ローカルニッポン

シラハマ校舎の小屋暮らしvol.5~男を磨く秘密基地~

書き手:多田佳世子
安房郡(現・南房総市)白浜町出身。東京―白浜の二拠点&別居婚生活を経て、2013年に白浜へUターン、夫と同居を始める。母校である長尾小学校を利活用し、2016年よりファミリー・ビジネスでシラハマ校舎を運営している。

その昔、日本では地域住民でインフラを整備する「普請(ふしん)」という土木作業がありました。シラハマ校舎は、その普請で土砂を積み上げて作られた小高い丘の上に位置します。

その丘を目指して坂を上り、学校時代の正門をくぐると、常緑樹の山々と黒塗りの母屋が見えてきます。そして視線を落としたその先に現れるのが、大きなウッドデッキに囲まれたやぐらのような建物。一見、ショールームのような出で立ちですが、これもまた「無印良品の小屋」なのです。今回は、この新しい小屋にお邪魔し、設計の経緯やここでの過ごし方についてお話を伺ってきました。

妻には内緒の別荘探し

都内の飲料メーカーに勤めるI﨑タクヤさん。サラリーマン生活が20年に届こうとする頃から、同年代の友人が農業を始めたり別荘を持つようになり、週末は彼らの家を訪ねて地方を巡る機会が増えていきました。仲間たちのデュアルライフを羨ましく思いつつも、多忙な毎日を考えると二拠点での生活を維持できるとは思えません。

ところが、軽井沢にある友人の別邸を訪れたとき、別荘に対する概念がガラっと覆されます。それはリビング一間に水回りが付いただけの小さな別荘で、日中はウッドデッキでくつろぎ、夜はみんなで雑魚寝。豪奢な洋館ではないウィークエンドハウス、これよりもう少し小さければ自分にも持てるかも!?

東京に戻り、週末移住の本を購入してタクヤさんの別荘探しが始まりました。まずは手ごろな中古物件の情報誌をめくり、続いて更地やコンテナハウスなども検討、そして最終的にたどりついたのが小屋でした。「できるだけ簡単に維持できる週末用の拠点を持ちたい」そんなイメージが固まったところで、別の友人が薦めてくれたのがシラハマ校舎の小屋暮らし。さっそく房総への家族旅行を計画し、「無印良品の小屋」見学・説明会への申込を済ませたのでした。

計画された見学説明会

真夏のような暑さのゴールデンウィーク、タクヤさんは奥様のナミエさんと一人息子のヒナタ君を連れて一路白浜へ。ナミエさんにはあまりなじみのないエリアだったので、旅のプランニングは旦那様が中心に行います。ランチは廃校利用のユニークなレストラン「バルデルマル」でとることになりました。「はい、それでは参りましょう!」ランチタイムの営業が一段落した午後2時。レストランのシェフであり、施設全体の運営者でもある多田朋和の案内で旧校庭の小屋群へ。施設の説明が始まり、展示小屋の中を見学し、そして区画選び…このとき、ナミエさんは旅の目的が見学説明会だったことにようやく気が付いたのです。

改めて全体を見回すと、この高台からは海が見え、すぐ後ろには威風堂々とした山々が広がります。そして敷地内にはBBQやキャンプを楽しむ人、車の出入りがない共有スペースではサッカーをする子どもたちも。タクヤさんは圧倒的な山の存在感に引き付けられ、ナミエさんも桃源郷のようなここのコンセプトに共感し、ここでなら息子が大らかで逞しく成長できる環境が作れるのではないかと瞬時に思ったそうです。

奥様のナミエさんは、父と息子が伸び伸び遊べる環境が目に浮かんだそう

奥様のナミエさんは、父と息子が伸び伸び遊べる環境が目に浮かんだそう

男たちの秘密基地を設計する

ナミエさんがデザインした小屋の内装と外観

ナミエさんがデザインした小屋の内装と外観

あまり知られていないかもしれませんが、「無印良品の小屋」の本体は極力余分なものを削った仕様となっており、そのまま利用することもできますし、断熱材を入れたり、網戸や収納棚、ウッドデッキなどのオプションを付けることも可能です。

今回、I﨑家では外構を含む設計部分をナミエさんが単独で担当。イメージしたのは「夫と息子が思いっきり遊ぶ姿」をビール片手にハンモックから眺めるワタシ。ヒナタくんを寝かしつけたあと、夜な夜なキッチンで図面描きとイメージ写真の収集に勤しみました。室内の家具は減らしたい、子どもの外遊びが窓から見えたら安心、大きなシンボルツリーで木陰を作りたい…etc。

