ローカルニッポン

南房総で起業 / シラハマアパートメント 多田朋和さん

房総半島の最南端、南房総白浜。太平洋を南に向けて一望できる景色とゴツゴツした生の自然を両手いっぱいに感じられる場所。都心からそう遠くない立地で南国を感じる開放的な環境から、ここ最近注目が高まっています。この白浜に5年前に移住し、新事業を切り開いてきた人が、多田朋和さん。今回は、南房総での起業と今後の事業について多田さんにお話を伺ってみたいと思います。


関東最南端のCafé & Rooms:シラハマアパートメント

まだ移住者も少ない頃、千葉県の海岸線を渡り歩き物件を探していた多田さんが「一目惚れした」という建物が、現在の「シラハマアパートメント」です。すでにこの頃から、遊休不動産をリノベーションして新規事業を行おうと考えていた多田さんですが、何をやるのか内容については実はほとんど決めずに一宮、夷隅、長生を経て南房総を訪れました。そこで多田さんの前に忽然と現れたのが、元ホテルの社員寮として使われていた4階建ての空き物件。たまたまオーナーと知り合った多田さんは、この建物の中に入ってすぐにシラハマアパートメントの構想が浮かんだといいます。建物から事業の発想を得たところが面白いところです。

ここだと決めてからさっそく移住し、建物の掃除、補修、改装とすべて自分の手で行うこと約1年間、シラハマアパートメントがOPENしました。

多田朋和さん

カフェ店内

ゲストルーム(洋室)


シラハマアパートメントは、1階がカフェ、2階がゲストルームと学習塾のスペース、3階がシェアハウス5部屋、4階が多目的スペースとなっており、全フロアから海が一望できます。また何より房総最南端の野島埼灯台すぐそこ、ということで「関東全体の最南端」に当たる立地なのです。この点、黒潮の影響で温かい南房総のイメージと重なって、関東にいながら南国のカフェにきたような非日常感を満喫できます。建物の中も、椅子や机、置いてある雑誌から多肉植物まで、多田さんがクリエートした空間です。


起業への歩み

香川県高松市に生まれた多田さんは、大学への進学で千葉県に引っ越しました。学科はデザイン学科のプロダクトデザインコース。もともと小さい頃から物を作るのが好きで、家具職人になるのが幼少期の夢だったと言います。しかし、本人はすでにこの時から建築や内装に大きな関心があり、学生時代は設計事務所のアルバイトに明け暮れ、その時の経験が後に生きたと語ります。

「学生時代に、何という本だったか忘れてしまいましたが『建築がまちを変える』っていう言葉に出会ったんですよね。建築って内装も含めてストーリーがあって、建物を建てることに留まらず、その周辺や人、大きく言えば街全体に影響を与えあって存在してるって話に妙に納得したことを覚えています。」

こうして設計図を書く技術などをアルバイトから習得した多田さんは大学卒業後に内装会社に就職し、この業界で何社か転職しつつ看板や内装・建築の知識、経験を深める20代を全力で突き進むことになります。本人曰く「血尿のでる日々だった(笑)」ということで相当ハードなスケジュールで仕事をこなしていたようですね。


培った技術経験を生かして創業

「20代も終わりにさしかかる頃、身体を酷使していたこともあって、ふと都心で働く人々の癒しになるような場を作れないかと漠然と思うようになりました。そこで内装や建築の技術を生かすことができれば、この多忙な時代に必要とされる新事業を起こすことができるかもしれないと。そんなことで一度実家に帰って家業を手伝いながらあれこれ考える日々を過ごしました。」

目の前が海

何か自分で事業を起こしてみたいとの思いはありましたが、全力で仕事に向き合っている20代には「何か」を見極める時間はなかったようです。そこで実家の家業である不動産屋の手伝いをしていた期間(この経験も後に生きてきます)にこの問いに対して真剣に考え、再度心機一転、関東に戻ってきました。

家庭菜園スペース

「結局何をやるかはまだ漠然としていましたが、看板や内装の技術を生かした何かであることは確かでした。すでに大手の会社などが不動産の改装事業などを初めていた時期ですので、白浜という素晴らしい環境で拠点を構えることができたことは本当に幸運だったと思います。これからもより一層、都心の人の癒しになる場作りを目指していきます。」


アパートメントプロダクツ

シラハマアパートメントがOPENして早5年、建物は通称「シラアパ」として親しまれ多種多様なイベントも開催されています。先日は耕さないことで植物本来の力を引きだす「不耕起栽培」という農法の勉強会も行われました。実は多田さんはご自身も夫婦で家庭菜園を実践されるほどの農の愛好家。シラアパでは、市民農園も運営しており、都市に住むファミリー向けに家庭菜園のスペースを提供しています。そんな多方面で活動中の多田さんは現在どのような取り組みを行っているのでしょうか?


「一昨年、café & roomsと分離して『アパートメントプロダクツ』という事業を立ち上げました。こちらは家屋や店舗、または建物の改装を主な業務としていますが、ゆくゆくは南房総の遊休不動産を都市住民向けにリノベーションして提供できたらと思っています。田畑も同じですが、管理しなければいずれ荒れてしまう。この現状をどうにかするためにも、またストレスフリーなこの土地に都会の人々が移住あるいは2拠点居住する場をつくるということからも、事業を行う意義は多分にあると思っています。」

アパートメントプロダクツ改装業務

現在、特に地方では空き家や遊休農地が急激に増加しています。その一方で、都会暮らしの人々に地方で暮らすことへの関心が高まっており、両者のマッチングで状況を改善できる可能性も十分にあります。今後も多田さんの活躍に注目したいと思います。


文:東 洋平