ローカルニッポン

物語られる南房総の新たな魅力


2016年、初夏。明治大学情報コミュニケーション学部2年生15人が、千葉県の最南端、南房総市でこの地域と関わる個性豊かな10名の方々に出会いました。

南房総とゼミ活動

明治大学情報コミュニケーション学部・内藤まりこゼミでは、ゼミ生が「『シェア』で読み解く個人と社会 — 分有・共有の物語学」をテーマに、千葉県南房総市にゆかりのある方々にインタビューをし、その方々の人生の物語を創作しました。

ゼミ生15人は、3人で1グループの計5グループに分かれ、各グループで「ネイティブメンバー」1名と「マレビトメンバー」1名の物語の創作を担当しました。「ネイティブメンバー」とは南房総で生まれ育った人で、「マレビトメンバー」とは、南房総外で育ち、南房総に関わっている人のことを意味します。

物語創作の過程は、まず、ネイティヴ・マレビトメンバーの方々に事前にお答えいただいたアンケートやウェブ上の情報等を元に、自分たちが担当する方達の人生年表を作成しました。次に、南房総市で合宿を実施し、実際にネイティヴ・マレビトメンバーの方々にお会いしてインタビューを行いました。

インタビューをするにあたり、着々とインタビューの準備を進めていましたが、インタビューも物語創作も初めての私たちは、合宿の日が近づくにつれ緊張が高まります。そして、むかえた合宿の日。学生の中には千葉県出身の人が何人かいましたが、南房総を訪れるのは全員今回が初めてでした。高速バスに乗り、見慣れた都会の景色を後にしてから、わずか1時間半で南房総に到着しました。

南房総

2006年に7つの町村が合併して誕生した南房総市は、東京湾と太平洋に面し、内陸は緑豊かな里山が広がっています。酪農発祥の地でもある南房総市は、今でも酪農が盛んで、市内のいたるところで乳牛を見かけます。東京からそれほど遠くまできてはいないはずなのに、南房総に到着した私たちは、都会とは別世界の自然豊かな景色や温暖な気候に驚きました。

南房総を舞台に活動する人々

合宿では、私たちはネイティヴ・マレビトメンバーの方々にお会いし、その方々が活動されている場所を拝見したり、農作業等の活動を一緒にさせていただいたりした後、事前に準備してきた質問内容を元にインタビューをしました。

ここで、私たちがインタビューをさせていただいた方々を紹介します。

「ネイティブメンバー」には、南房総で生まれ育ち、ずっとこの地で過ごされてきた方や、学校や仕事で南房総を離れてから戻ってこられた方等がいました。南房総との関わり方はそれぞれ異なりますが、市役所に勤務され、地域振興に尽力されている方や、観光と農業を融合させた取り組みを行っている方等、ご自分の地元である南房総と密接に関わる活動を行なっている方々ばかりでした。

ネイティブメンバーのお一人である稲葉芳一さんは、房総半島南端の中心部に位置する三芳地区で、ご自身の畑や田んぼでとれた食材や、飼っている鶏の卵などを使って自家製の料理を提供する、農家レストラン「百姓屋敷じろえむ」を経営されています。若い頃に手探りで有機農業を始められて以来、南房総の生産者と都市部の消費者とを繋ぐ活動をされています。

リンク:百姓屋敷レストランじろえむ

稲葉 芳一さん

稲葉 芳一さん

「マレビトメンバー」は、さまざまな地域のご出身で、南房総との関わりを持った時期やきっかけもそれぞれ異なります。また、南房総に移住した方や都市部との二地域居住をしている方、仕事で南房総を訪れている方等、南房総に滞在する形態も人によって異なりますが、どの方も南房総という土地とそこに住む人々に密接に関わる活動をされていました。

マレビトメンバーのお一人である永森昌志さんは、東京出身で、30代前半までは東京に住んでいましたが、南房総と都会との二地域居住を経て、南房総に移住されました。広大な裏山と畑のあるご自宅とは別に、築300年以上経った古民家とその周囲にある畑と裏山を含む「ヤマナハウス」と呼ばれる施設を運営し、週末に仲間たちと農作業や古民家の修繕作業をしながら、里山暮らしを楽しむことで、都会暮らしとは異なる生き方を模索しようとされています。

リンク:HAPON新宿

永森昌志さん

永森昌志さん

物語の創作

南房総でインタビュー調査を実施した後、私たちは大学に戻り、うかがった話を元に約1か月かけて、ネイティヴ・マレビトメンバーの方々の物語の創作に取り組みました。インタビューでは時間の許す限りお話をうかがいましたが、それでも聞き取れたのはその方達の人生のうちで起こった数多の出来事のほんの一部にすぎません。そこで、私たちは、物語を作り上げる際に、その方が当時何を感じ、何を考えていたのかを話し合い、語られなかった出来事やその方の思いを自分たちの想像によって補いました。それでも、創作が行き詰まると、インタビューの内容に立ち戻り、その方が話されていた言葉を何度も読み返して、その方の人生を物語にしていきました。

こうした紆余曲折を経て、ついにゼミの最終目標である物語が完成しました。どの物語も、中身はインタビュー内容に基づいているものの、インタビューでは語られなかったその方の人生のさまざまな局面について、私たちが想像したことも盛り込まれています。例えば、ある物語では、今から約40年後の南房総を舞台に、80歳となったインタビュー対象者の方の人生が描かれたり、ある物語では、実在しない人物が重要な脇役となって登場し、インタビュー対象者の方が自分の人生観を吐露するのを聞き届けたりしています。

私たちは、こうした物語創作を経て、物語が、インタビュー記事とは異なる形で、南房総という地域やそこで活動する方々の人生をより深く、またより豊かに捉えるためのメディアとなるのではないかと考えました。

研究成果発表会

2016年7月、物語の完成をもってゼミ活動は終了しました。しかし、私たちの活動はさらに続きました。

私たちは、8月11日にHAPON新宿にて研究成果発表会「南房総×物語-物語が描き出す新たなローカルの実像-」を催しました。この研究成果発表会では、インタビューをさせていただいた方々や南房総市役所の方々はもちろん、南房総や物語創作に興味を持っていらっしゃるさまざまな方にお集まりいただきました。

発表会では、ゼミ生がゼミ活動と出来上がった物語について報告し、南房総を盛り上げるためのプレゼンテーションを行いました。また、ゼミ生と参加者とで、物語の内容についての意見交換を行ったり、物語というメディアを南房総の魅力を伝える材料として活かせないかを話し合ったりもしました。

リンク:
学生と地域をつないだ”南房総ゼミ”。物語で地域を発信する新たな手法に注目!ココロココ 地方と都市をつなぐ・つたえる

物語について意見交換を行う学生と参加者

物語について意見交換を行う学生と参加者

クラウドファンディング紹介

こうして研究成果発表会は無事終了しましたが、ゼミ生の一部が集まって、完成した物語の出版を目指すことになりました。出版に必要な費用を調達するため、2017年2月6日までクラウドファンディングに取り組んでいました。南房総の魅力をより深く伝える本を作り、できるだけ多くの方々にこの本をお届けできるように今後も活動が続きます。

クラウドファンディングと出版に関する詳しい情報はこちらからご覧ください。

リンク:
【南房総×物語】明治大学生の私たちが書いた南房総に関わる人々の物語を出版したい! – CAMPFIRE(キャンプファイヤー)

文:明治大学情報コミュニケーション学部2年 井上野歩・大下由佳