やりたいことをピックアップしているうちに、小屋の基礎部分を持ち上げ、敷地いっぱいにウッドデッキを設置するプランが出来上がります。BBQの火を囲めるようにデッキはV字型に削り、床下収納や外用防水コンセントなど細かなところまでオーダーをまとめました。

そして、室内装飾はグッとシンプルに。シラハマ校舎の母屋の家具でもおなじみFree Style Furniture DEWの今井さんと綿密な打ち合わせをし、古材とアイアンを組み合わせた味わいのある壁面カウンターができあがりました。

実用を兼ねたオーダーメイドの壁面カウンター

実用を兼ねたオーダーメイドの壁面カウンター

秘密基地で男子を育てる

プールの隣でスイカ割り。夏場は日が暮れるまで水着で過ごします

プールの隣でスイカ割り。夏場は日が暮れるまで水着で過ごします

小屋暮らしの中でもう一つ思いを巡らせたのが、3000坪のシラハマ校舎をどう遊ぶか、でした。まずはネット通販でラジコンを購入し、小屋の周りを走らせてみます。ウッドデッキの下に入ってしまった暴走した車体を、ほふく前進で地べたを進みながら床下へと潜り探すのもご愛敬です。

冷夏が過ぎた8月からは、共有スペースに設置した大型プールが重宝しました。水鉄砲に水風船、水中眼鏡をつけて潜水。小屋やゲストルームの子どもたちも自然と集まり、おやつタイムはスイカ割り。「右向いて、右!」「あと一歩前!」「惜しいっ!」初対面でモジモジしていた子どもたちも、ここぞとばかり思いっきり声を張り上げます。子どもだけでは、なかなか決めの一手がでませんが、パカッとスイカが割れた時はなんとも言えない爽快感。お皿もスプーンも使わず、前かがみでガツガツと…やがて、種飛ばし大会が始まりました。

子どもも働くBBQ

トウモロコシ担当。集中しているときは煙も気になりません

トウモロコシ担当。集中しているときは煙も気になりません

シラハマ校舎がオープンして丸3年。小屋の住人同士も少しずつ交流を深め、この夏は毎週のようにBBQをしました。ひと家族ではちょっと面倒な買い出し、下ごしらえ、火おこし、片付けを皆でなんとなく分担し、子どもたちも野菜を切ったり、乾いた薪を集めてきたりと忙しく動き回ります。

ヒナタくんも、自分でもぎ取ったトウモロコシの皮をはぎ、網の上に置いて刷毛でバター醤油を塗っていました。初めての道具を楽しそうに扱う姿はなんとも逞しく、感動的。几帳面な園児が作った焦がしバター醤油コーン、大人たちにも大好評でした。

時にはインドアで

2019年の夏を振り返ると、前半は雨続き、後半は猛暑という小屋族にはちょっと厳しい環境でした。元々アウトドアが得意ではないメンバーの集まりですので、こんなときに無理はしません。冷房の利いたシェアキッチンで、お菓子を作ったり、読書やお絵描きをして過ごします。

思いのほか活躍したのがトランプ。ヒナタくんをはじめとする未就学児組が「ババ抜き」や「7ならべ」を保育園で覚えてきたことがきっかけで始まりました。ほかにも、シラハマ校舎にはボードゲームやチェス、ビリヤードも完備。ルールを覚えた子どもたちは、次第に腕を磨いていくことでしょう。

秘密基地のこれから

さて、I﨑家の小屋暮らしは、ひと夏過ぎて完成したかのように見えますが…。
デザイン担当のナミエさんによれば、図面に描いたイメージ通りのシンボルツリーとは未だ出会えておらず、これからも気長に運命の1本を探していくそうです。

一方、タクヤさんは敷地の一角にピザ窯を作ることを計画中。裏庭の畑を使って、トマトやピーマンなどピザの具材になるような野菜を作る構想もあり、まだまだやりたいことはたくさん。小屋メンバーが集えば、BBQと同じく、そのハードルは簡単に下がるかもしれません。

利用メンバー:3人
利用頻度:月に6~10日
庭の利用方法:全面ウッドデッキ
シラハマ校舎での過ごし方:プール、ラジコン、トランプ、ボードゲーム

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