ローカルニッポン

古民家の補修と交流による結いの場づくり/NPO法人おせっ会


その後の人生に大きく影響する地方への「移住」という選択にあたって、念入りな移住相談と地元住民への橋渡しで評価の高い館山市の移住促進団体NPO法人おせっ会。「移住」という枠の中には、家や仕事の紹介だけでなく雇用の創出、空き家の活用など幅広いテーマが関わっていますが、NPO法人おせっ会では昨年から古民家を補修して交流拠点にしようという企画が進んでいます。この活動をご紹介します。

結いの家 六郎右衛門

館山市の神余(かなまり)地区、創建804年にして数少ない雨乞いの伝統行事「かっこ舞」が残る日吉神社の裏手に位置するのが、NPO法人おせっ会が補修を続けている『結いの家 「六郎右衛門(ろくろうえもん)」』。地域の名家によって関東大震災以降建て直され、味噌などを作る糀(こうじ)屋が営まれていたという古民家です。「結いの家」というネーミングにはどんな思いがあるのでしょうか。

NPO理事長八代健正さん: “「結(ゆい)」とは、古来日本の農村共同体にあった相互扶助の精神です。南房総での暮らしは、豊かな食や自然に囲まれて心身共に癒される一方で、もちろん都会とは異なるため不便や予期しないトラブルに見舞われることもあります。そこで、移住者や移住を希望している人々が集い、体験をシェアしたり、移住後に助け合うことのできる場所として「結いの家」の構想が立ち上がりました。”

NPO法人おせっ会理事長八代健正さん

NPO法人おせっ会理事長八代健正さん

2015年夏から補修活動がスタート

“おせっ会理事の原田が、2014年秋に個人的に竹藪掃除をしたこの古民家の話が持ち上がりまして、早速中を見せてもらうと、青大将とネズミが追いかけっこ (笑)。竹藪に囲まれ、畳もボロボロの状態でしたが、原田が古民家を利活用したい思いと「結いの家」のコンセプトが一致して、それでは補修から多くの人に関わってもらおうと2015年夏から本格的にNPOの事業として始まりました。”

竹藪だったという庭は、手入れが進み野菜が植えられている

竹藪だったという庭は、手入れが進み野菜が植えられている

「六郎右衛門」とかつて屋号で呼ばれた古民家は、空き家となってからは庭には竹や草木が生い茂り、家の中はひどく傷んでいました。その状態から2014年に原田さんが管理をはじめ、2015年夏から八代さんらNPOスタッフが参加し、秋から数々の企画が開催されてきました。

NPO活動が地域住民との交流の場へ

-移住体感ツアー:ときどき館山暮らし共同組合-

11月7日から1泊2日で企画された移住体感ツアー1日目は「六郎右衛門」にて壁塗りや障子貼り等、古民家暮らしの実践的テクニックの指導がありました。タイトルからもわかるように南房総にて2地域居住を始めようとしている人々向けのツアーに募集定員となる16名が参加し、地域住民や地元小学校PTAの協力のもと地元神余産の食材による料理を食べながらの交流にもなりました。以後古民家補修ワークショップは月一度の頻度で開催されています。

移住体感ツアー:ときどき館山暮らし共同組合

-餅つき大会-

「六郎右衛門」の修復に関わった仲間で、年末に餅つき大会を開催しようと原田さんを中心として準備をしていたところ、ご近所のお婆ちゃんが準備の不手際を見かねて手伝いにきました。そこで話し合うと地域にとっても空き家が管理されて環境が良くなったことがわかり、NPOが目指している「結いの家」についても理解が深まったことによって、これ以降近隣の住民も親しく協力してくれるようになったとのこと。

餅つき大会

-小学生のお別れ会-

PTAの繋がりで神余地区に隣接する神戸地区小学校の児童と保護者が、「六郎右衛門」にて転校する小学生の送別会を開催しました。田舎に住んではいても、補修中の古民家に入ることはほとんどない子ども達にとって「六郎右衛門」は絶好の遊び場。鬼ごっこやかくれんぼ、庭の焚き火で焼き芋を作るなど、昔ながらの遊びに熱中して楽しみました。

