ローカルニッポン

東京でスポーツをテーマに大集合!南房総2拠点サロンが開幕

昨今地方への移住も注目を受ける中、自治体などが主催する移住セミナーや説明会が都会で開催されることは珍しいことではなくなりました。そんな中、民間主体で始まったユニークな取り組みが「南房総2拠点サロン」。サロンというだけあって登壇者も参加者もお酒を片手に語り合う気軽なトークセッションです。第一回目となる6月13日のテーマは「南房総×スポーツ」。大盛況となった当日のレポートとともに東京で「サロン」を企画する狙いを主催者に聞いてみたいと思います。

新宿で南房総に会う新感覚のサロンイベント

「南房総2拠点サロン」の会場はシェアオフィスHAPON新宿。「南房総×スポーツ」というテーマ性や登壇者の人気によるものか申し込みは定員を大幅に上回ることに。受付を済ませた参加者はウェルカムドリンクを飲みながら日本列島の形をしたテーブルを囲んで和やかに談話し、まさしく東京で開催する南房総のサロンが始まりました。それでは早速、4名の発表に入っていきましょう。

日本列島の形をしたテーブルを囲む参加者たち

外資系証券マンから、サイクルツーリズムで地域おこしへ

瀬戸川賢二さん(南房総市インバウンド観光プロデュ―サー、南房総サイクルツーリズム協会共同事務局長)

  一人目の瀬戸川賢二さんは、JPモルガンやBNPパリバなど名だたる外資企業で務めていた元証券マン。外資系の投資銀行で早期退職は珍しくないようですが、東京と2拠点居住をしていた南房総に移住し、第二の人生をスタートしました。

“当時、お客さんに中央官庁や政府系機関がいましたが、皆さん声を揃えて「地方創生」が盛り上がっていると言います。しかし、私が10年来南房総に通っている限りでは、どう見ても地方が活性化しているようには思えませんでした。そこで50歳を節目として自分で何かできることをやろうと南房総への移住を決意したわけです。”

移住後は当初起業を考えていたようですが、南房総市の地域おこし協力隊募集を知りこれに応募すると海外経験豊富でもある瀬戸川さんは「インバウンド観光プロデューサー」に委嘱されます。そこで瀬戸川さんが目をつけたのが、ご自身もプレイヤーであるスポーツ自転車によるサイクリング。

南房総で自ら外国人旅行客を案内する瀬戸川さん(右から二番目)

“南房総は海と山とが同じコース内で体験でき、道路の交通量や信号も少なく、以前からサイクリストのスポットでした。ただ、多くのサイクリストは道の駅などに車を停めて自転車で一回りし、昼食もコンビニなどで済まして、そのまま東京へ帰ってしまっていたんですね。つまり情報が少ないんです。そこでサイクリストへの環境整備やサイクルスポットの集約的発信を広域で実現し、地域の活性化に繋げようと設立に向かったのが「南房総サイクルツーリズム協会」でした。”

地域とつながる間接的役割が重要

瀬戸川さんは2016年11月に地域おこし協力隊に委嘱されてからすぐに広域団体の設立に動き出し、2017年4月に南房総サイクルツーリズム協会が立ち上がります。サイクルツーリズムの先進地として知られる「しまなみ海道」など他地域の視察を経て、協会では今後、地元のサイクリストと連携して南房総ならではのサイクルツーリズムを創り上げていきたいと語ります。

6月〜7月が旬となる館山産トウモロコシ味来(みらい)をツマミに

“南房総を単に観光地として捉えると他地域と比べてコンテンツやマーケティング力、受け入れ体制に課題もあります。ただ、観光地から一歩踏み込んで、何度も通う地と捉えると都会との立地環境やバラエティに富んだ景観や食をベースに可能性は格段に広がります。そのためには、訪れた人が地域と繋がる、間接的な役割が非常に大切だと考えています。今後、地元のサイクリストと協力し合いながらオリジナルなサイクルツーリズムを創り上げ、教育旅行や、社員旅行、ヘルスツーリズムなど様々な可能性にもつなげていきたいと思います。”

スポーツにはまちづくりの力がある

岡野大和さん(天津神明宮神職[鴨川]、合資会社いなかっぺ代表、房総神社サイクルライド推進委員会事務局長)

