ローカルニッポン

“ローカルの入口” 南房総「お試しサテライトオフィス」ツアーレポート

書き手:東洋平
千葉県館山市在住のライター。2011年都内の大学卒業後に未就職で移住する。イベントの企画や無農薬の米作りなど地域活動を実践しつつ、ライターとして独立。Think Global, Act Localがモットー。

仕事をしていて「海を眺めてリフレッシュしたいなぁ」なんて思ったことありませんか? 企業や官公庁が本社、本庁から離れた場所に設置するオフィスを「サテライトオフィス」と呼びますが、総務省では昨年度から「お試しサテライトオフィス」モデル事業が進行中です。2016年と2017年合わせて全国18箇所の自治体が採択を受け、特色ある受け入れ先整備や発信を行なっていますが、千葉県南房総市もその一つ。10月7日に開催された現地ツアーの内容と企画運営者の思いや展望をご紹介します。

車で70分!バリエーション豊かな自然を生かした「ファーストサテライトの地」

まず初めに「お試しサテライトオフィス」モデル事業に申請した背景について南房総市商工課の根形貴洋さんにお聞きしてみましょう。

南房総市商工課 根形貴洋さん

南房総市商工課 根形貴洋さん

“南房総市は千葉県南端に位置する自治体で、2006年に7つの町村が合併して誕生しました。合併時には4万5千人いた人口は現在3万8千人。高齢化と若年層の人口流出が深刻な状況です。そこでとにかく「仕事をつくろう」「一度訪れてもらおう」と各課が協力して移住促進や企業誘致、起業支援などを積極的に行っています。その成果として明治大学や千葉大、千葉工大など学術機関との連携が本事業に実を結んだと考えています。”

南房総市の「富山(とみさん)」からは、晴れた日に海越しの富士山がみられる  写真提供:南房総市

南房総市の「富山(とみさん)」からは、晴れた日に海越しの富士山がみられる  写真提供:南房総市

“「サテライトオフィス」については昨今、徳島県神山町や和歌山県の事例にみるように、東京に本社のある企業が遠方に拠点を構えるほど、福利厚生を含めた企業側の「ステータス」と捉えるニーズが高まっています。南房総市は、東京から車で70分の距離にある里海や里山の自然豊かな地域。近さと選択の幅広さから「ファーストサテライトの地」と位置づけ、9月に東京で誘引イベントを開催し、今回のツアーを迎えました。”

“ローカルの入口”南房総お試しサテライトオフィスツアー

10月7日の南房総現地ツアーには、デザイン制作会社、建築設計会社、保険会社でリモートワークを行う方など9名が参加し、1日のツアーで10箇所以上もの拠点を回りました。主なツアー先をご紹介します。

10:20 おためし岩井住宅

高速のパーキングエリア「ハイウェイオアシス富楽里」に集合した参加者は、そのまま車で5分ほどのおためし岩井住宅へ移動しました。おためし岩井住宅は少し前まで医療関係者の寮として使われていた市営住宅で、内房岩井海岸へ徒歩で行けるほか、スーパーやコンビニも近く生活に便利な環境。4LDKの戸建住宅ということもあって、「シェアオフィスも可能では」との声もあがりました。

おためし岩井住宅

11:00 旧平群保育所(オリエンテーション)

旧平群保育所(オリエンテーション)

事業とツアー全体の説明、そして参加者の自己紹介は2017年3月に閉鎖となった旧平群保育所にて。背後の伊予ヶ岳への散策や校庭でBBQを楽しむことのできる、本事業のモデル施設でもあります。「社員が伸び伸びと仕事する環境を整えたい」「自身の療養も兼ねたサテライトオフィスを探している」「バイオマスエネルギー事業を組み立てたい」など意欲的な自己紹介を受け、サテライトオフィスの可能性を共有しました。

12:10 百姓屋敷じろえむ(昼食)

南房総でも数少ない茅葺き屋根を今に残す農家レストラン「百姓屋敷じろえむ」で昼食をとりました。仕事のストレスに対し、気分転換は業務の質を上げるためにも重要です。調味料以外は全て自家製という素朴で味わい深い田舎料理を楽しみ、里山の空気を胸いっぱいに吸い込んで、サテライトオフィスでの生活の中にある「癒し」を体験しました。

百姓屋敷じろえむ

13:30 ヤマナハウス

ヤマナハウス

昼食の後は、築300年の古民家「ヤマナハウス」を見学。文化的要素を最大限に継承しつつ、屋根裏や床下の断熱、トイレ、シャワーなどの快適性を実現しており、古民家リノベーションの実例としても興味深い拠点です。隣に農園があり、仕事の合間に畑作業を楽しむこともできます。都会から離れて集中して仕事をしたい時などにお勧めのサテライトオフィスといえるでしょう。

14:55 南房総市立南幼稚園

現在は利用されていますが、将来休園予定の南幼稚園を訪問しました。2007年に建てられた施設の新しさに参加者からは驚きの声も。また小学校や中学校は面積が広すぎる一方、幼稚園は中小企業には利用しやすいという規模の観点も議題にあがりました。南房総市でも小学校や幼稚園の統廃合が相次いでいますが、市の積極的な活動により未利用の校舎、園舎は比較的少ないということ。しかし、数年後に中学校の統廃合が始まるとみられています。

南房総市立南幼稚園

15:45 株式会社インターコム R&Dセンター

株式会社インターコム R&Dセンター

保育所施設を利用している先例として「株式会社インターコム R&Dセンター」に伺いました。ソフトウェアの大手、株式会社インターコムの子会社として2016年に設立され、社員22名のうち20名が地元採用です。田中英之センター長から固定費の安さ(3年間は無償賃貸)や豊かな自然に囲まれた仕事環境の良さについて話があり、ツアー参加者はサテライトオフィスへのイメージを膨らませました。(TOP写真:内観)

