ローカルニッポン

全国に広がる自然とコミュニティーによる保育活動/森のようちえんはっぴー

「森のようちえん」という全国ネットワークをご存知でしょうか。より多くの乳児・幼少期の子ども達が、より質の高い自然体験の機会を得られるよう社会づくりを推進する全国規模の団体です。今回は、このネットワークの立ち上げから普及に取り組んでいる沼倉幸子さんにより南房総で創設された野外保育「森のようちえんはっぴー」が、昨年一般社団法人となり、今年6周年を迎えることを期に、野外保育という乳幼児教育をご紹介したいと思います。

自然公園で伸び伸び駆け回る子ども達

取材に伺ったのは、「森のようちえんはっぴー」(以下「はっぴー」)が日常活動の拠点としている南房総国定公園大房(たいぶさ)岬。待ち合わせ場所「海岸公園」に向かうと、到着間際に大勢の子ども達が大房岬を走るランナーを応援する賑やかな声が聞こえてきました。

大房岬でマラソンの練習を行う大学生にハイタッチする「森のようちえんはっぴー」の子ども達

“明日が卒園式なので、今日は思い出の遊び場所を全部回って挨拶しよういうことで、朝から大房の中を駆け巡っているんですよ。2歳児の星の子クラスが修了式を行っている運動園地から出発して、芝生園地、展望台などおよそ40haある岬をぐるっと一周してきました。子ども達は毎日ここで歩いているので足腰が強く、たまに同行する大人が先に参ってしまうほどです (笑)。”

野外保育とはその名の通り、大雨風や雷の日を除き屋内ではなく外で保育活動を行うということ。「はっぴー」の子ども達は毎日朝9時頃大房岬に集合して、朝の会をしてから各園地で様々な遊びを楽しみ、お昼に木の下で家族が握ったおにぎりを食べて、午後一通り遊んで絵本を読んだ後、帰宅します。

“外で目一杯遊んでいて、とても自由には見えますが、「はっぴー」の子たちは3歳から5歳までみんなで過ごし、スタッフも大人ではなくフラットな立場で接するので「自由の中にある責任」を自分達の力で身につけていきます。判断の善し悪しを押し付けず、何でも経験して話し合っていくことで、社会性を身につけることも「はっぴー」の教育方針で大切にしていることです。”


森のようちえん第一回フォーラムから

このように語る沼倉さんが「森のようちえん」と出会ったのは、千葉市の私立幼稚園で11年勤務したあと幼稚園教諭の職を離れ、東京にある自然学校で働いていた時のことでした。

“2005年に知人の紹介で「森のようちえん」第一回フォーラムに参加すると、ドイツで広がっている活動の映像、そして日本で始まっている団体の事例発表を前にして衝撃的な感動を覚えました。以前幼稚園で勤めていた頃に悩んでいたことへの答えが、すべて詰まっているように感じたんですね。ただ、その時は自分が始めたいというよりは、この活動をより多くの人に知ってもらいたいという気持ちが先行していました。”

「はっぴー」代表 沼倉幸子さん

野外保育「森のようちえん」は20世紀中頃の北欧諸国で生まれました。環境問題や都市化による子ども達の自然離れが指摘される中で、持続可能な社会を推進する教育の一環として広がり、日本でも取り組みを実践する人が現れました。そこで2005年に開かれたのが第一回フォーラム。

2005年から毎年開催されている全国交流フォーラム 指導者養成講座や「森のようちえんカフェ」などの学ぶ場も提供している

“一緒に同行した自然学校の上司に「私、この活動を広めたいです」と伝えると、自然学校に在籍しながら「森のようちえん」のホームページを管理させてもらえることになりました。その後すぐに有志で全国ネットワークを立ち上げ、普及に取り組むようになってかれこれ10年になります。その間、北海道から沖縄まで全国に「森のようちえん」の理念を共有する団体が立ち上がり、現在159団体が活動しています。”

南房総へ移住

東京の自然学校で働きながら「森のようちえん」全国ネットワークの運営委員となった沼倉さんは、2008年都会から田舎へ移住することにしました。選んだ先は南房総館山市。

館山市の沖ノ島の海岸で遊ぶ「はっぴー」の子ども達(7月)

“夫がインターネットさえ繋がればどこでもできる仕事をしていたこともあって、2008年自然豊かな南房総へ引っ越すことにしました。2~3年観光ばかりしていたのですが、館山市神余(かなまり)の山奥、千倉のおんだら山、また大房岬などを訪れると、あれ?この地域、野外保育にぴったりなのでは?と思うようになり、2011年に3歳児を11人預かることから「はっぴー」がスタートしました。”

森のようちえんはっぴー

海に囲まれ、森林生い茂る大房岬を中心に野外保育を行う「はっぴー」は、季節や保育内容によって地域内の様々なフィールドで野外保育を行っています。その1つの事例として「食育」についての活動をご紹介しましょう。

毎年南房総市の有機農家八木農園の田んぼで開催される田植え(5月)

“毎年5月に南房総市三芳の有機農家八木農園さんの田んぼで、もち米の田植えをします。そして6月の末に田んぼの除草を手で行うのですが、この時八木さんが除草の方法そして、なぜ除草するのかについて丁寧に教えて下さるんです。その後9月に収穫した稲を干し、11月に収穫感謝祭と題してもち米をついてみんなで食べます。”

“現代、食べ物ができるプロセスを知らない子どもがますます増えていると言います。そのため、食に対して有り難みが薄くなることも無理もないことです。しかし、こうして田植えから口に入れるところまで一連の流れを体験すると、今まで風景の一部だった田んぼが、子ども達にとって「米だぁ~米だぁ」とお米のできる場所に変わっていくんですね。五感で受けた作業の感覚が米の質感となり、また作ってくれた人の顔を浮かべることで、自ずと感謝の心が芽生えるのではないでしょうか。”

野外保育とは、運動や感覚機能の発達を促すだけでなく、自然の理を五感で体験して情操を養うことでもあります。田植え体験、稲刈り体験と個々の体験学習が一般的ですが、田植えから収穫、加工して食べる一連の流れを体験するのは「はっぴー」ならではの保育。また様々な保育活動を通して地域や人と積極的に関わっていくことも、社会性やコミュニケーションを学ぶ良い機会となります。

年間の作業を経験した上で収穫を祝う感謝祭の様子(11月)

全国に広がる森のようちえん

さて、2011年に始まった「はっぴー」も今年4月で丸5年。沼倉さんは今後の「森のようちえん」についてどのように考えているのでしょうか。

“野外保育に対する社会の受け止め方は年々変化しており、自治体によっては助成金を出して「森のようちえん」を移住促進に繋げているところもあります。「はっぴー」も始めた当初から30名が限界かな?と思っていたところ今年は27名の園児数となり、これ以上大きくすることは今のところ考えていません。「森のようちえん」は、大きな施設を必要としないことからお母さん達の自主保育など多様なスタイルで運営が可能なので、これからも各地域で拠点が増えていくといいですね。”

はっぴーの子ども達は木登りが大好き

テレビやゲームといった屋内での遊びが主流となり、自然体験が減ってきているという子育て環境において、自然の楽しさを五感で感じ、創造的に学ぶ「森のようちえん」の保育は、自然との共生を念頭に置く保護者の考えと調和して各地に広がっているようです。近くに「森のようちえん」がない地域では、指導者養成講座や「森のようちえんカフェ」などの学習の場に参加してみてはいかがでしょうか?

文:東 洋平