お次は830年もの歴史のある天津神明宮の神職で、ITベンチャーの学生起業家でもある岡野大和さん。地元鴨川に戻ってからは鴨川市のポータルサイト「かもがわナビ(かもナビ)」の開設や鴨川ポータルマガジン「KamoZine」を創刊し、鴨川を舞台にしたTVアニメ『輪廻のラグランジェ』では商品開発をするなどマルチタレントに活躍されています。スポーツとの直接的な出会いは鴨川市の女子サッカークラブ「オルカ鴨川FC」のフロントスタッフを務めたことでした。

“スポーツと関わって思ったことは、スポーツには間違いなくまちづくりの力があるということです。長年まちづくりに携わるうちに、まちづくりは人づくりだと確信しています。つまり人が元気になれば街は元気になります。そこでスポーツは、やる人はもちろんのこと、応援する人までも元気にさせる力がある。またまちづくりの過程では様々な利害が対立することもありますが、スポーツは思想や信条を超えられるんです。”

2015年12月5日チャレンジリーグ入れ替え戦の第1戦で「オルカブルー」一色に染まった満員の鴨川市陸上競技場のスタンド

スポーツを軸とした地域振興策を構想してきた岡野さん。今年鴨川市ではいよいよスポーツを柱としたまちづくりの事業体(例えば、スポーツコミッション)の創設に向けたプロジェクトが始動し、岡野さんは鴨川市の非常勤職員としてこの事業を組み立てることになりました。ここで岡野さんは、ユニークな人材登用を行おうとしています。

“伝統や地縁血縁のある地域社会で、Iターンの方々はなかなかまちづくりに参画しにくいものです。しかしそんな中異例といってもいいほどに地域の人から応援されているIターン組がいるではないですか…。それがオルカ鴨川FCの選手達でした。鴨川の看板を背負って戦う若き女性達は、地元住民の誇りです。オルカが定着するにつれ、選手達がまちづくりに関わる可能性を感じてきました。この事業体では、スポーツ選手がまちづくりを仕事にしていくモデルも合わせて創り上げていきたいと思っています。”

「スポーツを文化に」=「スポーツが日常に」

本イベントの前日が第一回目の会合だったという鴨川市のプロジェクトですが、市の担当職員は指名で決めるのではなく志願で募ったというチーム作りの手法も興味深く、今後の展開に期待が高まります。岡野さんが理想とする地域社会はこうした取り組みの先に「スポーツが日常化している」こと。

“元なでしこジャパンキャプテンの宮間あや選手が「女子サッカーを文化に」と語ってから「スポーツを文化に」という言葉が一世風靡したのは記憶に新しいですが、実は誰も「スポーツが文化になった状態」ってどんなことかよくわかってないと思うんですよね。僕なりに解釈した結果、これは「スポーツが日常化している」だと思います。つまり、アスリートだけでなく一般市民がスポーツ自転車で通勤したり、仕事終わったあと夕日を眺めながらSUPしたり。”

“また一方で「スポーツの解釈を広げる」ことも必要ではないかと思ってます。例えば、僕本気で「草刈りんピック」開催したいと思ってるんです(笑)! 地域のじいちゃんばあちゃんも参加して、1リッターのガソリンでどれぐらい草を刈れるか、みたいなスポーツやったらどうなるでしょう? これ始まったら草刈りのイメージはガラッと変わり、一気に南房総は草刈りの聖地ですよ(笑)? また練習する人も現れてどんどん地域がキレイになることでしょう。こうした発想の転換によって地域の問題をスポーツで解決することだってできるんじゃないかと思ってます。 ”

スポーツ合宿の地、岩井で若者団体「i.PLANNER」結成

福原巧太さん(富山地区若者地域団体i.PLANNER副代表、有限会社福原建築取締役)

登壇者の中で最年少となるのが千葉県南房総市岩井地区出身の福原巧太さん。福原さんは高校時代には千葉県代表として甲子園に出場してベスト4、国体3位の成績を残すほどのスポーツ選手。そんな福原さんが30代に入り岩井で取り組んでいる活動は、スポーツも含めた地域振興を若者の手で進めること。

“1年半ほど前から岩井地区を中心として「i.PLANNER」という団体を立ち上げました。正直なところ、それまでの人生でまちづくりに関わろうという発想もなかったんですね。しかし、現在団体の代表を務める渡邊がある日こう言ったんです。「俺たちも30歳過ぎて、この地域を隣近所でどうにかしないと、この先子どもの世代に町を残せないんじゃないか?」と。そこでまずできることからと始めたのが、月一のビーチクリーン活動だったんです。”

