきました。

来春未利用の小小サバで規模拡大

中原さん:
“そこで今年の漁期に試してみたことが、普段は値がつかない小小サバという350g~400gのサバで干物を作ってみることです。サバにも大中小ってのがあって、それぞれ漁協に卸す時に値が違います。小まではいくらか値がつくのですが、400g以下だと一気に値が落ちるので、海に戻すか廃棄してしまうんですね。この見極めが結構大変なんですよ(笑)。海に戻したって半数以上は死んでしまうこともあって、それではこのサバを使って干物を作ろうとやってみたところ、なんと、旨かったんです。そんなことから来年の春は、この小小サバを自分達のも含めて小型船漁師から買い取って、比較的多めに加工品作りをする予定です。”

船上で天日干しされたイカ

鴨川産釣りサバの味が美味とはいえ、あまりにも高価であれば一般家庭の食卓には並びません。そこで2人が目をつけたのが、これまで価値がないと捨てられてきた400g以下の小小サバ。小サバまでは値がつくので漁師は限りなく400gに近いサバをよく水揚げしています。折角漁獲されたにも関わらずほんの数グラムの差で廃棄されてしまうのは勿体ないものです。そこでこの小サバ同等のサバを利用して原価を下げ、鴨川産釣りサバとして適正価格でこれまでより多めに売り出そうというのが来春の目標となりました。

早朝の出漁風景 朝日に向かって船を進ませる

小型船漁業の活性化を試みる本プロジェクトですが、水産試験場にて最新の保存技術を教わり、効率的な機械導入の検討を語る2人の目は、何より食味良い釣りサバへの自信を土台として期待に満ちていました。また移住して漁師となった中原さんは、すでに10年が経とうとしている過去を振り返り、今の生活に大満足だとのこと。鴨川漁協には若手漁師も増えてきているそうで、新たな視点で漁業を捉え直す若者の存在に気づかされる取材となりました。

文:東 洋平