ローカルニッポン

高校生活躍の場が、地域づくりの輪を広げる。館山総合高校「うまいもん甲子園」への挑戦

書き手:東洋平
千葉県館山市在住のライター。2011年都内の大学卒業後に未就職で移住する。イベントの企画や無農薬の米作りなど地域活動を実践しつつ、ライターとして独立。Think Global, Act Localがモットー。

全国の高校を対象とした「ご当地!絶品うまいもん甲子園」をご存知でしょうか?地域の食材を使ったレシピを高校生が考え、全国8つのエリアと一般投票で勝ち残った9校が、調理とプレゼンテーションで決勝を競い合う大会です。第6回を迎えた2017年、関東甲信越エリアを勝ち抜いたのは千葉県立館山総合高等学校家政科3名のチーム。決勝戦では、水産庁長官賞として準優勝を獲得しました。千葉県初出場にして受賞を遂げた高校での取り組みと、この大会を機に動き出した地域づくりの萌芽をお伝えしたいと思います。

課題研究との親和性から「うまいもん甲子園」への出場を目指す

千葉県立館山総合高等学校(以下:館山総合高校)は、2008年に千葉県立館山高等学校と千葉県立安房水産高等学校が統合した学校です。海のまち館山の伝統を受け継いだ海洋科が地元産の魚や鯨で「缶詰」商品を開発し、県内でも数少ない家政科がコンビニエンスストアと共同で「おむすび」を商品化するなど、「館総ブランド」のプロデュースが評価され、2014年には「魅力ある県立学校づくり大賞」で教育長賞を受賞しています。

今回の「ご当地!絶品うまいもん甲子園」(以下:うまいもん甲子園)はどのようにしてはじまったのでしょうか?家政科の筒井智会先生と安部美咲先生にお聞きしました。

筒井智会先生:
“館山総合高校は県から指定を受け、社会のニーズに対応した教育ということで、2015年から全学科で「観光の学び」という授業を実践してきました。観光が主産業となる館山ならではの教育だと思います。そこで3年目となる2017年度、家政科では課題研究という授業のテーマを「郷土料理を使ってオリジナルレシピを作ること」に決めました。そんな時タイムリーに案内が届いたのが「ご当地!絶品うまいもん甲子園」だったんですね。”

筒井智会先生

安部美咲先生:
“そうなんです。レシピを作ろう!といってもただ作るだけでは、生徒たちにとっても張り合いがないので、「うまいもん甲子園」への応募が一つの目標になりました。課題研究の授業は週に3時間あって、2時間続きで実習の時間が1回、残りの1時間を自習の時間にあてていました。3人一組になって、それぞれこの地域の伝統的な料理や特産品などを調べ、みんなで試食しあったり、プレゼンの練習をしたり、どのチームもとてもユニークなレシピを作り上げていきました。でもその頃は、まさか入賞するとは誰も思っていませんでしたね(笑)。”

安部美咲先生

コンビニでも商品化決定!準優勝レシピ「房総の恵 ぎゅっとピタ」とは?

課題研究の授業テーマとして「郷土料理を使ったオリジナルのレシピ作り」に取り組むことになった家政科の皆さん。前期も終わりに近づいた頃、「ご当地!絶品うまいもん甲子園」の申込用紙に、レシピを開発した動機やPRポイントをまとめて提出しました。それではここで、準優勝を飾った「房総の恵 ぎゅっとピタ」の内容をご紹介したいと思います。

「うまいもん甲子園」決勝当日に完成した作品

「うまいもん甲子園」決勝当日に完成した作品

まずは何といっても、海に囲まれた房総半島を代表する郷土料理「なめろう」。南房総の漁師が、船上で獲ったばかりの魚を味噌とともに細かく叩いて食べたことがその発祥とされ、皿をなめるほどに美味しかったことから「なめろう」と名付けられました。今回のレシピは、この「なめろう」にチーズを混ぜ、油で揚げることで臭みを消して、子どもでも食べやすく仕上げているところに高校生らしいアイディアを感じます。

