ローカルニッポン

小さな公園の大きな可能性

書き手:宮田麻子

豊島区在住歴25年。外資テクノロジー企業のマーケティング・広報職を経て、2016年に豊島区の民間公募で女性にやさしいまちづくり担当課長(現「わたしらしく、暮らせるまち。」推進室長)に就任。地域住民、区内企業との連携によるまちづくりプロジェクトを推進。2019年4月より「わたしらしく、暮らせるまち。」推進アドバイザー。

まちなかにひっそりと佇む小さな公園

都会の中の小さな公園というとどんなイメージを思い浮かべますか。
仕事の合間にランチや休憩をとる人々、子どもたちが遊ぶ姿を見守るお父さんやお母さん、木陰のベンチで休むお年寄り、楽しそうにおしゃべりをする学生たち。日常の公園の光景ですが、必ずしもそうでなく、あまりひと気もなく少しさみし気な公園も多くみられます。

日本一の人口密度を有する豊島区。公園についてみてみると、23区で一人当たりの面積が一番小さいのです。これは都立公園など大規模な公園が少ないことがおもな理由なのですが、一方で小さな公園がまちなかにたくさんあることが特徴でもあります。

子育てに関するニーズや地域コミュニティの変化に伴い、区内の公園の多くが十分に活用されなくなっていることから、地域に点在する小さな公園を活用し、地域コミュニティの場や地域課題解決の場に再生していく取り組みが進んでいます。ここでは、公園を取り巻く様々な環境と新たに始まった活動をご紹介していきます。

公園を取り巻く環境

近所の空き地や路地、神社の境内や商店街の店先。
かつては暮らしの中に当たり前のようにあった子供たちの遊び場や大人たちの交流の場。

都市化が進むにつれ、こういった風景が少なくなり、その代わりに市街地に整備されていったのが公園です。こうした公園は今から40、50年前に公園数・面積の確保から大量に整備され、すべり台・ブランコ・砂場(公園の「三種の神器」などとも言われています)といった遊具が配置され、今でもまちなかの小さな公園でよく見かける光景です。

少子高齢化は言うまでもなく、ライフスタイルや価値観の多様化に対し、公園に対するニーズも変化しています。これまで一律に整備された公園のあり方を、暮らしや地域との関係性から見直し、新たな役割や利用価値を高めていくことが求められています。

豊島区は、区内に本社拠点を置く良品計画と2017年11月にまちづくりに関するパートナーシップ協定を締結。区内公園でのマルシェ開催や定期的な意見交換の場づくり等、中小公園や遊休地を地域コミュニティの場へと再生する協働プロジェクトをすすめ、まちづくりにつなげています。

両者の複数の所属部門の社員と職員から構成されるプロジェクトチームを組み、これまでにほぼ毎週のペースで会議(お茶の間会議と呼ばれるもの)などを繰り返しながらプロジェクトを進めています。公園の現地調査として利用者のオブザベーション(観察)や立地周辺環境(住宅・店舗、公共・商業施設など)のリサーチ、地域住民の方々や周辺施設、店舗の方々へのヒアリングや対話を重ねながら公園の未来の姿についてアイデアを出し合ってきました。そのプロセスでは公園そのものを単体として捉えるだけでなく、公園の置かれている地域の特性や課題、人々の生活や営み、はたまた長い地域の歴史の中で培われた文化や人々の想いなどを踏まえながら、ニーズ(今あるものと潜在的なもの)を把握し、公園の担えうる役割を考え、実践と検証を繰り返していく。まさにまちの未来を考えるプロセスでもあるのです。

プロジェクトチームによる公園での作業風景

プロジェクトチームによる公園での作業風景

○○できない公園から○○できる公園へ

公園の近隣や地域にはさまざまな人々が暮らしています。
特に都心の住宅街の中の公園となると、意見や苦情など様々な声が役所に届きます。

それに対応しているうちに、いつの間にか「ボール投げ禁止」「花火禁止」「犬の散歩禁止」などの禁止看板が多く立ち、みんなの場所であるはずの公園が、誰のものでもなく、だんだんと使いづらい場所になってきてしまいました。