岩井海岸で月一のビーチクリーンを実施するi.PLANNERの皆さん

岩井地区は南房総の玄関口にある立地や岩井海岸と一体となった町の環境もあって、一昔前から民宿が盛んで、現在でもスポーツ合宿の地として知られています。しかし、高齢化や担い手不足から廃業する民宿も多く、その当時の勢いは失われつつあるとのこと。

南房総でサッカー大会を開催する富澤隼人さん(左)と、i.PLANNERメンバーの川名義人さん(中央)

“その一方で、当然岩井を出て都会に住んでいる若者もたくさんいます。しかし、一度地元を出ると地元の活動に参加しづらくなるのも確か。そんな中、今日隣にいるこの富澤くんが、南房総でサッカー大会を開いているところを目の当たりにしたんです。子ども300人、大人300人もの人々が岩井にきて賑やかにサッカーをしています。都会に出た後も地元を思い、人を連れてきて地域盛り上げようとする彼。ただ、残念なことに、周りを見渡しても地元の協力が何もなかったんですね。ショックでした。”

若者の力で外と地元をつないで地域を盛り上げていきたい

そこで福原さんは、何かイベントを盛り上げることができないかと考え、次の年の大会でかき氷を会場内で出すことに。これが子ども達にとても喜ばれました。この経験も相まって、都会に出た岩井の若者が地元と協力して地域を盛り上げられるように、その繋ぎ役も果たしたいという思いも芽生え、「i.PLANNER」は徐々に活動内容を広げていきます。

“田舎は、地域にもよりますが、意外と「しがらみ」も多いんです(笑)。外から入ってきて、突然何かをするのは非常に難しい。しかし僕らのような地元の、しかもキーワードとして「若者」が一緒になって動くことで不可能を可能にすることができる場合があります。「どこどこの野郎のせがれがやってるから頼むよ」ってな感じです。「i.PLANNER」は地元を出た若者も含め、岩井で何かをやりたいという人々を最大限応援し、地元と協力することで岩井らしい何かエッセンスを加えられる存在でありたいと思っています。”

2018年4月に岩井海岸で開催された「南房総ビーチアルティメットオープン2018」の様子

“一つ実例として昨年夏に岩井海岸で開催した「アルティメット」というスポーツ大会の様子をご紹介します。とある大学生が主催となって200人の学生が集まったイベントでしたが、夜には岩井海岸でDJブースを設けてフェスのようなパーティを楽しみ、次の朝は岩井で昔から知られる地引網体験を組み合わせることができました。こうしたスポーツイベントに限らず、岩井でお店をやりたい、事業をやりたいだなんて人も我々に相談してもらえれば何か新しい提案ができるかもしれません。こうした活動の中から、かつて「Hawaiiに行くより近くのIwai」と呼ばれていたあの頃を復活させたいと思ってます!”

北条海岸にスポーツのある風景を

小割洋一さん(館山市海岸活性化プロジェクト推進協議会会長、株式会社シー・デイズ代表取締役)

そして登壇者の最後は、千葉県館山市の北条海岸沿いでアウトドアフィットネスクラブ「SEA DAYS(シー・デイズ)」を営む小割洋一さん。小割さんは、都内でインターネット関連企業に勤めていましたが、サーフィンで親しんでいた館山へ7年前に移住しました。

“岡野さんの「スポーツがまちづくり」になり、スポーツの文化とは日常化させることというお話は全くその通りだと思います。実は、SEA DAYSを建てる前に一つ参考にした街がありました。カリフォルニア州のエンシニータスというところです。この写真、イベントとかではなく、普通の日常なんですね。サイクリング、ランナーが道を走り、もちろんサーファーがいて、公園でヨガをする人々、またカフェなどでも健康的なメニューを出すところが多く、世界中から人が集まっています。こんな風景を北条海岸にも作れたらいいなぁという思いがありました。”

南房総と関わりをもつことで都市住民が活性化してほしい

2014年にオープンしたSEA DAYSは、ヨガやSUP、ランニングで様々なプログラムが用意されており、カフェを併設するほか仕事もできる複合施設。また小割さんは館山市の海岸線活性化を目的とした「北条海岸BEACHマーケット」というイベントを運営する協議会の会長も務めており、さらに広い視点から海岸線の活用を提案しています。

館山市北条海岸沿いにあるSEA DAYS外観

“SEA DAYSをはじめて4年になりますが、ここを舞台に日常的にヨガをする人や海岸線でランニングする人、海でSUPする人が少しずつですが増えてきたように思います。ただ、もちろんこれまでなかった新しいことに挑戦しているので、イメージをつかむことも大切です。そこで2015年から開催している北条海岸BEACHマーケットでは、ヨガやSUP以外にもウィンドサーフィンや釣り、ドッグトレーニングなどこの海岸に適した様々なアクティビティも体験することで、イベントが海岸線の活用方法を提案できるように進めてきました。海岸線を活性化するとは、つまるところ海岸線を利用する人が増えることだと思うんですね。”

