ローカルニッポン

愛犬家必見!全国初の介助犬から学ぶ宿泊施設が館山にオープン/日本介助犬福祉協会

書き手:東洋平
千葉県館山市在住のライター。2011年都内の大学卒業後に未就職で移住する。イベントの企画や無農薬の米作りなど地域活動を実践しつつ、ライターとして独立。Think Global, Act Localがモットー。

「介助犬」と認定された70頭(2017年5月時点)の犬が、今日も身体に不自由のある方の身の回りの生活を支えています。身体障害者の自立や社会参加を助けるための犬を「補助犬」と呼びますが、約1000頭いる「盲導犬」に比べて「介助犬」や「聴導犬」は必要としている方に対して数が足りていません。今回ご紹介するのは、厚生大臣指定法人の日本介助犬福祉協会。2016年11月に山梨県から千葉県館山市に本部を移転し、介助犬の普及啓蒙のためPRペンションを全国で初めて立ち上げた今、その取り組みと今後の目標についてお聞きしました。(TOP写真:門から新聞を取ってくる介助動作)

介助犬との間で育まれる生きる力と喜び

介助犬ってどんなことをするの?と思われる方も多いかもしれません。まず、盲導犬は屋外で歩行のサポートをしますが、介助犬は体の不自由な方の日常生活全般をサポートする違いがあります。しかし、日本介助犬福祉協会理事長の川崎芳子さんによると、介助犬を理解する上で大切なことは、サポートの先にあるとのこと。

日本介助犬福祉協会理事長川崎芳子さん(右)とスタッフ、デモンストレーション犬3頭とともに

日本介助犬福祉協会理事長川崎芳子さん(右)とスタッフ、デモンストレーション犬3頭とともに

“これまで介助犬ユーザーの生活を見守ってきた中で、皆さん口を揃えて「この子よりも先に死ねない」とお話になることが、何より介助犬の存在を物語っていると思います。ユーザーは身体に障害があり、一人で生活することに不自由をかかえています。しかし、介助犬と一緒に生活するようになると、社会参加や自立支援につながります。介助犬と規則正しく散歩しに外へ出たり、介助犬がきっかけとなってお友達が増えたり、介助犬が生きがいになります。”

“彼らにとって介助犬は犬ではなく、家族なのですね。日々の暮らしを共にする介助犬だからこそ、サポートを超えた信頼関係が育まれ、ユーザーに生きる力と喜びを与え続けることができるのでしょう。こうしたことを一人でも多くの方に知っていただくために誕生したのが、PRペンション「館山ドッグワールド」です。”

誰でも気軽に泊まれるPRペンション「館山ドッグワールド」

PRペンション「館山ドッグワールド」は、介助犬の利用を希望する方や一般の方が愛犬と一緒に宿泊できる全国初の施設。建物内はバリアフリー、エレベーター完備、広いトイレや食堂があり、障害者も快適に宿泊体験ができる他、一般の方もペットホテルのように利用できるところが特徴です。


“介助犬は、ユーザーの障害に合わせてオリジナルの訓練を施され、数々の審査を乗り越えて認定されるため、介助動作の幅は広く、デモンストレーションを見ると皆さん目を丸くして驚きます。しかし、この「できること」を説明しても、介助犬本来の意義をお伝えすることの難しさを感じていました。そこで行き着いたのが「宿泊型介助犬体験施設」です。宿泊も含めて長時間介助犬と時間を共にすることで、身の回りのお世話だけでなく介助犬と過ごす実生活をイメージしやすくなります。”

PRペンションの部屋はゆったりとしたツインベッドで、バスルームはガラス張りのため愛犬が寂しがることもない

PRペンションの部屋はゆったりとしたツインベッドで、バスルームはガラス張りのため愛犬が寂しがることもない

“またこの施設のもう一つの目的は、一般の方にもより身近に介助犬を知っていただくことです。介助犬は欧米諸国では数千頭活躍し、街中で当然のように見かけられて、認識が定着していますが、日本での歴史は浅く、介助犬がまだ知られていません。PRペンション「館山ドッグワールド」では、一般の宿泊者にもデモンストレーションをお見せし、介助犬を育てる環境や教育方法をお伝えすることで、広く介助犬の普及活動を行なっています。”

