ローカルニッポン

オーガニック製品の輸出入と製造で世界と南房総をつなぐ/ムファウメ薫さん

過疎化が進む地域を活性化するために、移住者や帰郷者への雇用創出は重要な課題となりますが、ここ南房総では時代の変化を見据えた「起業」の気運も高まっています。今回ご紹介するのは、父親はタンザニア人、母親は日本人で、日本に生まれイギリスで育ち、2011年から館山で生活しながら2つの会社を立ち上げたムファウメ薫さん。ムファウメさんはどのような志をもって南房総で事業を始めたのでしょうか。

オーガニック商品の輸入代理店

2011年に館山市に移住してから、精力的に活動を続けているムファウメさんですが、その経緯については後段に譲り、まずは今年に入って設立した新会社の事業内容について聞いてみましょう。

“数年かけて計画してきたことですが、今年「グローバルオーガニックグループ株式会社」という新会社を立ちあげました。共同創業者であるスコットが兄とともに約40年の歳月をかけて作り上げてきた87品目のオーガニック化粧品を日本に輸入することを事始めに、今後アジア・ASEAN諸国を視野にいれた製品のブランド管理や製造のコンサルティングを行っていく予定です。”

ムファウメ薫さん

「グローバルオーガニックグループ株式会社」が取り組んでいる新事業は、世界中で契約栽培を行うオーガニック農家の生産物を使用した100%植物由来の美容やセルフケア製品を輸入し、さらに新商品の開発から販売を行うこと。昨今日本でも「オーガニック」をキーワードとした商品が各分野で生まれつつありますが、ムファウメさんの行う事業の狙いはどこにあるのでしょうか。

オーガニックをより身近なものに

“「オーガニック」というと、日本では「高価」とか「本当に身体に良いの?」という疑問やある種の固定観念があり、注目は受けてもマーケットとしてはごく一部に限られているのが現状です。そこで私達が取り組んでいることは、リーズナブルな価格でデザイン性に優れ、また認証や科学的検証にこだわった信頼ある製品をストーリーと共に紹介することで、日本の消費者により身近な存在としてオーガニック製品を提供することです。”

フルーツの幹細胞を利用したAndalou製品
の数々

生産者、消費者相互に学び合うこと

“もちろん、オーガニック農業では大規模に生産することが難しいため、販売価格が高くなってしまうことにも一理あります。ただ、生産方法を改善することで手のかからない生産を行い、経済コストと環境コストを下げる取り組みも世界中で始まっています。パーマカルチャーが一つの例です。一方で、何気なく使用している製品が、どのように製造されているのか、またその効果について曖昧な知識に基づいて商品を選ぶ消費者も多く見受けられます。生産者と消費者が互いに学び、連携することで、オーガニック市場が広がり、身体と地球環境に良い循環社会に少しでも貢献できたらという願いがあります。”

冬期にも水をはる冬期湛水不耕起栽培にて
米作りを実践

耕作放棄地を開墾して、畑や田んぼとしてパーマカルチャーを実践するムファウメさん

ムファウメさんが自身も館山にてパーマカルチャーを実践する中で感じてきたことは、オーガニックといってもビジネスである限りは、徹底的にコスト計算や労働の効率化を行わねばならないということ。共同創業者のスコットさんや様々な出会いから、欧米ではすでに進んだ農法によってオーガニック産品や製品が定着しつつある中、日本でも改革を進めたいとの思いで新事業が始まりました。

映像制作と会社経営に明け暮れた20代

そんなムファウメさんは、7歳からロンドンで教育を受け、19歳でイギリスのレコード会社アイランド・レコードに就職。会社に日本のアニメを輸入し、制作も行う映像事業部が立ちあがると、この事業部を担当したことがその後の人生に大きな影響を与えました。

“日本語ができたことも関係して、新規事業となる映像事業部ではライセンスなどの管理を任され、その後この事業部から生まれた新たな会社「Manga Entertainment」では代表取締役を務めることになりました。若くして評価されたことが有り難く、仕事に明け暮れましたが、事業の買収や売却、労働と関わりのないところでお金が動いていくことへ次第に疑問が募り、数年悩んだ末に退社する決断をしました。”

事務所が入居するシラハマアパートメント1F
カフェにて(左:共同創業者スコット・エジド
さん)

世の中や地球環境へ貢献したい

“そこからは長いことアメリカやヨーロッパでちょこちょこ仕事して、休暇を日本で過ごす生活を送りながら自分に何ができるのか自問していました。単にお金を稼ぐだけではなく、世の中や地球環境にとって良いサイクルを作り出すビジネスをやりたかったのです。サーフィンを通じて館山と出会い、ちょうど2011年の3月9日に引っ越しの準備が完了したところ、東日本大震災が起きました。この未曽有の災害を前にして、様々な迷いが消え去ったことを覚えています。もうやるしかないってね。”

20代でM&A(企業の合併買収)をはじめとする会社経営を経験したムファウメさんは、人々の健康や社会のあり方、そして地球環境など大きなテーマにて、より良い循環を生み出す新たなビジネスを模索し、31歳で人生を仕切り直すことにしました。その後館山へ移住する時に起きた東日本大震災で「Arigato Blueprint」(Tシャツの販売による被災地支援)を始めますが、同時にそれまでのアイデアを実行に移し、起業を決意するのです。

国内外から東日本大震災への支援を集めた
Arigato Blueprint

南房総の可能性

“移住してすぐに、千葉市の駅前にオーガニックカフェを出店しました。第二子が生まれたこともあって、拠点を南房総に集中するため昨年お店は閉じましたが、この時に多くの仲間と出会えたことは今の宝です。スコットともよく話しますが、東京からほど近い南房総は、海と里山の自然に囲まれ、仕事をするには最高の環境で、いずれアメリカのシリコンバレーのようにスタートアップ企業や起業を志す人々が集まる地域になるのではないでしょうか。僕らも地域に眠る独自の資源を活用して商品を作ること、そして世界と地域を結びつけることで、この地域を盛り上げていきたいと思っています。”

事務所として利用しているシラハマアパートメントの目の前には開放的な海が広がる

南房総の白浜に事務所を構え、今年10月に厚生労働省の化粧品製造許可を取得したグローバルオーガニックグループ株式会社。現在、商品の販売に関する教育プログラムを作成しており、来年からはいよいよ量販店との契約を開始するとのこと。イギリス、アメリカでのビジネス経験を経て、南房総から世界に向けた事業を展開しようとするムファウメ薫さんの挑戦は、立地や自然環境に恵まれた南房総の可能性を感じさせるお話でもありました。

文:東 洋平