もっと利用者同士の対話・コミュニケーションにより、解決できることや、「できる」ことを増やす取り組みがあるのではないか。たとえばボール遊びができるようになるには、どのようなルールがあったらいいか、ボールの種類や時間帯、公園内の場所などみんなで話し合って決められたら。そのような考えがまとまってきます。もう少しの対話と思いやりで、明らかな迷惑行為や禁止行為以外は公園でできることは意外と多いのかもしれません。

井戸端かいぎと「公園でどう過ごしたい?」投票

「この公園は通り抜けの人が多くて、少し寂しい印象。」
「座ってゆっくりできるところがあればいろんな年代の人が滞在するのではないか。」
「バーベキューや花火をやってみたい。」
「近所のバーベキューイベントは今は厨房で焼いてそれをみんなで食べる形式。公園でできたらうれしい。」

おばあちゃんの原宿として有名な巣鴨地蔵近くの商店街を少し入ったところにある とある公園で行われた”井戸端かいぎ”

おばあちゃんの原宿として有名な巣鴨地蔵近くの商店街を少し入ったところにある
とある公園で行われた”井戸端かいぎ”

この日”井戸端かいぎ”に参加したのは、公園の近くの住民、保育園の保育士さん、町会の方々、大学生のみなさん。この公園の普段の様子やこんな風に過ごしたい、こんな場所になればもっと利用したくなる、などさまざまな声が集まりました。当日は公園に立ち寄る人々に気軽に公園での過ごし方について意見を聞くために、「公園でどう過ごしたい?」投票も行われました。

投票ボードに集まる公園を散歩中の保育園児たち/公園を楽しむコンテンツとして図書館の本を提供

投票ボードに集まる公園を散歩中の保育園児たち/公園を楽しむコンテンツとして図書館の本を提供

バラバラにある禁止看板を極力減らし、共通サインをつくる計画も進んでいます。
サインのコンセプトは「禁止ではなく、できるを伝えるサイン」。
公園の利用者や地域との話し合いによって、○○できる項目を増やしていけるデザインを試作中です。

サインは可動性で、公園の特徴に合わせて掲示内容を変える事ができる。(イメージ)

サインは可動性で、公園の特徴に合わせて掲示内容を変える事ができる。(イメージ)

あるものを活かす

こうした井戸端かいぎや「公園でどう過ごしたい?」投票を重ねながら、公園の活用を進めています。

大きく方針は3つ。

1. 今あるものを活かし、できることを見出す(施設設備の整備は作りこみすぎず最小限に)

2. 公園の特性と立地を活かし、地域のための場になるように見直す

3. 活用の実践と実験を繰り返す

今後も地域のみなさんとの対話の場を続けていきますが、今年2つの公園で新しい動きが生まれることになりました。
地域の声として、公園で「くつろぎたい」というものが多く、くつろげるコンテンツへのニーズも高かったことを受け、より過ごしやすい環境整備(ハード)に加え、活用が進む仕掛けづくり(ソフト)として、可動式のトラックを走らせ複数の公園間をつなぐことを検討しています。現在、トラックに積むコンテンツとして、コーヒーなどのドリンクやパンなどの軽食、本などを想定しながら、運営の事業者などの検討を進めています。

これがきっかけとなり、今まで通り過ぎるだけであまり過ごすことのなかった公園で、天気のいい日にはゆっくりくつろぐ、といった風景がうまれてほしいと思っています。

大規模な公園においては、庭園や遊具が充実していたり、マルシェで賑わっていたりと公園に行くこと自体が目的となる場合が多い反面、地域の身近な公園は、通りすがりにちょっと立ち寄ったり、日々の暮らしの中でふと安らぎを求めたり、近所のお茶の間のような場所になったり。地域に寄り添う公園の可能性が大きく広がります。

環境整備と活用イメージ

環境整備と活用イメージ

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