ローカルニッポン

~「ふくしま本の森」が始動~


震災の年の6月、岩手県遠野文化研究センター(赤坂憲雄所長)で始まった三陸文化復興プロジェクトでは、2015年までに20万冊の献本活動を続けてきた。しかし、拠点としていた工場の返却期限を目前にして、約4万冊の本が行き場を失いかけていた。

福島県立博物館の館長も務める赤坂憲雄氏からの呼びかけで、この本を福島県で受け入れ新たな活用を模索するために、仲間たちと遠野の本の拠点を訪れたのは3月の半ばであった。無機的で薄暗い工場の、そこはまさしく図書館だった。思いがけない良書も次々に目に飛び込んでくる。仲間たちは感嘆の声を上げていた。そして、この本たちを福島に移して、これまでの献本活動の意志を引き継ぎたいと誰もが感じていた。

それから1ヶ月、3万8千冊の本を受け入れられる場所は簡単にはみつからなかった。

「ふくしま本の森構想」の夢が、おぼろげに宙を漂っていたある日、偶然すれ違った知人の導きで、突然受け入れ場所が決定した。福島県河沼郡会津坂下町にある8年前に廃園になった幼稚園である。背後に森を従えたのどかな幼稚園は、園児たちの目線に合わせたやさしい空間だった。さらに、本の重量にも耐えられる頑丈な造りだ。

それからの動きは怒涛のような流れとなった。

本を仲立ちにするというだけで、たくさんのサポーターが時間と労力を惜しみなく提供してくれた。8年分の掃除とごみ処理が済んだところに運び込まれたのは、800個の段ボールと20本近い大型の書架、ストーブ、机等々。11トントラック2台と4トントラック2台分のこれらの荷物は、ともかく幼稚園内に収まった。

開封して再分類し、一冊ずつスタンプを押して書架に納める作業は、思った以上に時間を要した。ほとんどが土日の作業である。

この開封作業は更に多くの仲間たちを増やしていった。史書の仲間が加わると、作業は一気にグレードアップした。専門家の目は、無駄や必然を瞬時に見極めて的確な方向を指し示してくれる。夏のさ中の重労働を続けながら、仲間たちの誰もが活き活きと輝き、いつの間にか家族のような連帯感が生まれていた。

運び入れた書架も新たに買い求めた本棚もたちまち一杯になると、史書の仲間はためらうことなく「ダンボールを書架に」と指示を飛ばした。やがて、幼稚園のすべての床スペースは本で埋め尽くされた。

光が燦燦と入る「あかぐみ」の部屋は、絵本や児童書を回りに配置したキッズルーム兼イベントホール。隣の「あおぐみ」は総記・哲学・歴史が並び、お遊戯室だったホールには、芸術・言語・文学が収められた。廊下にずらりと並んだダンボール書架には、各種全集や大型本。予備室にはまだ未開封のダンボールが積まれている。やがてここは日記や書簡、紀行、記録・ルポルタージュが収められる予定だ。職員室をカフェにしようと張り切る仲間もいる。

「ふくしま本の森」が掲げた願いは、未だ震災の被害と原発事故の影響が色濃く残る福島県を、本で一杯にしようという夢のような構想である。商店街に本が溢れる街角図書コーナー。子どもたちが集まる一般家庭のキッズ図書室など等。町を歩けば本に出合える福島県を目指して、様々な場所で自由に本の貸し出しが出来る小さな「図書館」をたくさん創ろうとする活動はこうして始まった。

「ふくしま本の森」では、多くの方々に気軽に本を読んでいただくために規約やルールはあえて作らず、自由に本に触れていただくことを願っている。人から人へと読み継がれていくとしたらとても素敵なことではないか。「ふくしま本の森」のすべての本は、多くの方々と共有させていただくもの。本が自由に旅をするためにも、返却を不問とした。本たちの祝福された旅立ちと、豊かな旅の物語が積み上げられることを願うからだ。

ここは本の基地。旅の途中の本が、一時寄港した港である。本たちの旅立ちを促すように、小さな図書館はすでに7箇所で開所が決まっている。

ホール

平成27年9月26日。「ふくしま本の森」はようやく正式なオープンの日を迎えた。

この日、「縁の下の力持ち隊」を自称してきた仲間たちを中心にささやかなオープニングイベントが計画されていた。これまで関わってきた多くののサポーター、地域の方々、興味を持って訪ねて来てくれた本好きの方々への感謝のイベントでもあった。

8年ぶりに調律されたピアノの弾き語りで幕が開き、赤坂憲雄氏の記念の講話では、震災からの経緯と、本を信じること読む力の大切さが語られた。その後に展開されたテラスでの懇親会は、宮沢賢治の詩の世界を彷彿とさせるような光景を生んでいた。イベントの始まりから点されていた木製の灯りが、本たちの新たな旅立ちを願うたくさんの人々の思いを照らし続けている。本たちの新たな旅を祝福する灯りだ。

3月からオープンまでの怒涛のような流れは、偶然に偶然が重なるように道が拓かれて来た。今、振り返ってみると、あらゆることのすべてが完成パズルのパーツだった。本の森に関わってくださる方々は、生き続けたいと願うあの4万冊近い本たちが呼び寄せた方々なのだった。本たちが生かされるための旅が始まった。

文:奥会津書房 遠藤由美子