千葉県は、変化に富んだ海岸線に囲まれる半島地帯。中でも南房総は東側を太平洋に、西側を東京湾と接し、海の表情や日の出日の入りが東西に分かれ、様々な人の暮らしや文化が育まれてきました。そんな南房総館山の海岸線で昨年9月から始まったのが「北条海岸BEACHマーケット」。館山市の海岸線独自の魅力を発信するイベントの内容や地域活性化との関わりについて本イベントを企画する館山市海岸活性化プロジェクト推進協議会会長の小割洋一さんにお話を伺ってみたいと思います。
波静かで海越しの富士山を望む館山湾
“南房総はサーフィン発祥の地ということもあって昔からサーフィン文化が根ざしていますが、鴨川や和田、千倉、館山の平砂浦海岸、と主に太平洋に面する海岸線がスポットです。一方で東京湾に面した館山湾は岬に囲まれていることから波が穏やかな日が多く、サーフィンとは一味違う海の楽しみ方に恵まれた環境にあるんですよ。”
館山湾は、波静かで鏡のように景色を映し出すことから別名「鏡ケ浦」と呼ばれ、海岸線から海越しに富士山を眺めることができ「日本百景」「関東の富士見百景」として古くから景観が親しまれてきました。この館山湾の北条海岸にて開催されているのが「北条海岸BEACHマーケット」。それではまず、このイベントの柱となるコンテンツをご紹介しましょう。
北条海岸BEACHマーケットのコンテンツ
-北条海岸を存分に楽しむマリンスポーツ-
“穏やかな海をフィールドにしたSUPやアウトリガーカヌー、シーカヤック、ウィンドサーフィンなど個々に体験メニューをもった店舗が集まり、初心者向けに比較的参加しやすい料金で体験会を行っています。その他、海をバックに芝生の上で行うビーチヨガも人気で、次回7月からは館山湾内1周のクルージングを開催してくださる団体も出てきました。今後釣りやビーチバレー、サッカーなど海岸線を目一杯楽しむ様々なスポーツが一日に集まる日にしたいと考えています。”
大きなボードの上で海面を移動するSUP(スタンドアップパドル)や数人で浮力体のついたカヌーを漕ぐアウトリガーカヌー、ダブルパドルで海上を周遊するシーカヤックなど、始めるには事前準備や訓練が必要なマリンスポーツの、備品レンタルも含めたレクチャー付き体験会を実施しています。
-地元新鮮食材のマルシェ-
“NPO法人南房総農育プロジェクトと南房総オーガニックの生産者による生鮮野菜の販売です。特にこのイベントでは安房(あわ)の地ならではの旬の食を楽しんでもらえるように南房総産の野菜を「安房野菜」とあえて称しています。海に囲まれた南房総は砂地が多く土質そのものも独特ですが、緯度の割に温暖な気候がバラエティの広い作物を育てるなどの特徴があります。また、近海で獲れた海産物の販売や浜焼きも始まるので、より一層南房総らしいマルシェを楽しんで頂けると思います。”
旧行政区域で安房と呼ばれた南房総は、海の幸、山の幸に恵まれた食材の宝庫。こうした伝統を背景に、農薬化学肥料を用いないオーガニック農家や持続性の高い農業を推進するエコファーマーが作る「安房野菜」と黒潮に育まれた海産物の販売を行うブースが出店します。
-南房総に限定したこだわりフード&ドリンクの出店-
“館山市の海岸線には素敵な飲食店やカフェが立ち並んでいます。また南房総一帯にはこだわりの加工品やスイーツ、ドリンクを提供するお店も増えてきています。無農薬レモンを使った本格的なレモネード、彩り鮮やかなホットドックなど、食材、レシピ、フードデザインと観点は様々ですが、地域内のこうしたクリエイティブなお店が出店して、都会から訪れたお客さんにも海岸線はじめ南房総の魅力を凝縮して知って頂く機会になればと思います。”
イベントでは地域にお店を持つこと、地域の食材を使っていることなど出店基準があり、出店には比較的厳しい審査があります。また日曜日にも関わらず海岸線で営業するカフェが出店していることもその特徴です。
館山海岸線の独特な魅力を集約して発信
北条海岸BEACHマーケットは5月から11月まで海水浴客の集う8月を除いて、毎月第一日曜日に開催を予定する開催頻度の高いイベントですが、イベントの目的はどこにあるのでしょうか?
“このイベントは、昨年に千葉県の事業として館山市が海岸の活性化に取り組んだことが発端となっています。その後館山湾の海岸線に関係する様々な団体に声がかかり、官民協働で館山市海岸活性化プロジェクト推進協議会が発足して海岸の活性化に向けた話し合いが続けられました。海岸を活性化するといっても、多額の費用で施設を建設したり、企業や業者を誘致することは現実的ではないので、まずは何より人に訪れてもらうことが必要なのではないかと。”
“ただ、人がどこかへ行く時には何らかの目的がありますよね。そこで館山海岸線の魅力に立ち返った時に、1つは館山湾だからこそできるマリンスポーツ、そしてもう1つが海岸線の飲食店やカフェに焦点を当てることにしました。マリンスポーツは少しハードルが高くとも、海岸線のカフェでゆっくりコーヒーを飲むだけでもこの海岸を感じるには十分です。これまで個々に知られてはいても、館山の海岸線でのまとまった協力、発信が十分にはできていなかったため、その役割を北条海岸BEACHマーケットが担うことになりました。”
イベントが商品開発や販売を実験する場
こうして海岸線の特徴を生かしたマリンスポーツ体験や地域内にある店舗の出店と広報によって海岸線の日常交流人口を増やそうと取り組む本イベントは、もう1つ重要なミッションを掲げています。
“イベントが集客を伸ばし、各出店者持ち前の商品で収益を伸ばすことが第一ですが、イベント運営側から出店者に積極的に働きかけて、より一層魅力的な海岸線を協働して創り上げることが最大の目標です。その具体的な方策の一つが新商品の開発となります。イベントのコンセプトに沿ってお店にはないメニューを創作頂き、出店者間で食材などのコラボレーションができれば理想的です。イベントならば比較的気軽に新商品を試すことが可能で、直接消費者から反応が得られるため、店舗で採用する前のテストマーケティングにもなります。”
美しく健康的なライフスタイル
協議会長小割洋一さんは、東京でIT企業の経営に携わった後、6年前に館山市に移住し2015年に海岸線にアウトドアフィットネスクラブ「SEA DAYS」を立ち上げました。本イベントは、お店を構想した時には頭の片隅にあったとのこと。
“この地域は、気候も人も温かくのんびりしていて、聞くところによると昔から転地療養の地だったといいます。実は僕自身、東京で仕事に熱中するあまり体調を崩して、南房総の地で癒された者の1人なんです。そんな実感もあって、都会の人が何を求めているのか、または都会の人にどんな影響を与えられるのか、地域の独自性に立ち返ってみることが、自然と活性化に繋がるのではと考えています。イベントのコンセプトは「美しく健康的なライフスタイル」。スポーツや健康的な食をテーマに、都会の人が羽を休めるような場作りに努めたいと思います。”
昨今、海水浴客の減少や地域住民の海離れから、多くの地域で海岸線の新たな活用策が検討されていますが、館山市海岸活性化プロジェクト推進協議会は「美しく健康的なライフスタイル」を軸に、都会に対する館山南房総の魅力を掘り下げ、イベントを実験の場として活性化の具体的な方策を練っています。この試みが、日々の海岸線の活性化、そして都会の人々の心身を癒す場として発展していくことに注目していきたいと思います。
文:東 洋平
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