ローカルニッポン

小さな林業で里山再生を〜「房総自伐型林業推進協議会」発足 前編①

書き手:下郷さとみ
千葉県鴨川市在住。ジャーナリスト。農的暮らしを求めて移り住んだ地で里山保全活動にも取り組む。海外ではブラジルのスラムやアマゾンを継続して取材。先住民族の暮らしに人と自然が共生する場「里山」を感じている。

 自伐型林業という言葉、聞いたことがありますか? 字面通りに平たく言えば、「自分で伐(き)るスタイルの林業」。さて、イメージできたでしょうか。
 2019年 1月 12日、千葉県夷隅郡大多喜町旧老川小学校のホールで「房総自伐型林業推進協議会設立イベント〜房総の未来をひらく自伐型林業」が開かれました。この日、発足した房総自伐型林業推進協議会は、全国組織である NPO法人自伐型林業推進協会と連携しながら千葉県内の自伐サポートを行う地域グループです。
 旧老川小学校ではこれまでにも、 2017年 10月の「自伐型林業×タケノコ栽培による地域活性化シンポジウム.大多喜発の地方創生モデル」、 2018年 5月の「千葉自伐型林業交流会」と 2回のイベントを通して、房総地域での自伐型林業導入に関心を持つ人たちが集ってきました。交流会の最後には房総地域グループ設立の提案がなされ、今回、それが実現の運びとなったというわけです。
 これまでの 2回と同様に、自伐型林業推進協会代表理事であり、自伐型林業に取り組む NPO法人土佐の森・救援隊の理事長でもある中嶋健造さんが高知から駆けつけて開かれた今回の設立イベント。「いよいよ房総でも」と気運が高まる様子をご報告します。その前に、まずは「自伐型林業って何?」から……。

小さいからこそ持続可能な山林活用の形

 自伐型林業のキーワードのひとつは「小規模」です。自伐型林業推進協会の説明によれば、少人数(ひとりでも!)で行えて、森林面積がひとりあたり 20〜 30ヘクタールもあれば、採算を取りながら良好な森林づくりができるといいます。もちろんそれ以下の面積でもスタート可能です。木材搬出・運搬用のトラックは軽トラか、せいぜい 2トン車。山に取り付ける作業道は幅 2.5メートル以下で十分なので、敷設工事に使う重機も 3トンクラスのミニバックホー(ショベルの一種)程度です。そのほかチェーンソーや林内作業車(運搬車)など含めた初期費用の総額は 300万〜 500万ほど。切った材の売り先さえ確保できれば、初期費用は数年で回収できるそうです。使うのは小型機械なので燃料も少なくてすみ、維持管理の手間や費用もあまりかかりません。また、林業の実施や機械の操作、重機の運転(公道以外)には特別な資格は必要ありません。

県内外から多くの参加があった「房総自伐型林業推進協議会設立イベント」

県内外から多くの参加があった「房総自伐型林業推進協議会設立イベント」

 もうひとつのキーワードは「持続可能」です。自伐型林業では、適量の間伐を重ねながら市場価値のある材を育てていく「択伐(たくばつ)」と呼ばれる手法により、同じ場所で数十年から 100年以上の単位で長期に渡って施業(しぎょう)を続けていきます。伐採面積が小さいので、伐採跡への再造林の手間もコストも少なくてすみます。
 大きな資金と人手を要する大規模施業は、山林所有者や関心のある人が個人で行うのは無理ですが、自伐型なら補助金なしでもできる。そんな期待から、専業の形に限らず、勤め人の週末の副業として、また冬の農閑期の農家の兼業のひとつとして取り組む事例が全国各地で続々と誕生しているそうです。

土砂災害の減災・防災に役立つ林業として注目

山林再生の新しい形に期待する飯島勝美・大多喜町長。

山林再生の新しい形に期待する飯島勝美・大多喜町長。

 現在の林業で主流の大規模施業では、国が推進する方法に基づいて、過度の間伐や植林後 50年をめどに広い面積を一斉に伐採する「皆伐(かいばつ)」が補助金を活用して行われています。大型林業機械を使うには道幅の広い作業道の敷設が必要で、それに伴い、山肌を削る切り土と崖側に積む盛り土の幅も高さも大きくなります。山に大きく手を入れた分だけ、山崩れなどの災害発生リスクが高まることが懸念されます。
 いっぽう自伐型林業では、小規模だからこそ実現できる自家経営と森林環境保全のふたつの面での持続可能性が大きな特長です。イベントで挨拶に立った飯島勝美・大多喜町長も、そこに大きな期待を寄せるひとりです。
「大多喜町ではタケノコ生産が地元の経済を潤しています。タケノコ生産と自伐型林業という、小さな農業と小さな林業を合わせて行うことで、山林再生の新しい形を作っていけたらと考えます。房総は山林が占める割合が高く、地形も急峻です。厳しい災害が全国で多発するなか、自伐型林業が貢献する役割は大きい」と会場に語りかけました。

「日本に合った林業を」と語る自伐型林業推進協会代表理事・中嶋健造さん。

「日本に合った林業を」と語る自伐型林業推進協会代表理事・中嶋健造さん。

 近年、全国各地で集中豪雨が多発し、土砂流出や山腹崩壊などの山地災害が発生しています。飯島町長からも指摘のあった、このような時代に自伐型林業が果たす役割について、中嶋代表理事から現地写真のスライドを交えた解説がありました。
 「洗い越し(あらいごし)」と呼ばれる、地形に手を加えずに沢筋を渡る道の付け方や、幅の狭い作業道を高密度に山肌に入れていく手法、路肩を木組みで補強する技術。これらは土砂災害を引き起こしにくいだけでなく、たとえ土砂が流れても道の造作そのものが砂防ダムのような働きをして大規模流出を食い止めるのだそうです。
「これは、壊れないような道を作り、皆伐はせずに適正にこまめに間伐を行う小規模分散型の林業です。だから防災・減災に役立つ。雨が多く山が急峻な日本に合った林業のあり方として、自伐型林業をぜひ取り入れてほしい」と中嶋さんは呼びかけました。

中嶋さんのスライドから。作業道の造作そのものが防災・減災に役立っている。

中嶋さんのスライドから。作業道の造作そのものが防災・減災に役立っている。

大都市圏に近く、山も海も田畑もある房総だからこそできること

 中嶋さんによれば、湿潤な気候と急峻な地形に育つ日本の木は、欧米産の材と比べて質がとても高いそうです。「大規模施業は良材に乏しい欧米だからこそ発展した方法ですが、自伐型では生産しながら良質材を育てていく。つまり在庫が減らない。平均的な施業面積は大規模施業と比べて 10分の 1以下でも、面積当たりの就業者数は 10倍です」と中嶋さんは指摘します。
 房総には地形や気候、スギの品種などに由来する要因で良材が少ない、という事情についても、「人工林でも里山のような広葉樹林でも、やり方次第で自伐型林業は成り立ちます」と、前向きなコメントがありました。「千葉は山林も田畑もある。漁業もある。いろんな業と組み合わせながら小さな林業ができるという点では、非常におもしろい地域です。そして、なによりも大都市圏に近い。たとえば薪ストーブを使う家庭向けの薪の市場はとても大きいです」。房総における自伐型林業の可能性を示唆して中嶋さんからの報告が終わりました。

前編①では「自伐型林業って何?」をご報告しました。後編②では、千葉県内で取り組まれている実践例を中心にリポートします。

文・写真下郷さとみ

特定非営利活動法人自伐型林業推進協会
https://jibatsukyo.com