シラハマ校舎の小屋暮らし vol.3~休日はひとり暮らし!?~
安房郡(現・南房総市)白浜町出身。東京―白浜の二拠点&別居婚生活を経て、2013年に白浜へUターン、夫と同居を始める。母校である長尾小学校を利活用し、2016年よりファミリー・ビジネスでシラハマ校舎を運営している。
vol.1は「夫婦で」、vol.2は「仲間で」楽しむ小屋暮らしでしたが、vol.3は都会住まいの女性の二拠点スタイルを紹介します。今回の記事は、家族と暮らす女性たちが抱くささやかな夢が実現したひとつの形といえるかもしれません。東京のど真ん中に暮らす既婚女性が、休日は仕事や家事から離れて一人の時間を過ごします。
小さな別荘を求めて
東京生まれ、東京育ちの岡野優子さん。幼少期から芸術に親しみ、現在は南青山でギャラリーを経営しています。様々なアーティストと付き合い、その作品を取り扱ううちに気が付いたのは「自分はアーティストにはなれない…でも物づくり、手仕事ならできるのでは?」ということ。そんな時、館山でアトリエを営むサハラ文子さんと知り合い、彼女が主宰するアップサイクル研究所「マザーズタッチ」に通うようになりました。
南の太陽と潮風が心地よいサハラさんのアトリエ。「こんな海のそばに、自分だけの小さな家が持てたらいいのになあ」ポロリとこぼした岡野さんの一言に、「あら、あるわよ」とサハラさん。その足でシラハマ校舎に案内され、展示小屋を見学すると…「ここだ!」と一瞬で気に入り、すぐさま購入を決めてしまいました。同席したサハラさんによれば「大根でも買うみたいな早さだった」とのこと。それほどまでに小屋は理想に近かったようです。
そしてシラハマ校舎に対する岡野さんの第一印象は、小学校の良さを残しながらリメイクされ、古さと新しさが融合された魅力溢れる空間ということ。「自然を愛し、モノ作りを大切にする」というギャラリーのコンセプトにも通ずるものがありました。加えて、この施設が家族経営でアットホームな雰囲気をもっているところや、オーナー自身が庭造りやリノベーションを手がけており、気軽に相談できるところにも安心したそうです。
コンパクトな小屋の使い方
岡野さんが「小さな家」に拘ったのは、一軒家を持ってしまう煩わしさを主婦の目線でよく知っているから。無印良品の小屋には水回りが付いていませんが、それはお風呂やトイレ、キッチンの掃除を自分でしなくていいという利点でもあります。それまでキャンプなど趣味はなかったそうですが、昔からヨットに乗っており、アウトバスには慣れっこ。小屋を買うときにも大して問題にはならなかったそうです。
ヨットといえば、岡野さんの小屋は効率な収納家具により空間が確保され、まるでクルーの船室の様。実際に中に入ってみると、意外なほど広さと開放感を感じます。どの小屋にも小さな覗き窓と大きな掃き出し窓(出入口)がついていますが、この出入口の引き戸を開けたときに視界を遮るものがなければ、奥行きが広く感じられるようです。
ここではオーダーメイドの壁面収納が大活躍。場所をとる冷蔵庫に合わせて片端の奥行きを決め、そこから反対側へと緩やかなカーブをつけて狭くなるように作られています。また、棚の高さを覗き窓の窓枠と合わせたり、留め具に木製ダボを使用することで壁と一体感をもたせ、非常にスッキリしたデザインに収まりました。使い勝手の面では、胸の高さの段を作業台として利用できるようにし、下部のチェストを引き出せば、人数が増えたときのテーブルになるなど、可変性に優れていることも特徴です。
小屋での過ごし方
小屋の見学説明会を開催すると「女性ひとりでも利用できますか」という質問をよく受けます。小屋に限らず、シラハマ校舎内のシェアオフィスやゲストルームでも、女性一人で利用するお客様は多く、レストランも同様。ここでは、宿泊や食事が1人でも、灯りがついて人の気配がするだけで十分なのかもしれません。
さて、小屋で岡野さんがしていることといえば、庭では焚火やガーデニング、室内では編み物。20代の一時期、集中して手編みの講習を受けたこともありましたが、猫を飼い始めたり、子育てに追われたりして長いこと毛糸玉はしまったままだったそう。小屋を購入した時、ちょうどシラハマ校舎の中で編み物教室が行われていたこともあり、手編み熱が再燃。現在も週1回、地元のニット作家「NAGI COLLECTION」さんから指導を受け、コツコツと手仕事を続けています。
南房総ドライブ事情
ひとり行動が多い岡野さんは、どこへ向かうにも自らハンドルを握るため、交通事情はダイレクトに実感するところ。渋滞や道の狭さ、駐車場やトイレ探しは運転中のストレスになりがちですが、南房総の海岸沿いは道路の幅が広く、ゆったりとした気持ちでドライブを楽しめます。
また、海岸の道路沿いには駐車場が至る所にあり、港や海水浴場にはたいてい無料のトイレが整備されています。同じ日本の観光地でも、用を足すにはお店に入るか、駐車場を探して公衆トイレまで歩くしかない地域もあるため、他県からのお客様には非常に好評を得ているようです。
楽しいお店めぐり
岡野さんによれば、南房総では道と同じく人も大らか。そして、ゆったり構えた房州人が営むこだわりのお店を巡るのも楽しみの一つ。白浜町内のイタリアン・レストランをはじめ、古材を使った家具のお店や、船大工のオーナーが営む木工所、手作り豆腐、ガラス工房等々。
おしゃれなお店や個性的なショップであれば都心部の方が充実していそうですが、岡野さんは何しろ人混みが苦手。また、店舗やスタッフの入れ替わりがあると、どこか味気なく感じるような気がします。その点、デュアルライフのこちら側では、個人や家族経営のお店が多く、いつ訪れても同じ顔ぶれ。作り手のスタイルを知るほどに、料理や商品の魅力が伝わってきます。
そんな地元の作家たちが一同に会すのが、シラハマ校舎で定期的に催されるシラハママーケット。新鮮な地元野菜やクラフト、一点ものの陶器、アクセサリーなどの店が校舎内に立ち並び、レストラン「バルデルマル」では房総の料理人たちが自慢のソウルフードを販売します。岡野さん自身もこのイベントのファンで「地方の高齢化が嘘のように若い力を感じることができる」とのこと。 交流を重ねた房総のアーティストたちの何組かは、既に岡野さんのギャラリーで個展を開いており、東京での展示の場を提供できたことも嬉しい限りで本業にも熱が入ります。
ひとりで楽しむ
家族と少しだけ離れたひとり時間を持つという今回のお話、いかがでしたでしょうか。「家族は大切だけど、定期的に一人でリフレッシュする時間があれば、もっと頑張れるかも…」そんな気持ちになりませんでしたか。
車の運転や予算などのハード面がクリアになれば、あとは外に出ていく行動力と、人間関係を広げられる柔軟性。条件の合う女性の仲間で小屋を共同所有し、利用するときはスケジュールをずらして1人で過ごすというのもいいかもしれません。
文・写真:多田佳世子
利用メンバー:1~3人
利用頻度:週に1~3日
庭の利用方法:花壇、BBQ
白浜での過ごし方:ドライブ、編み物、友人と食事
シラハマ校舎での過ごし方:BBQ、編み物、映画観賞
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