次に「ピタパン」で具材を包むこと。ピザの起源ともいう「ピタパン」ですが、丸く平たい生地を焼くと真ん中に空洞ができ、これを二つに切って、中に肉や野菜など様々な具材を入れて食べる中近東の伝統食です。「なめろう」と「パン」という組み合わせもさることながら、ワンハンドで食べられるという手軽さも評価のポイントになったということ。

「房総の恵 ぎゅっとピタ」の下ごしらえをする家政科3年の皆さん

「房総の恵 ぎゅっとピタ」の下ごしらえをする家政科3年の皆さん

ピタパンの中には、「なめろうフライ」の他に、館山市神戸(かんべ)地区の特産「かんべレタス」と千葉県でも多く栽培されている「王様のトマト」と大葉を盛り付け。「梅ソース」と「サルサソース」という2種類のオリジナルソースを添えて「房総の恵 ぎゅっとピタ」のできあがりです。

※本レシピは商品化が決まっており、2018年2月6日から関東のファミリーマート、サークルKサンクスで約3週間販売される予定です。

高校生のひたむきな挑戦が、地域を一つに

7月の書類選考から8月の関東甲信越エリアでの選抜大会を経て、11月4日の決勝戦にて見事な調理とプレゼンテーションを果たした家政科3年の竹中千遥さん、島田さちさん、近藤佑香さん。その内容はテレビでも放映され、市の広報『だん暖たてやま』にも取り上げられることにより、地域から大きな注目を受けました。この一連の道のりを生徒と一緒になって進んできた先生は、改めて「高校生」という立場に可能性を感じているといいます。

「うまいもん甲子園」の決勝で調理をする竹中千遥さん、島田さちさん、近藤佑香さん

「うまいもん甲子園」の決勝で調理をする竹中千遥さん、島田さちさん、近藤佑香さん

安部美咲先生:
“3人とも、普段は大人しくて人前に出るのが苦手な子なんですね。関東甲信越大会で優勝した時なんて、喜ぶどころか苦笑いで「どうしよう〜」という表情でした(笑)。1番の山場は5分間のプレゼンテーション。大きな声を出すのも得意ではないため、絵の上手な子が大きな絵を書いて、ピタや具材の小道具を自作し、なるべくわかりやすくレシピの魅力を伝えるように工夫しました。誰にも得意不得意があるものですが、調理の技術やレシピのアイディアといった特技が評価され、苦手な点を克服した彼女たちだからこそ、より一層周囲に感動を与えたのではないかと思います。”

朝早く集まって自分でお昼のお弁当をつくる「朝友」という活動にて、校内有志で「房総の恵 ぎゅっとピタ」をつくった

朝早く集まって自分でお昼のお弁当をつくる「朝友」という活動にて、校内有志で「房総の恵 ぎゅっとピタ」をつくった

筒井智会先生:
“地域の方々が自分事のように応援してくださったことは本当に嬉しかったですね。もちろん「うまいもん甲子園」という大舞台で受賞したことはニュースに違いありませんが、「観光の学び」も3年目を迎えて、私たち教師が高校生の可能性に気づかされる経験となりました。少子高齢化の時代、地域の子どもたちが郷土愛を育むことは大切なことです。また、観光でも今後ますます若い世代のアイディアが求められてくると思います。その一方で高校生だからこそ地域に貢献できることがあるのではと感じました。この受賞で終わらせることなく、高校生が地域を学びながら地域づくりに参画できる機会に広げていきたいと思います。”

館山の特産「かんべレタス」を守る人々の励みとなる

大会決勝の会場で、目頭を熱くしながら見守っていたのは、安西淳さん。安西さんは、今回のレシピに登場する「かんべレタス」を3ヘクタールの農地で栽培する生産者であり、館山総合高校PTA副会長でもあります。最後に、地域の声を代表して安西さんに今回の受賞に対してその喜びをお聞きしてみたいと思います。

