ローカルニッポン

里山生活お助け隊/かゆーいところに手がとどく、里山の何でも屋

一昔前は、人間と自然が共生してきた日本の「里山」。主なエネルギー資源であった木材だけでなく、家畜の餌や家屋の屋根に使う茅(かや)、木の実や山菜など食材の宝庫でもありました。エネルギーや生活様式の変化から人が里山を離れるようになり、過疎化や高齢化は深刻となりつつありますが、その一方で里山での暮らしを好み、移住する人が現れている場所もあります。こうした状況にあって、里山に必要とされている仕事を担い、地域の新たな循環を生み出そうとする南房総鴨川での取り組みを取材してきました。

高齢者のお手伝いに始まり

鴨川は、長狭平野の南北を清澄山系、嶺岡山系が横切る南房総では比較的山の多い地域。この地に住む主に30代~50代の移住者を中心として結成された団体が「里山生活お助け隊」です。隊長の池田剛さんは、元は東京で自動車のメンテナンスや修理を行っていた機械整備士で、海の近くで住みたいとの思いから鴨川市へ移住し、現在6反(約1800坪)の田んぼにて無農薬の米を栽培しつつ、自動車や農業機械の整備を行っています。

池田剛さん:
“この地に越してきて、予想以上に田舎の高齢者の方々が苦労しているのだなぁということを知りました。特に里山のある場所は町からの距離も遠く、周りに民家も少ないので、ちょっとしたことにも不便で人の手が足りないんですね。そんなことで各々ボランティアでお手伝いしていたんですが、依頼された方から「次に頼めなくなるから受け取ってくれ」ってお礼金を無理やり(笑)渡されるようになりました。それで、どうしようかと話し合いを重ねたんですよ。”

半農半メカニックと謳い、農業と機械整備
を行っている池田剛さん

里山里海研究会

池田さんらが地域住民との繋がりの中で、高齢者をサポートする必要性を実感してボランティア活動をはじめたのと同時期に、鴨川市に20年以上前に移住して様々な活動を展開してきた今西徳之さんから里山の資源を活用して何かできないか、との呼びかけがありました。

今西徳之さん:
“竹や木などの里山に余る自然資源を再利用したいという思いがずっと前からありまして、鴨川市内の興味ある人に声をかけて「里山里海研究会」というのを毎月1回開催していました。そこに池田さん達も参加していて、里山に住む高齢者への草刈りや伐採の手助けをしつつ刈った資源を循環させる仕組みを作ろうなんて話になりましてね。それで「里山お助け隊」が始まったのです。今はまだ実働に追われて(笑)、資源循環のところまでいけてませんが、もう少し落ち着いたら実践したいと思ってます。”

鴨川市旧曽呂村の山奥で自給自足の生活
を送っている今西徳之さん

今西さんは、竹チップや木質バイオマスエネルギーなど、自然資源を利用した循環型エネルギーの研究に注目し、これを鴨川で実践できないか関心のある人々と共に月に1度会合を開催してきました。この集まりにて里山生活でサポートを必要とする高齢者の要望が議題にあがり、資源再利用の取り掛かりとして結成されたのが「里山生活お助け隊」。もちろん里山生活の困り事をサポートすることが主な業務内容ですが、里山と人とが再び共生を取り戻すことが隊の大きな目標に掲げられているところに今後の展開を期待させます。

里山生活お助け隊

こうして2012年、12名ほどのメンバーで結成された里山生活お助け隊のキャッチフレーズは、「かゆーいところに手がとどく、何でも屋の組合」。草刈りや木の伐採は当然のこと、ペンキ塗りから大工仕事、パソコン活用サポート、買い物代行まで、時給1000円と交通費などの実費でできることは全て引き受けます。(注:危険な現場などの特別な作業は、依頼主と応相談)

里山生活お助け隊の仕事例

池田剛さん:
“どちらかというと職人集団で、案件によって担当者を決めてはいますが、専門でないことも「ある程度」で良ければ何でもやります。むしろ暮らしの中にあるすべてのことが仕事なので、ジャンル分けできないですよね。例えば先日は、旦那さんを最近亡くした農家のおばあさんが、納屋の使わなくなった農具を出すのを手伝ってほしいって連絡がありました。農家の持ち物って機械や資材でとっても重いんですよね~。”

里山生活お助け隊には特に事務局は存在せず、各メンバーが口コミで仕事を受注します。受注した仕事内容によってチームを作り、時間指定が無い限りは各メンバーの都合のよい日時に現場に行って仕事をし、報酬を受けて終了です。シンプルな仕組みですが、里山地域(中山間地域)に存在する課題を解決する新たなアプローチとして、2012年に公募された「ちば元気ファンド」では17団体の申請のうち最高の評価を受けて、パンフレット制作費や草刈り機等の費用に助成が決定しました。

隊の中でチェーンソーや刈払機の自主講習会
も行っている

今後の展望

“始まってまだ3年目ですが、徐々に知名度もあがって仕事が増えてきています。いずれは若い人が移住を考える時のお試し期間の仕事だったり、移住した人の本業に対する副業のような感覚で生活を支えられるといいですね。そして最近になって鴨川の社会福祉協議会から連絡を頂いて、連携をする動きもでてきています。介護医療の観点からも、保険適用外の高齢者の生活を支える取り組みが必要になってきているようですね。今後行政とも力を合わせてより一層地域に貢献できるといいなと思います。”

ガーデンにラベンダーを植栽する里山生活お助け隊

池田さんらが現在模索しているのは、「里山生活お助け隊」の仕事を利用して若い人達の移住につなげていくこと。空き家も多く安い家賃で借りられるため、少しの生活費さえ稼げれば十分暮らしていける里山にて、お試し移住のような仕組みを設けることができないか検討中です。この活動の発端は、広い視点からみれば若年層の流出が大きな課題となっている中山間地域であり、高齢者をサポートする活動が新たな移住者を受け入れる可能性につながれば、里山に再び人が入り地域の活性化に寄与することができでしょう。

「やっぱり基本は草刈りですね」と笑顔で語る池田剛さん

また、中山間地域での医療、介護、福祉の抱える課題でも隊の活動が注目されつつあります。医療費が国庫を圧迫している日本では、今後高齢者における制度がどのように変化していくかわかりません。そんな時代にあって、「里山生活お助け隊」は、シンプルながら里山での暮らしをめぐる課題の変化に柔軟に対応できる業務形態です。当初目的としていた「資源の再利用」も含めて事業が拡大し、人も資源も循環するような理想的な里山の未来に向けて今後も取り組みを進めていってほしいと思います。

文:東 洋平