奥尻島。北海道南西部の日本海上に浮かぶ人口約2600人の小さな島ながら、縄文時代の遺跡や遺物が多く見られる歴史のある島です。その奥尻島で『島留学生』として高校生活を送る生徒たちがいます。
かれらが通う奥尻高校は、1975年に北海道立の高校として設立されました。1993年に発生した地震と津波は人口減少を加速させ、存続の危機を打破すべく2016年に町立高校になりました。その後2017年に5名、2018年には、16名もの『島留学生』が入学し、2018年度は教員含め計65名が所属する高校となり、過疎地域における高校存続の成功事例となっています。大切な3年間、彼らを育んでくれる奥尻の豊かな自然と温かい人々、「奥尻高校生」の目線で自分たちの住んでいる島、奥尻島の魅力を数回にわたって紹介します。
奥尻高校生によるレポート1、奥尻島とは
先述した通り、奥尻は小さな絶海の孤島ですが、その中にある魅力はまるでウニ身のように濃縮され詰まっています。最初に思い浮かぶのは、まず海。
奥尻の海、それはオクシリブルーと呼ばれるほど透明度の高い海として有名で、そこには、奥尻に生えるブナの木や海流が大いに関係しています。顔をあげれば遠くまで見渡せる広い海と下を向けば透き通る海(港透明度20~25m)、その両方を見渡すことができる港からの景色も絶景です。時には海上に霧がかかり、それが反射する幻想的な雰囲気を醸し出すこともあります。
アクティビティも大変豊富です。定番の釣りは北海道の中でも大変人気のあるスポットとして有名で、時間と場所、そして少しの運があれば、初心者でも30~40センチ台の魚が釣れるスポットとして知られています。夏のシーズン時には漁港に釣り人達の大量の車が止まっているほど。西部の神威脇では、SUP(サップ)と呼ばれる陸、空、海すべてが楽しめるアクティビティがあり、一度は経験してほしいです。
そして海の幸。代表的な物と言えばウニですが、そのウニも他とは比べられないほど深く美味なのはもちろんのこと、イカやアワビ、桜貝など、取れたて新鮮が味わえます。ほかにもホッケ、ヒラメ、カレイなどなど、ぜひ一度食べてみてほしいです。詳しくは次の機会で紹介しようと思います。
次に陸。陸といっても多種多様で、見どころが溢れかえっています。
まずは海の件にも出てきたブナの原生林(離島における北限)。奥尻全域を覆っているブナの木は奥尻の自然環境に大きな影響を与えている。それは、奥尻の先人達が守ってきた文化に由来があります。
このように奥尻は自然豊かな島です。先ほどのブナの木はもちろんのこと、通常より遅めに咲く桜は人が少ないこともあって見事に独り占めできます。空気がおいしく感じることも、けっして気のせいではないと思います。
一概に『自然』と言っても、危険なイメージがある方も少なくはないでしょう。なにしろ山にはヒグマだったりマムシだったり、実際に色々な危険が潜んでいることがほとんどです。しかし奥尻島は違います。ヒグマやマムシはもちろん、危険な生態系とは無縁の島です(生態系の頂点はタヌキ)。上流に行って川遊びもやり放題、そんな安心して遊べる環境が整っているのも奥尻の自然のすばらしいところです。
さらに、奥尻は季節、時間で景色が180度変わります。
同じ道、同じ森、同じ場所だろうと、ある時は霧立ち込める怪しげな空間、ある時は木々の間から日が差す暖かな空間、又ある時は雲一つなく北海道本土の山々が見える見渡しがいい爽快感のある空間になります。その変化は留まることはなくその時、その瞬間だけのものです。奥尻の絶景は海だけではないということがわかっていただけるでしょう。
そして奥尻は小さな島ながら、5箇所に神社があります。宮津弁天はもちろんのこと、他にも美しく神秘的な雰囲気の神社があります。これは漁業者が多く、海上安全を祈願することが多いことが所以です。
そして、海、陸ときたら次は空です。
空、北海道民は先の震災による停電で、星空の美しさと壮大さを思い出しました。
その時夜空はすべてを暗く包み込み、その中に光る星が嬉々ときらめいていたといいます。
奥尻では高い建物や街灯りが少ないことで、そんな景色が日常に見られます。
