ローカルニッポン

シラハマ校舎の小屋暮らし vol.1 〜40代、共働き夫婦が小屋を買ってみた 〜

書き手:多田佳世子
安房郡(現・南房総市)白浜町出身。東京―白浜の二拠点&別居婚生活を経て、2013年に白浜へUターン、夫と同居を始める。母校である長尾小学校を利活用し、2016年よりファミリー・ビジネスでシラハマ校舎を運営している。

千葉県最南端の複合施設・シラハマ校舎に、都内から隔週で通う一組の夫婦がいます。陸名英二さんと純子さん、都会育ちの二人はどのような経緯で、南房総に拠点を持ち、小屋暮らしを始めるに至ったのでしょうか。今回は陸名夫妻が「無印良品の小屋」をベースにしてどのようなデュアルライフを送っているか、その様子をレポートしたいと思います。

東京住まいの共働き夫婦

陸名英二さんと純子さんは今年で結婚18年。それぞれが同じサッカーチームのサポーターをしていた20代の頃、遠征に向かう電車の中で知り合い、交際へと発展しました。

英二さんは中学時代から陸上部に所属し、インターハイ出場後は大学までスプリンターとして走り続けました。卒業後はスポーツ振興関連の会社で働き、気が付けば仕事漬けの毎日。たまの休みも外出すらしなくなっていたそうです。

一方、大学の教科書などを扱う専門出版社に勤務する純子さんは、仕事の集中する時期はあるものの、元々社交的で多趣味。バランスをとりながら、フルタイムの仕事と家事と趣味をこなしていました。気がかりは、すっかり出不精になってしまった夫。純子さんは自身の趣味の場やイベントに誘ってみましたが、英二さんが足を運ぶことはありませんでした。

「無印良品の小屋」を知る

走行性の高い折り畳み自転車は小屋ライフのよき相棒

走行性の高い折り畳み自転車は小屋ライフのよき相棒

「このままではマズイ。」不健康な生活を変えたいと一念発起した英二さん。まずは昔好きだったロードバイクを再開しました。ロードバイクは都市部で通勤などに使われることもありますが、自然の中を走る爽快感はくらべものになりません。交通量が少なく走りやすいところまで自転車を運び、ロングライド(50km以上を走る)するために、所有していた国産のセダンを手放し、自転車が積める車を探すことにしました。そしてちょうど車選びをしていたその頃、偶然目にしたウェブマガジンで「無印良品の小屋」の存在を知ります。ミニマルなデザインを追求した小屋本体、廃校を利用したシラハマ校舎、豊かな彩色を放つ南房総の原風景。秘密基地の情報を得たようなワクワクした気持ちで、2人はすぐに白浜へ向かいました。

シラハマ校舎を訪れて

山裾に建つシラハマ校舎は、大きな箱庭にも見える独立した空間。高台の校庭から太平洋を見下ろすと、英二さんはここに小屋を持つ生活が自然と浮かんできたそうです。「海の見えるところに住んでみたかった」という純子さんの気持ちもあり、その時残っていたオーシャンビューエリア最後の1区画を契約しました。小屋が建つと、さっそくツーリング。南房総は以前からサイクリング合宿が盛んですが、実際に走行すると道路の良さはすぐに実感できます。開通したばかりの安房グリーンラインや、ロードレースにも使用されるフラワーラインは、信号がほとんどなく、俊敏で軽快な走りが楽しめます。また、冬でも温かいことに加え、四季を通して路地に花があり、海の向こうには伊豆七島や富士山…と、広大なパノラマが広がります。そして深い山中の道はマウンテンバイクに持ってこいの場所。房総半島は海も広いが、山もまた深いのです。

純子さんが撮影した、静寂に包まれる夜の木造校舎

純子さんが撮影した、静寂に包まれる夜の木造校舎

白浜で見つけた新しい趣味

週末を小屋で過ごすようになると、田舎暮らしならではの新しい趣味ができました。純子さんは一眼レフカメラで木造校舎にある不思議な空間や色とりどりの房総の四季を撮影。同時進行で庭造りにもチャレンジし、マカダミアナッツの木を植え、収穫を目標に世話をしています。

英二さんが奮闘したのはDIY。最も時間と労力をかけたのが庭先の石畳で、敷地の雑草を抜いて、填圧を行い、防草シートを敷き、レンガをひとつひとつ並べていく根気のいる作業。材料を購入したホームセンターのウェブサイトに掲載された手順に従い、作業すること3日間。縁側から続くスタイリッシュな石畳が完成しました。

夫婦でサップスクール。ボードが大きくバランスがとりやすいのが特長

夫婦でサップスクール。ボードが大きくバランスがとりやすいのが特長

陸から海へ

青春時代を陸に捧げた英二さんに海遊びの思い出はありません。純子さんにとっても、ビーチはセブやハワイで楽しむもので、房総半島の海がこんなにきれいだとは思ってもみなかったそう。小屋を買って初めて迎えた夏は、近くの海水浴場やシュノーケルポイントを巡り、子どものように海遊びを楽しみました。さらに夫婦揃って、サップスクールのレッスンに参加。たまたまシラハマ校舎にはサーフィンとサップを教えるスクール「SUP&SURF KAIPOOH(カイプー)」があり、沖縄出身のオーナーから見ても、ウミガメや魚がいる白浜の海の美しさは格別とのこと。灯台を見ながらクルージングできるという環境も大変珍しいそうです。

バーベキュー後は焚火タイム。薪も自前で調達しています

バーベキュー後は焚火タイム。薪も自前で調達しています

アウトドアライフ

小旅行と小屋暮らし、最も大きな違いは食事かもしれません。旅行ではレストランや旅館で夕げを楽しむのが大半ですが、小屋暮らしでは、外で火を焚いたり、シェアキッチンで自炊をします。陸名さんたちの場合は、庭先で火を起こし、房総で仕入れた食材を焼いて簡単なBBQをすることが多いそうです。夕刻からアウトドアチェアに腰かけて、焚火をしながら空を見上げ、赤から紫、そして満点の星へ移り変わる様子を眺めるのは至福のひととき。また家では家事をしない英二さんが、朝豆を挽いて入れるコーヒーを愉しむことも純子さんにとっては小屋暮らしの醍醐味となっています。

青い空にヤシの木が映える、冬の一コマ

青い空にヤシの木が映える、冬の一コマ

ひとりでも、家族でも

普段は家族単位でも、スケジュールが合わなければ一人で来る。一人で来ても楽しめるというのがこの小屋のコミュニティのよさでもあります。陸名夫妻のソロ小屋ライフを見てみますと、純子さんは既に一緒に食事に出かけたり、ヨガをする白浜の友人がおり、車の運転ができなくても行動範囲は広がっています。少し人見知りの英二さんは、庭作業をしたり、山登りに行ったり、時としてシラハマ校舎のレストランを手伝ったりして過ごしているようです。

「無印良品の小屋」の見学説明会を開催すると、参加する大半の方が、家族で過ごす時間を重視しているように見受けられます。しかしパートナーと離れて1人で過ごす、相手に一人の時間を作ってあげるという副産物も二拠点生活ならではなのかもしれません。

利用開始時期:2017年秋
利用メンバー:夫婦+小型犬、時には1人で
利用頻度:隔週の週末
庭の利用方法:菜園エリア、BBQエリア
白浜での過ごし方:ロードバイク、海遊び、山歩き
シラハマ校舎での過ごし方:DIY、BBQ、犬の散歩、星の撮影
近隣のおすすめスポット:ギャラリー&カフェ「波音日和」

リンク:
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無印良品の小屋