“8月に関東甲信越エリアで優勝したことを聞いて、地域の農協さんに片っ端からポスターを貼るお願いにまわりました。60年以上の歴史ある神戸地区のレタスですが、ここ数年ではシェフとカレーやドレッシングのレシピを開発し、地域内の店舗でお寿司やハンバーガー、ラーメンとコラボレーションが実現しています。そんな中、館山総合高校の皆さんが考案したレシピに「かんべレタス」が入っていると聞いて嬉しくてたまりませんでした。”

館山市神戸地区のレタス栽培は、1957年「館山清浄そ菜組合」の結成から続いており、海に近い砂地の土壌や生産者の栽培方法の研究と品質向上の末、中央卸市場の品評会で例年優秀な評価を収めてきました。その結果数年前から「かんべレタス」としてブランド化が進んでいる館山市の特産冬レタスです。

館山市神戸(かんべ)地区のレタス栽培地帯(トンネル内は全てレタス) 写真の奥には平砂浦海岸が広がっている

館山市神戸(かんべ)地区のレタス栽培地帯(トンネル内は全てレタス) 写真の奥には平砂浦海岸が広がっている

“しかし、最盛期には250軒いたというレタス農家も、今では25軒。レタス栽培に適した土地、ノウハウや機械もあるこの地域、足りたいのは人なんですね。そんな中、地元に帰ってレタス農家を継ぐ若者も何人か現れるようになりました。やはり祖父母の代から受け継がれてきた地域の特産を絶やしたくないという、どこか誇りのようなものがあるんです。今回の館山総合高校のように、若い時期に地域の誇りを伝える取り組みは、地域の未来のためにも非常に大切なことだと思っています。”

高校とPTAが協力して、高校生活躍の場を地域づくりへ広げたい

また来年度、館山総合高校のPTA会長となる安西さんは、今回の一連の出来事がPTAについて考えるよいきっかけを与えてくれたと語ります。

“PTAというのはParent-Teacher Associationの略で、本来保護者と先生とが一緒になって子どもたちの教育を支えていくことです。実際には式典や運動会以外にも、様々なところで活動しているんですが、PTAが何をしているのか、子どもたちにはよく伝わってないんですよね。いや、むしろ大人もPTAの役割を聞かれれば答えに困る人も多いと思います(笑)。しかし、今回「うまいもん甲子園」に挑戦する生徒を応援する中で、PTAってもっとやれることあるなぁと実感したわけです。”

安西さんは毎年、地域内小学校の収穫体験を受け入れており、「かんべレタス」の歴史や美味しさの理由を伝えている

安西さんは毎年、地域内小学校の収穫体験を受け入れており、「かんべレタス」の歴史や美味しさの理由を伝えている

“親心って不思議なもので、子どものことを思う時、親はあらゆる利害関係を超えられるんですよね。先生たちが語るように、高校生が活躍する舞台を地域の中に増やしていくことで、高校生のリアルな学びにもなり、郷土愛にもつながり、そのことが地域の保護者の輪を広げることにもなっていくでしょう。学生とはいえ、高校生は義務教育を終えた大人の卵です。今回のレシピをつくった3人のように、立派なことをやり遂げる力がある。今後より一層地域づくりに参画する場を、高校とPTAで協力しあって実現に向けていきたいと思います。”

「うまいもん甲子園 」授賞式後、生徒と先生、そしてPTAで撮った集合写真

「うまいもん甲子園 」授賞式後、生徒と先生、そしてPTAで撮った集合写真

「館総ブランド」の創出で、すでに特色ある学校として知名度の高い館山総合高校ですが、今回の「うまいもん甲子園」では、これまでとは異なった「観光の学び」という新たな取り組みが実を結び、数々のドラマを繰り広げた挑戦となりました。先生のお二方や安西さんが共通して語ることには、高校生が地域づくりに参画する間口を広げていきたいということ。高校生の時期に、地域を学ぶ機会は通常そう多くありませんが、若年層の流出が課題となる地方では特に、積極的に地域と高校生が関わりをもつことで、地域に活力を与える可能性も秘めていると思います。これからも、館山総合高校の魅力的な教育活動から目が離せません。

文:東 洋平

写真提供:館山市秘書広報課