廃校が「働き、耕し、泊まり、憩う」新型コミュニティセンターへ/シラハマ校舎
少子化の影響で人口減少が進む日本では、統廃合によって毎年全国で400校を超える学校が廃校となっていますが、利用されなくなった校舎は維持管理のコストがかかり、解体には多額の費用が必要となります。また地元の人々にとっては思い出の残る建物。今回は千葉県最南端にあたる南房総市白浜町にて、旧長尾小学校の校舎がオフィスやゲストルームに、校庭が小屋付き農園スペースに生まれ変わる新型コミュニティセンター「シラハマ校舎」をご紹介します。
「シラハマアパートメント」と「シラハマ校舎」
シラハマ校舎を運営する合同会社ウッドの代表多田朋和さんは、7年前に白浜に移住し、ホテルの社員寮として使われていた空き施設をリノベーションして1階がカフェ、2階がゲストルーム、3階がシェアハウス、4階が多目的スペースとなる「シラハマアパートメント」を立ち上げた起業家。まずは、今年9月にゲストルームのみOPENした「シラハマ校舎」の全容をお聞きしてみましょう。
“白浜は海、山の自然に囲まれ、電車も通っていないまさしく「陸の孤島」といえる地域です。といっても近年アクアラインや館山道の開通、直通バスによって都会との距離が急速に縮まりつつあり、往復5000円で通えるこの環境は関東圏内でも稀だと思います。旧長尾小学校を活用した事業は3,4年前ぐらいから構想はあり、地域が急速に過疎化していく中で、都会の方が気軽に利用しやすい場所づくりがイメージとしてはありましたね。”
“そこで、市が2014年の10月から11月にかけて利活用事業案を募集すると、校舎をオフィスや宿泊施設とし、ヨーロッパでは「クラインガルテン」や「コロニーヘーヴ」、「ダーチャ」と親しまれる小屋付き農園スペースに校庭を利用する案で応募しました。シラハマアパートメントにて賃貸や宿泊、市民農園を運営していたこと、また元々僕自身、建物の内装を専門としていたので、経験や技術を生かして旧長尾小学校を利用し、この地域により人を呼ぶことができればと考えたのが「シラハマ校舎」です。”
地域内の建築チーム「あわ組」で施工を担当
2016年2月に正式に南房総市と賃貸借契約を結んだ合同会社ウッドは、旧校舎のリノベーションを進め、20坪のオフィスが2部屋、10坪のオフィスが10部屋、ゲストルームが2部屋にシャワールーム、トイレが整備され、現在カフェと食堂を改築中です。
“リノベーションで大事にしているコンセプトは「アナログ」と「ハイテク」のギャップを出していくことです。旧校舎の面影を残すことはもちろんですが、主にゲストルーム、シャワールームやトイレはガラッとデザインを変え、随所に遊びを加えています。設計士から工務店、木工家、電気屋、ステッカー屋まで信頼できる地域内でのチームで改修しているところが僕たちの強みですね。今後このチーム「あわ組」で南房総にしかない建築を創り上げていくことも視野にいれています。”
“またシラハマ校舎の場合、運営団体が建築を専門としているからこそ、利用者のニーズに合わせて有機的に修改築していくことが可能です。オフィスも原状回復なしで自由に改装してもらってOKで、必要あらば手伝ったり教えたりします。一度作って終わりではなく、利用者も一緒に参加して創っていく楽しさ、自由な発想が実現できる場所にしていきたいと思っています。そういう点では、旧校舎も校庭の小屋付き農園も根っこの部分は同じです。”
農ライフNOライフを標榜する参加型施設
校庭にはマキの樹の生垣に囲まれた80㎡~90㎡ほどの小屋付き農園スペースが20~23区画程程度設けられますが、施設との連携で多田さんが目指しているコンセプトこそが「生産物を作り、加工し、飲み・食べる」ことのできる場の創出。
“日本で家庭菜園や市民農園というと家の近くで農産物を作って自給するといったイメージが強いですが、ヨーロッパの「クラインガルテン」などの原点は、都市部に住まう人々が郊外に出て、伸び伸びと癒される時間を過ごすコミュニティ空間でもありました。シラハマ校舎では、農地を耕して作物を育てることはもちろんですが、施設との連携でその場で加工して食べる、飲むといった参加型の体験を大事にしたいと考えています。”
“もともと保育園だった施設を広い食堂として北米の「ダイナー」をイメージしたカフェを建設予定としており、土地の珍味を味わうことができるほか、専属の料理人が各利用者の生産物を料理することも出来る予定としています。校舎内は複合施設と捉えられると思いますが、農園の利用者も宿泊者もオフィスで働く人も、広い世代や職種の人々が農的ライフスタイルやスポーツアクティビティを楽しみ、豊かな自然に囲まれたコミュニティスペースで都会での疲れを癒す。そんな場所が「シラハマ校舎」です。”
無印良品の小屋を世界初販売
そして、もう1つのポイントは家庭菜園スペースで利用される小屋が、無印良品が開発している小屋であること。
“廃校利活用の事業を構想していた頃に、無印良品の方とお会いして「シラハマ校舎」の青写真をお伝えしました。すると都会ではリノベーションを推進している無印良品が、都市郊外では「キャンプ以上・別荘未満の住まい」として小屋を開発していることを初めて知り、地域活性化の一環としてシラハマ校舎にて開発中の小屋を販売するという協力をして頂けるとのことに。現在デザインや設置フローに改良が加えられており、この小屋の発売が見えた段階で農園スペースの利用者募集を始めます。”
無印良品の小屋は施工費込みでリーズナブルな価格を目指しており、シラハマ校舎内のシャワーやトイレの利用も含めた農園スペースの管理費月額15,000円と合わせて、別荘を購入し維持管理するよりは安価に2地域居住が実現できる見込みです。
次なる目標はオーベルジュ
当初、廃校改修の総額の見積もりは1億円を超えましたが、できる限り合同会社ウッド内で自社施工することでコストを削減し、事業のスタートを切ったシラハマ校舎。昼夜を問わず仕事に向き合う多田さんには、また新たな計画も生まれているといいます。
“実は今年狩猟免許を取得して、今海岸線沿いにワイン用のぶどうの木を育てているんです。近くには海辺の理想的な立地で空き施設があります。いつか、南房総の特産ワインを製造して、本格的なジビエ料理を提供するオーベルジュがやりたいんです。シラハマアパートメント、シラハマ校舎と進めてきて利用者が行き来できるような宿泊付きのレストランを創ることを次なる目標としています。年々獣害の被害も拡大していますが、こうした地域課題を逆転した発想で都会の人に喜んでもらえることをやりたいですね。”
20代の頃に内装会社で建築技術の習得や営業に没頭し、家業である不動産業の手伝いを経て南房総へ飛び込み、自ら改修した施設で宿泊業や賃貸業を始めた多田さん。1つ1つ積み重ねて新しいことに挑戦するのが何よりの喜びということで「楽しいから、どんなに働いても疲れないんですよね」と笑みがこぼれます。シラハマ校舎のような廃校利用は全国でも新しい事例。この取り組みが成果を出し、より自由な発想による廃校の活用事業が全国に広がることを願います。
文:東 洋平
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【ローカルニッポン過去記事】
南房総で起業 / シラハマアパートメント 多田朋和さん