シラハマ校舎の小屋暮らし vol.4 ~子どもと楽しむ小屋暮らし~
安房郡(現・南房総市)白浜町出身。東京―白浜の二拠点&別居婚生活を経て、2013年に白浜へUターン、夫と同居を始める。母校である長尾小学校を利活用し、2016年よりファミリー・ビジネスでシラハマ校舎を運営している。
「無印良品の小屋」を見学に訪れる方のうち、最も多いのは小学生以下のお子さんを持つ子育て世代かもしれません。小屋に興味があるのはもちろんですが、子どもを自然に触れさせたい、家族で過ごす時間を持ちたいというのはみなさん共通の思い。そこで今回は、昨年から小屋暮らしをスタートしたK野さんご一家に子どもと楽しむ小屋暮らしのお話を聞いてみました。
アウトドアが苦手でも
都内に住むK野夫妻には5歳と10歳の娘さんがいます。多くの親御さんたちと同様、自分たちはアウトドアが苦手でも子どもには自然を体験させたいという気持ちがあり、休日は海や山に連れて行ったり、農作業のワークショップに家族で参加したりしていました。
昨年、下の娘さんが4歳になったタイミングで初めての家族キャンプ。ホテルに泊まる旅行とは違い、子どもたちもテントの準備や自炊・片付けなどを手伝います。そこには生活感いっぱいの作業があるにも関わらず、今までにない非日常の時間が流れていました。気が付けば子供たちは生き生きとしていて、自分で考え、工夫し、姉妹で協力する頼もしい姿がありました。
無印良品の小屋を知る
「この時間をどうやって増やそう?」楽しかったとはいえ、毎回キャンプに行ってテントを張り、すべてを片付けて車に積み、帰宅後は翌日の学校の準備をする…のは続きそうもありません。そんな時、家族で田植え体験に行った千葉県鴨川市の少し先で、キャンプよりハードルの低い小屋暮らしができる場所があることを知ります。さっそく車を走らせて「無印良品の小屋」が立ち並ぶシラハマ校舎へ向かいました。
元々、K野夫妻それぞれが館山に友人を持ち、房総方面にも土地勘がありました。そして東京を拠点に様々な場所へ出かけたけれど、海へも山へも歩いていけるこんな場所は他にないということで夫婦の意見が一致。ひと月に1、2回かもしれないけど、この「キャンプ以上別荘未満」をやってみることにしました。
東京から2時間でシフトチェンジ
東京から南房総へはアクアラインを使ってだいたい100km、車で約2時間。これを遠いと思うか、近いと思うか、また道中を楽しめるかが、小屋暮らしに限らず、二拠点生活のカギになるような気がします。
「家から車で40分だったら、来ないかもしれない…」というのはK野家のご主人。各自が週末の衣類を鞄に詰めて車に乗れば、そこから小屋暮らしのスイッチが入ります。都内の一般道から首都高に乗り、アクアラインで海を渡った後は、防音壁のない館山自動車道を南に向かいます。
右を見れば、雲の隙間から日差しが注ぐ海。左側の山にはたくさんの「緑色」がこんもりと繁り、まるで巨大なブロッコリーの様。子どもたちのお気に入りは、山の中で一点豪華に咲き誇る季節の花木。梅、山桜、ツツジ、フジ、サルスベリ。色彩豊かな車窓は房総ドライブの醍醐味です。
子どもたちの小屋暮らし
「ハサミ貸して下さい。あとできればヒモも…」
K野家に限らず、小屋の子どもたちがシラハマ校舎の事務所を訪れるのは、大概この用事です。時にデッキブラシや毛布、段ボールにビニール袋…何をするのかは聞きませんが、大人たちは遠くからその様子を眺めます。いつの間にか近所の子どもも集まって制作作業に加わり、剪定した枝を使った木琴や、ベッドができあがります。
最近の大作は、太い桜の枝を選んでぶら下げた手作りブランコ。材料は、シラハマ校舎をリノベーションしたときに余った板切れと、梱包用のヒモ。K野姉妹のお姉ちゃんが試し乗りをした後は「体重30Kg以下の人限定」「立ち乗りは禁止」などのルールが浄化槽のコンクリートにチョークで記されていました。