北条海岸BEACHマーケットにて開催したSUP体験やヨットクルージング(提供:鏡ヶ浦ヨット倶楽部)の様子

2017年11月のイベントではSEA DAYS主催で第一回SUP大会も同時開催を実現したということで二年目となる今年も楽しみなところ。「恵まれた自然環境を地元の人こそ享受すべき」という思いでSEA DAYSを建て、地元住民も観光客も楽しめるマーケットを組み立てる小割さんですが、今年新たな事業をスタートしました。

“地方の活性化を考えた時に、観光も含めて都市部の方に来てもらうことを考える限り、本質的には都市活性化なのではないかと思います。私もこの地域が、自分を元気にしてくれたという実感があって移住してきました。この地域には首都圏との立地条件も含めて、そんな可能性が秘められているように感じます。そこで首都圏の方々向けにはじめたサービスが地域のアウトドアスポーツも含む体験予約サイト「AWANO」です。体験を通して都市部の方が田舎と関わりをもつことで元気になり、都市の活性化が地方の活性化となる好循環を生み出していきたいですね。”

地方イベントを毎月東京で開催する狙いとは

永森まさしさん(南房総市公認プロモーター、HAPON新宿共同創設者)

サロンはその後、質疑応答に入り、また参加者の1分間PRの時間を経て親睦会に進みました。登壇者それぞれにスポーツとの関わり、地域性も異なり、主に「まちづくり」がキーワードとなって多角的な議論が行われたのではと思います。それでは最後に「南房総2拠点サロン」を主宰する永森まさしさんに、この企画について聞いてみましょう。

“こうしたサロンをやりたいと思ったのは、3年ぐらい前に遡ります。一つは東京の南房総に興味ある人や2拠点居住している人らが、足を運ばなくても南房総を感じることができる場を作りたいということ。そしてもう一つが、南房総の人が自分たちを俯瞰して見ること。南房総は半島の先端で固まっているように見えて地域それぞれの独自性が強いです。そこで例えば、こうした企画を南房総でやろうとした場合、開催地だけで議論が紛糾するでしょう(笑)。だからこそ東京でやることが大切だと思ったんですね。”

集約ではなく連携 南房総モデルを構築したい

永森さんは、南房総へ移住歴10年。シェア里山をテーマとした古民家ヤマナハウスの運営や「南房総2拠点大学」や「南房総感動体験ツアー」など市の事業も運営してきました。南房総2拠点サロンは、そうした事業に関わる中で南房総らしい活性化とは何か考えた末にアイディアが生まれました。

“地域活性化の成功モデルで、神山町や最近では熱海が取り上げられることが多いのですが、それらは「集約」モデルだと捉えています。活性化する地域の範囲が徒歩圏内なんですね。南房総というエリアは広いのでこうしたモデルは適用できないでしょう。一方南房総では「連携」モデルが実現可能ではないかと考えています。多くの活動が点在していますが、連携してネットワーク化することで「南房総モデル」が誕生するのではないかと構想しています。また、そのネットワークに都市の人々が自分に合った形で関わることができるのも南房総モデルの特徴です。リピーターに始まり、二地域居住やサテライトオフィスなど関わり方は多様で段階的です。都市住民がミツバチのように各活動の触媒となることも「連携」モデルには欠かせないでしょう。この2拠点サロンを皮切りにして、テーマごとに地域内の連携を強めていけたらいいですね。”

発表の後は参加者全員で活発な交流が行われた

東京新宿で開催したにも関わらず半分以上が、南房総に住む参加者だったという第一回南房総2拠点サロン。これほど南房総の人が関心をもったのも、地域を超えて連携する可能性を感じているからかもしれません。とはいえイベントはもちろん、都市住民大歓迎。サロン形式なので気楽に参加することができます。次回以降のテーマ候補は「起業」や「移住」「サラリーマン」「獣害」「農業」など多岐にわたっていますので、興味ある方は記事末リンク「南房総2拠点計画」のページをご覧ください。地域ごとに特色が異なり、バラエティに富んだ南房総地域。南房総2拠点サロンでの都市住民との出会い、地元民の気づきを経て、ますます広域で連携した活動が生まれて地域活性化につながっていくことを願います。