ローカルニッポン

自然の中で人の生き様と出会うグリーン・ブルーツーリズム/NPO法人千葉自然学校


昨今旅行者のニーズが多様化し、農山漁村の自然、文化、人々の暮らしと直接触れ合う「グリーンツーリズム」や「ブルーツーリズム」が注目されています。南房総の東京湾に突き出た大房岬にて、年間を通して数々のプログラムを実施しているのがNPO法人千葉自然学校。今回はNPOの活動内容や「南房総市大房岬自然の家」所長神保清司さんのお話から、この旅の魅力と可能性に迫ってみたいと思います。

NPO法人千葉自然学校

千葉県内の活動団体が連携して、幼児からシニアまで幅広い年齢層に向けた自然体験を行うため、2003年に設立されたのがNPO法人千葉自然学校。会員校35校と連携した事業のコーディネートやイベントを開催しつつ、「千葉県立大房岬自然公園」、「南房総市大房岬自然の家」や「千葉県立君津亀山少年自然の家」を指定管理者として運営しています。

“南房総市大房岬自然の家には学校の団体利用や一般利用を合わせて年間約18,000人の宿泊客を含む約30,000人の利用客が訪れています。千葉県立大房岬自然公園は総面積40haで全長2キロメートルの南房総国定公園で、海や森の自然を凝縮して楽しむことができます。ただ広大な敷地のため、管理するのは大変な作業で(笑)、定期的に千葉自然学校スタッフみんなで一斉に芝刈りや森林整備を行っているんですよ。”

神保清司所長

神保清司所長

指定管理者制度内で自立運営

通常、自然公園や施設は公募によって指定管理者が選ばれ委託料を受けて事業を実施しますが、NPO法人千葉自然学校は「南房総市大房岬自然の家」を行政からの管理運営費を受けずに自立運営しています。

“今やどこの地方も財政的に厳しい状況ですから、費用対効果の少ない公園や施設は閉鎖する傾向にあります。特に自然公園は法律上利用料金などが比較的安く設定されており、全国的に減少しているのです。それでもやはり、県内外から集まるこうした子ども達の自然体験の場をなくしてはならない。そんな思いから、学校教育でもそれぞれのニーズに合わせてプログラムを組むほか、年間40本ほどのイベントを企画して、施設や公園を維持管理しています。”

大房岬 写真提供:南房総市

大房岬 写真提供:南房総市

NPOが主催する海・里山のディープな自然体験

それではここでNPOが主催するイベントや取り組みのいくつかをご紹介しましょう。

-夏に目白押しの子ども向け冒険キャンプ-

子ども向け冒険キャンプ

毎年初夏から秋にかけては親子で参加できる数々の内容の異なったキャンプが開催されます。カヌーや釣りなどワクワクする体験から昆虫・植物・星空の観察まで様々なプログラムを盛り込みながら、海や川、森から食材を調達し、自ら火をおこして炊飯するなど生きるための術を経験します。子ども達にとって冒険の場となるむき出しの自然を舞台に、専門家の指導のもと「センス・オブ・ワンダー」を活性化することも大きな目的です。

-古民家「ろくすけ」で里山暮らし-

古民家「ろくすけ」で里山暮らし

NPO法人千葉自然学校は2004年から千葉県南房総市平群に残る数少ない茅葺きの古民家「ろくすけ」を借り受けて、地域住民と協働で、収穫体験や伝統的な郷土料理による食育を行う、都市農村交流と地域活性化を目指す里山暮らしのプログラムを実施しています。NPOが2008年から受託している「ヤックス自然学校」のキャンプでは、古民家「ろくすけ」の裏庭にツリーデッキを建てるなど、様々な自然体験活動の拠点となっています。

-南房総ロングトレイル-

南房総ロングトレイル

ロングトレイルとは、「歩きながら地域の自然や文化を楽しめる長距離の道」のこと。NPO法人千葉自然学校主導のもと房総半島南端の白浜から和田に至る35kmのコースが結ばれており、いずれ南房総をぐるりと周る全長100kmのコースが予定されています。南房総には昔から「低名山」と呼ばれる標高の低い散策に適した山や古道が残っており、この道を歩くことで自然・歴史・文化・生活に触れるエコツーリズムを推進しています。

人の生き様に出会う旅

南房総市大房岬自然の家所長の神保清司さんは、NPOで働く以前は富士山の麓にあるホールアース自然学校にて約5年間インタープリター(自然解説員)として働いていたベテランの自然ガイド。現在南房総全体をフィールドにしたグリーン・ブルーツーリズムを企画する中で、ここでの旅にはどんな魅力があると考えているのでしょうか。

火をおこ着火材を作るため、小学生に鉈(なた)の使い方を指導する神保所長

火をおこす着火材を作るため、小学生に鉈(なた)の使い方を指導する神保所長

“ホールアース自然学校には「雑用大事主義」といって、田舎の雑用ができなければどんなに良いガイドをしても未熟者とみなされる慣習があったんですが(笑)、そんなことで田舎のおじいさんおばあさんから竹の割り方、ロープワーク、刃物の使い方と伝統的な知恵を沢山学びました。自然環境の中で自然と対峙して生き抜いてきた昔の日本人には、海や山に関わらず、必ずと言っていいほどこうした技術が受け継がれてきたわけです。”

“そこで改めてグリーンツーリズム、ブルーツーリズムって何だ?と考えた時に、広く言えば農山漁村での「人の生き様」に出会う旅なのではと思うんですよ。僕らも自然体験を指導していますが、自然と人との付き合い方、もっと言えば「生きる力」を伝えることなのではないかと。都市近郊ではもはや田舎の農家さんや漁師さんのような人はみられなくなっている中で、単に自然を感じるだけでなく、「人」をテーマに旅をしてみると新しい発見があると思います。”

岩場のタイドプール住まう生き物の観察

岩場のタイドプールに住まう生き物の観察

南房総の優しい自然環境を生かした活用を

“南房総は、都会とも程良い距離があり、海も穏やかで山も低く優しい自然環境が揃っています。格別な装備も必要なく、海や川、里山とほぼすべての自然体験ができるのです。そんなことから最近は森林セラピーなど、医療や福祉との関連性のあるプログラムの依頼を受けるなど新たな展開も迎えています。観光、教育、福祉、医療と多くの切り口があると思いますが、自然を地域の「宝」として守るだけでなく活用していくことが、この地域の活性化に繋がると考えています。”

千葉県立大房岬自然公園で団体の要望に応えた数多くのプログラムを企画するNPO法人千葉自然学校のスタッフ

千葉県立大房岬自然公園で団体の要望に応えた数多くのプログラムを企画するNPO法人千葉自然学校のスタッフ

南房総では千葉県立大房岬自然公園や古民家「ろくすけ」という拠点を管理しながら、数多くのグリーンツーリズム、ブルーツーリズムを企画するNPO法人千葉自然学校。南房総は、他地域と比べて初心者でも入りやすい自然環境が揃っており、自然と共生する「人」と出会う最適の地であるという神保清司所長のお話でした。社寺仏閣、景勝の地として観光で栄えてきた南房総ですが、都会の人々がこの地の「人の生き様」と出会うことで、新たな交流が生まれることを期待します。

文:東 洋平