16:45 七浦地区見学

年内には旧七浦小学校(2014年閉校)へ移転を予定している「七浦診療所」や移転先の小学校施設、元漁協の施設を改修したお店や地域の空き家を見学しました。サテライトオフィスとは異なりますが、未利用施設を有効に活用した事例としては類似点も多く、サテライトオフィス候補地の幅の広さを窺わせます。

七浦地区見学

17:35 シラハマ校舎

シラハマ校舎

ツアー最終拠点となるのは、房総半島最南端に位置する新型コミュニティセンター「シラハマ校舎」。2011年に廃校となった旧長尾小学校を合同会社ウッドがリノベーションしました。校舎がオフィス、ゲストルーム、レストランになっており、校庭には「無印良品の小屋」とセットになった農園区画が広がっています。一通り施設を見学した後、校舎内のモデルオフィスにて親睦会が開かれました。

サテライトオフィスは「ライフスタイル×リモートワーク」

「ローカルの入り口」と題して南房総市内を一回りする充実したツアーを組み立てるのは、事業の企画運営を担う株式会社ココロマチと合同会社AWATHIRD。全国的にお試しサテライトオフィスが展開する中で、どのようなコンセプトで事業に取り組んでいるのでしょうか。

合同会社AWATHIRD代表 永森まさしさん(南房総市公認プロモーター):
“会社と離れて仕事をすることを「テレワーク」「リモートワーク」とも呼びますが、「サテライトオフィス」は働く方法に加えて、ライフスタイルという観点が含まれていると思います。最近では「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた「ワーケーション」という言葉も現れました。単に離れて仕事をするというよりも、理想とする働き方を企業側が提供することに力点が置かれています。地域活性化の側面ではCSRであり、また他社との差別化を図るブランディングにも繋がることでしょう。”

南房総市に移住して8年を迎える永森まさしさん 東京新宿ではシェアオフィスHAPONを経営する

南房総市に移住して8年を迎える永森まさしさん 東京新宿ではシェアオフィスHAPONを経営する

“南房総市は首都圏から近いだけでなく、7つの町村が合併した背景もあって、地域ごとにそれぞれ特色と奥行きがあり、企業がサテライトオフィスを検討するには最適の地ではないでしょうか。そして別事業で「南房総2拠点大学」を並行して企画していますが、サテライトオフィスと2拠点生活は根本的には同じ方向性にあると考えています。現在2拠点に有用な情報を集めたサイトを制作しており、「南房総=ローカルの入り口」として広く認知されることを目指したいですね。”

新しい働き方の本質と、中小企業経営者に向けたメッセージ

首都圏の地域情報を紹介する「itot(あいとっと)」と地方の地域情報を発信する「ココロココ」を運営する株式会社ココロマチは、いち早くシラハマ校舎でサテライトオフィスを開設した企業でもあります。最後に、同社がサテライトオフィスで新しい働き方に取り組んでいる理由を、社長の吉山さんにお聞きしました。

株式会社ココロマチ代表取締役社長 吉山日出樹さん:
“ここ数年、国をあげて「働き方改革」が推進される中、「残業ゼロ」や「プレミアムフライデー」など労働時間の短縮ばかりが取り上げられていますが、中小企業の経営者としてはそればかりではありません。働き方を変えねばならない理由は、「人材不足」への対応が迫られているからです。少子化で生産年齢人口(15歳以上65歳未満)が減る中、どのように企業が人材を確保していくのか、経営者の視点でこのことに関心がない人はいないでしょう。”

お試しサテライトオフィス事業と並行して企画する南房総2拠点大学現地講座にて

お試しサテライトオフィス事業と並行して企画する南房総2拠点大学現地講座にて

“特に中小企業は具体的な数字に置き換えてみても社員一人の影響力、存在価値が高い。だからこそ、出産や育児・介護で地方に帰る社員がいれば、テレワークで仕事が続けられないか方法を探ることや、若い方々が入社したいと思う魅力ある会社を目指さねばなりません。「働き方改革」は中小企業にとってこそ、切迫した課題だと思うのです。”

“一方、大企業と比べて、中小企業はトップの考え方一つで舵を切ることも可能です。先例は少ないですが、まずは自社から先陣を切って未来へ投資しようと始めたのがサテライトオフィスでした。どんな企業も「人」が「宝」であることに変わりないでしょう。しかし、新しい働き方に率先して取り組むのも中小企業だからこそなせる挑戦だと考えています。また、そうした柔軟で先進的な取り組みを積極的に検討する企業との結節点となり、地方を盛り上げる様々なコラボレーションも実現していきたいとも思います。”

株式会社ココロマチのサテライトオフィスを見学する参加者たち

株式会社ココロマチのサテライトオフィスを見学する参加者たち

事業の枠に収まらないほどの展望ある企画運営を担う二社代表のお話でした。総務省が推進しているとはいえ、サテライトオフィスの普及はまだ始まったばかり。首都圏に人口が集中した現代において、地方への交流人口を増やす施策でもありますが、企業や個人にとっては新しい働き方、そしてビジネスを創り上げる機運を感じます。南房総市は11月9日に有楽町交通会館でセミナーを開催し、12月9日にもう一度現地ツアーを開催する予定です。今年度事業期間内は、サテライトオフィスの使用は無料で、一部交通費の補助もあります。首都圏の企業やフリーランスで働く方々は、ぜひこの機会に「お試し滞在」をしてみてはいかがでしょうか?

文:東 洋平