動物たちとの共存
シラハマ校舎の朝は鳥のさえずりから始まります。キジバト、スズメ、ウグイス…夏の今はホトトギスが主役。夕方になると哀愁漂うキジやカラスの鳴き声が聞こえてきます。完全に日が暮れると裏山ではガサガサする物音と何やらキィキィと甲高い声。「イノシシが降りてきたかな?サルもいるよね?」大人も子どもも、ちょっと怖いけど見てみたい…そんな気持ちでしょうか。
警戒心の強い野ウサギも少しずつシラハマ校舎の小屋エリアに縄張りを広げつつあります。コロコロとした緑色のフンに心をときめかせて、可愛いうさぎちゃんの往来を待ちます。K野姉妹は既に2度ほど遭遇しており、なんと撮影にも成功しました。
シラハマ校舎の好きなところ
「小屋暮らし好きなところは?」K野姉妹にインタビューしてみました。返ってきた答えはちょっと意外なものでした。
ふだん住んでいるところは都会で、夜でも街灯や店舗の灯りなどで昼間のような明るさ。それがシラハマ校舎に来ると真っ暗になり、時には満天の星空も…その違いが面白いそうです。
白浜では、真っ赤な夕日が海に沈んだ後は一気に暗くなります。月明かりが小屋を照らしてくれる日もあれば、足元がおぼつかないほどの暗闇に包まれる夜も。しかし小屋暮らしを続けていると、方向感覚で自分の小屋までたどり着けるようになり、そのうち目が慣れて、子どもも大人も懐中電灯が要らなくなるようです。
小屋と庭のつかい方
K野家の小屋には南に向いた大きなウッドデッキがあります。滞在中はここがリビングとなり、大人はテーブルセットを置いて本を読んだり、星を眺めながらワインを飲んだり…。小屋の室内にはマットレスを置いて寝室として使うほか、子どもたちが集まってお絵描きやゲームをしています。小屋は一間ですが、こうしてみると1LDKくらいの感覚かもしれません。
そして、シラハマ校舎の小屋暮らしでは、各区画に66~90㎡の庭がついています。庭は畑にすることもできますが、フリースペースとして残している方も。敷地内にはテントも張れるので、友人を呼んで一緒に寝泊りすることも可能です。
今年の大型連休中、K野家の庭スペースではアウトドアに慣れた2組の友人家族が合同キャンプを行いました。年齢の近い子どもたちもいて、みんなでBBQをしたり、歩いて海に行って磯遊びをしたり…ちょっぴり早い夏休みのような盛り上がりでした。
振り返って楽しい子ども時代を
「無印良品の小屋」の見学・説明会には、これまで子育て世帯の参加が多数ありました。そこでは「子どもが大きくなった時には使わなくなるかもしれない」という率直な感想を頂くことがあります。子どもが親と一緒に毎週末を過ごす期間を中学生ぐらいまでと考えると、確かにそう遠い将来ではありません。特にだんだんと巣立っていく娘とそれをちょっと寂しく思うお父さんという図式はよくあるイメージかもしれません。
ですから、小屋のある暮らしが、どんな家族にとってもベストな選択ということはありません。ただ、一緒に遊んで子ども時代を過ごし、たくさんの濃い経験を共有する手段のひとつとしては、とても有効なもののように思えます。K野さんご夫妻も、子どもたちが巣立ったあと「あの時みんなで楽しめた」と振り返ることができるようにしたい…そんなシンプルな気持ちで小屋での時間を過ごしているようです。
利用メンバー:4~10人
利用頻度:月に2~6日
庭の利用方法:ウッドデッキ、BBQ、キャンプ
白浜での過ごし方:海遊び、自転車
シラハマ校舎での過ごし方:BBQ、料理
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