より壮大に見える景色、月は時にその姿を雲に隠し、時に満天の星空とともに顔を出します。都会から来た同級生達はこの星空を見て、「価値観が変わった」、「人生観が変わった」、「自分がちっぽけなものに見えた」と言います。見るだけで人を変えるその星空は三大夜景にも劣らぬ価値があるものでしょう。ぜひお越しいただき実際にその目で見て欲しいと思います。
奥尻は意外にも酪農と農業が盛んです。奥尻のブランド奥尻牛・奥尻米や奥尻ワインなど、意外と知られていない美味しい名産品が多く存在しています。
奥尻は祭り等のイベントも盛んです。『賽の河原祭』、『室津祭』、『なべつる祭』は、それぞれ稲穂、青苗、奥尻と三つの地区で行われ、『奥尻三大祭』と呼ばれています。奥尻のおいしい食べ物は勿論のこと、カラオケ大会や海産物が景品のビンゴ大会など、家族で来てもそれぞれが楽しみを見つけられる充実の内容です。
そして奥尻の最大のイベントといえば、奥尻ムーンライトマラソンです。島全体をコースとしているので、夜の満月を楽しみながら走る魅力いっぱいのマラソン大会です。
私たち奥尻高校生もボランティアとして参加したから分ることですが、とにかく熱気がすごいです。犬を連れて走っている人、自分の限界に挑戦する人など目的は様々ですが、ゴールした瞬間の達成感は、各々凄まじいものだろうと思います。マラソン前・後にウニやアワビに舌鼓を打つお楽しみも用意されているのでおすすめしたいイベントです。
このように、魅力たくさんの奥尻島ですが、その中で私たち自身がどのような取り組みをおこなっているかをご紹介していきます。
奥尻高校生によるレポート2、奥尻高校の取り組み
代表的な取組みは、公立高校普通科で唯一、総合的な学習の時間で行われているスクーバダイビングです。
この取組みが始まったのには深い理由があります。時を遡ること26年前、M7.7〜7.8、震度6の巨大地震、北海道南西沖地震が発生しました。そして奥尻に甚大な被害を及ぼした津波、そのことが原因で奥尻島の子供たちは海を恐れるようになってしまいました。
そんな事態を解決すべく大人たちは立ち上がりました。そうしてできたのがこの、スクーバダイビングなのです。このカリキュラムに惹かれこの高校に入学した生徒も少なくはありません。
そして『町おこしワークショップ』は、他の高校ではあまり例がないかもしれません。この取組みは、「人口減少の激しい奥尻島を活性化するにはどうしたらいいか。」を生徒たちがいくつかのグループに分かれ、生徒主体で解決策を練り、実際に町長や専門の方々の前に立ってプレゼンテーションを行うという画期的な取組みです。
他にも、大学生とSkypeを通じ進学希望の生徒にアドバイスをしてもらう『Wi-Fiニーネー』と言う仕組みの活用や奥尻島外から入学した島留学生のための学生寮の完成など、さまざまな角度から取り組みが進んでいます。
そんな多様な取り組みを行う奥尻高校ですが、部活動遠征費という大きな問題があります。奥尻高校では遠征時の移動費がかさむうえ、宿泊が必須となるため他校に比べ1回の遠征費にプラス約2万円の差が発生しています。
その課題を解決するため2017年に有志で生徒が集まり、クラウドファンディングを行い、部活動遠征費を多くの方に支援していただきました。約150万円もの支援金が集まりましたが、この部活動遠征費問題は継続して取組むべき課題であることから、2018年、オクシリイノベーション事業部(Okushiri Innovation Division)、通称『OID』が「部活動を支援する部活」として誕生しました。『OID』は5名の島留学生で構成されています。
『OID』は、Tシャツ販売や地酒のラベル作成など様々なことをして部活動遠征費を生み出してきました。そして活動の中で芽生えたのは「奥尻高校だけではなく、奥尻島の秘めたる魅力を様々な人に知って欲しい。」という想いです。
これからも奥尻の秘めたる魅力やこの地をより楽しむためのコツ、穴場スポットを発信していきます。是非次の記事で、そして奥尻島でお会いしましょう。
文・写真:北海道奥尻高等学校 オクシリイノベーション事業部(OID)