「ホームヘルパードッグ」養成講座で、健常者と障害者の垣根を越える

そして、PRペンション「館山ドッグワールド」で始まったのが「ホームヘルパードッグ」養成講座。川崎さんは10年以上前からホームヘルパードッグの育成に取り組み、通信教育などを行っていましたが、いよいよ同ペンションで実習を受け入れる環境が整い、11月にはDVD付きの教材(『DVD+BOOK自分で育てるホームヘルパードッグ【入門編】』)を戎光祥(えびすこうしょう)出版社より発売予定です。

着信の鳴る携帯電話を飼い主の元へ届けるデモンストレーション

着信の鳴る携帯電話を飼い主の元へ届けるデモンストレーション

“超高齢化社会に突入した日本において、家庭での介助を必要としている方は増え続けています。また一方、介助犬を希望する方に、介助犬が行き渡っていないという現実もあります。そんな中「自分の飼い犬を介助犬として訓練したいけれど、どうしたらよいかわからない」という方が日本だけでなく、世界中に多くいらっしゃいます。ご自身の愛犬とともに社会貢献をお考えになる方々です。

“そこで介助犬育成に長年従事してきた経験を活かして、家庭の愛犬に介助犬と同様のトレーニングをして、家族のお手伝いをする「ホームヘルパードッグ」に育てることを考案しました。介助犬は障害者の方にのみ貸与されますが、ホームヘルパードッグは一般の方がご自身で育てられます。ホームヘルパードッグ指導の訓練を経て、介助犬訓練士となる道も開かれています。この講座やホームヘルパードッグという考え方を通じて介助犬にまつわる健常者と障害者の垣根を越えることができれば本望です。”

小・中学校に訪問して介助犬デモンストレーションを披露する様子

小・中学校に訪問して介助犬デモンストレーションを披露する様子

南房総から人と犬との豊かな関係を広げていきたい

日本介助犬福祉協会のある館山市布沼(めぬま)は、全長5キロに及ぶ平砂浦海岸が目の前に広がり、里山と里海に囲まれた自然豊かな環境。PRペンション「館山ドッグワールド」は大型犬と泊まれる全室オーシャンビューの宿泊室が6部屋あり、330坪のドッグランで伸び伸びと飼い犬を遊ばせることができます。

PRペンション内の食堂

PRペンション内の食堂

“こちらに来る前は山梨県の山中湖近くの事務所を本部としていましたが、全国を探し回って最も素晴らしいと感じたこの場所に決まりました。介助犬は日々の遊びの中から自然と人に役立ちたいという思いを育てるため、美味しい食べ物や環境、心の通じ合ったコミュニケーションが大切です。海の幸、山の幸に囲まれて、温暖でゆったりとした時間を過ごすことのできる南房総は介助犬やホームヘルパードックの育成に適しています。”

海苔が乾燥した状態でおにぎりを食べたいというユーザーの声を受けて、おにぎりを開封する介助動作が生まれた

海苔が乾燥した状態でおにぎりを食べたいというユーザーの声を受けて、おにぎりを開封する介助動作が生まれた

“今後は、全国で唯一の宿泊できる介助犬総合訓練センター、ホームヘルパードッグ養成講座の拠点として、様々な情報発信を積極的に行っていきたいと思います。また当協会の運営は全て寄付で成り立っており、個人や企業そして地域の方の協力なくしては介助犬の育成を行うことはできません。先日道の駅各所のご協力で募金箱を置かせていただきましたが、募金箱は介助犬育成普及のための安定財源として大きな役割を占めています。募金箱設置希望者の方はお気軽にご連絡ください。これからも地域内での介助犬普及活動に取り組みながら、南房総から人と犬がお互いの尊厳のもとに助け合う、バリアフリーな社会への理解を広げていきたいと思います。”

日本介助犬福祉協会の募金箱

日本介助犬福祉協会の募金箱

介助犬は障害者に無償で貸与されますが、補助犬(介助犬)事業は社会福祉法人第2種事業であるため、公的助成金はありません。さらに非営利での活動に限られるため、介助犬を育成する費用は寄付金で運営する必要があり(※)、介助犬が不足している理由の一つとなっています。PRペンション「館山ドッグワールド」そして「ホームヘルパードッグ」養成講座は、介助犬の普及に加えて、協会が約20年来培ってきた介助犬を育てる総合的な技術や訓練方法を一般に開放する新しい取り組み。愛犬との豊かな関係に関心のある方は、一度訪れてみてはいかがでしょうか?

※日本介助犬福祉協会は「特定公益増進法人」であり、賛助会員や寄付に免税措置が適用されます。PRペンションへの宿泊費やホームヘルパードッグ養成講座は有料ですが、全額寄付として協会の介助犬を育成する運営費に充てられます。

文:東 洋平