小学生のお別れ会

-個展とヨガ教室の開催-

地元業者の協力で中古の畳が寄付され、壁塗りや襖・障子の補修が進んだ「六郎右衛門」にて、2016年3月19日から3日間館山にUターンした染物士による個展と移住者ヨガインストラクターによるヨガ体験会が開催されました。古民家を利用した初めての一般向け企画となりましたが、予想以上の来場者が訪れて補修中の古民家を見学しました。さらに、この企画によって4月から毎週木曜日にヨガ教室が開かれることになりました。

個展とヨガ教室の開催

プロジェクトリーダーの思い

さて、すでに定期的な活用も始まりつつある『結いの家 「六郎右衛門」』ですが、プロジェクトリーダーである原田浩一さんに、これからも長く続くと予想される補修作業に関し、その原動力となる思いを聞いてみました。

“もともと、千葉県夷隅(現いすみ市)に父の家がありまして、その古い家で小さい頃遊んでいた記憶が強く印象にあったのか、昔から古いものが好きだったんです。船橋で不動産の仕事をしていた時に、館山に転職したことがきっかけで17年前に移住したのですが、古いもの好きが高じて鴨川の古民家を移築して館山に建てるなど、段々とその魅力に入りこんでいきました (笑)。”

プロジェクトリーダー 原田浩一さん

“今回の「六郎右衛門」に関しても、なぜそんなに奉仕活動しているの?と聞かれれば「趣味だから」というのが第一の理由ですね。ただ、「結いの家」として補修が始まり、地域の人やイベント参加者と触れあう中で、古民家の補修がそれぞれの人に良い機会をもたらしているなぁと実感するにつれて力が入っているのは確かです。中でも、最初1人で管理し始めた時は「何者かなぁ~」とじっと様子を伺っていた地元の人たちが、移住体感ツアーや餅つき大会を経て活動を応援してくれるようになったことは涙!ですね。”

移住体感ツアー「ときどき館山暮らし共同組合」1日目夜の交流会には地元住民だけでなく、市内の移住者も集まり経験を語った

移住体感ツアー「ときどき館山暮らし共同組合」1日目夜の交流会には地元住民だけでなく、市内の移住者も集まり経験を語った

古民家補修や里山暮らしを通して日本の文化を学ぶ場所にしたい

“この地域でもつい最近まで、茅葺屋根の補修など集落での共同作業が残っていたといいます。もちろん、生きていくためにお金は必要なものですが、「結い」という言葉にもあるようにお金には換算できない人間本来の価値観、もっといえばここが「文化」を学ぶことのできる場所になったらいいですよね。当面の目標は、糀屋さんだった頃に復元して目の前の田畑を開墾し、自分達で味噌や醤油、米、野菜を自給するDASH村(笑)みたいなことをやってみたいと思っています。”

かつて味噌などを仕込んでいた蔵の跡地 手に持った陶器のようにいずれ蔵に磨きをかけて再利用したいと原田さんは語る

かつて味噌などを仕込んでいた蔵の跡地 手に持った陶器のようにいずれ蔵に磨きをかけて再利用したいと原田さんは語る

時間を見つけては自主的に『結いの家 「六郎右衛門」』の補修活動を進める原田さんの動機は、日本に古くからあった助け合いの文化を学ぶ場所作り。もちろん自分で古民家補修や食糧の自給を体験したいという思いが発端ですが、地域住民との関わりや小学生の遊び場といったイベントを通して、古くから田舎に伝わる日本文化の大切さをより一層感じるようになりました。これからも古民家の補修や、古民家を利用した企画を通して今後の田舎暮らしに必要とされてくる助け合いの場を築いていってほしいと思います。

文:東 洋平