ローカルニッポン

住民と商店街の「あったかい」まちづくり 「ゆりの木クリスマスフェスタ」、始動

2019年12月のよく晴れた土日、東京板橋区に位置するゆりの木北団地内にある『光が丘ゆりの木商店街』では、「ゆりの木クリスマスフェスタ」が開催されました。当日、会場には、クラフト作家さんの作品販売やワークショップ、飲食などのブースが立ち並び、多くの人々が訪れ大盛況。住民の「やりたい!」の声がきっかけで始まったこの新しい取り組みがめざすものとは。

事前に行われたワークショップで完成した「ペットボトルでつくるイルミネーション」の様子

有楽町線・副都心線地下鉄赤塚駅から徒歩数分。都立公園中4位の広大な敷地を持つ光が丘公園にもほど近い『光が丘ゆりの木商店街』は、規模は小さいながらスーパーマーケットやベーカリーなどいくつかの商店や施設が並びます。商店街の真ん中には花壇やベンチが備えられ、買い物客がゆったりと行きかう場所。ゆりの木北団地と共に誕生し、以来35年以上、住民の生活を支えてきました。

商店街に並ぶ店舗や施設は時と共に変化してきましたが、「かい薬局」は団地の完成と同時期に開局。店長の甲斐治さんは、住民の健康相談なども受けながら、地域の移り変わりをずっと見守ってきたひとりです。

2019年現在『光が丘ゆりの木商店街』会長も務める甲斐さんと、2018年12月にオープンした『MUJIcom光が丘ゆりの木商店街』店長の加藤優李さんに、「ゆりの木クリスマスフェスタ」のお話を伺いました。

『光が丘ゆりの木商店街』の新しい動き

『MUJIcom光が丘ゆりの木商店街』店長加藤優李さんと「かい薬局」店長甲斐治さん

甲斐さん:
「この辺りも、少子高齢化が進んでいます。日本全体の平均よりも、少し進んでいますね。この商店街にも、空きが目立つ時期がありました。かつては、冬にイルミネーションを飾るなどもしていたのですが、人手不足などの理由でやらなくなって…。

とはいえ、今は、全テナントが埋まっています。MUJIcomさんも含めお店が増えて、人の流れが少し変わったのかもしれません。そして今年、加藤さんから、『クリスマスフェスタ』をやりたいというお話があって。何か新しいことが起きようとしているな、と感じ、商店街としても、ぜひ協力したいと思いました」

加藤さん:
「今回『ゆりの木クリスマスフェスタ』が実現できたのは、団地住民である松浦さんという方のアイディアがきっかけです。『いろんなお店が集まった、マルシェのようなものをやりたい』と。私自身にも、いずれそういったものをやってみたい思いがあったので、企画を立て、商店街の方々にお話をしました。皆さん『いいね』と言ってくださって、9月に準備会が発足して、商店街全体が協力しながらイベントをつくり上げていきました」

松浦さん:
「私はファミリーフォトの撮影会をこの商店街で開催させてもらうことができ、幸いなことに、好評をいただいています。私の周りには、ハンドメイドやフラワーアレンジメントなど、多才な方がとてもたくさんいますが、みんなの才能を見せる場も、もっと増やせたら素敵なのではないかと思っていました。そこで加藤さんに相談して、そういう場を作れたらと。でも、私はフォトグラファーで、若干毛色が違うので、才能あるハンドメイド作家さんの一人、yui nuiさんに声をかけました」

みんなの「やりたい」を持ち寄るフェスタ

当日は住民の方による「豚汁」ブースも。家族で食べる姿も見られました

アクセサリー、野菜、生花、ドライフラワー、クリスマスリース、焼き菓子、キャンドル、花雑貨、ベビーグッズや服、大人可愛いハンドメイドバッグ、ワイン、カレー…。そのほかにもたくさん、「クリスマスフェスタ」会場にブースが並びました。直火で焼いた焼き芋やマシュマロを食べられるコーナーは、子どもやお年寄りに、特に人気を集めていたようです。

商店街には人の声が響き、笑顔があふれました。ストリート音楽祭や司会の方の盛り上げもあって、いつもよりグンとにぎやか。そして、商店街のお店を巡っての「ゆりの木商店街キーワード探し」イベントのために、元気に走り回る子どもたちの姿も。

今回、出店者集めの中心となったのは、近隣地域にお住まい、前述のyui nuiさんです。ハンドメイドバッグ作家として活動するyui nuiさんは、『MUJIcom光が丘ゆりの木商店街』内のシェアスペースを活用し、ご自身のワークショップを開催したこともあります。10月には、松浦さん、yui nuiさん、加藤さん、佐藤さん(良品計画本部社員)で、運営チームを結成。まずは、松浦さんと yui nuiさんが知り合いのハンドメイド作家たちへ声をかけて出店者を募り、加藤さんと佐藤さんとで出店者や商店会・自治会のみなさんとの連携を図っていきました。

yui nuiさん:
「当日まであまり時間がなく、ほかの販売イベントと日程が重なっているなど、苦労はあったのですが…。でも、予想以上の出店者が集まってくれました。両日合計で20店舗程度集まればいいね、と話していたのですが、各日20以上の出店があり、延べで40店舗以上。当日会場に遊びに来て、『次の機会があるなら、ぜひ出店したい』と言ってくださる方がいたのもうれしいですね」

松浦さん:
「私は、この団地、この商店街が大好き。我が家の子どもたちのことも皆さんよく知っていて、気にかけてくださるんです。ここにもっと楽しいことがあったらいいな、人が来たらいいな、と思って、マルシェを思いつきました」

商店街の甲斐さんや加藤さん、松浦さんたちに共通しているのは「この地域をもっと活発にしたい、子どもからお年寄りまで交流できる楽しい商店街にしたい」という思いです。

甲斐さん:
「もちろん、商店街の利益が上がるといいという気持ちもありますが(笑)。今はまず、この場所、空間を生かして、何かいい感じだな、楽しそうだな、という雰囲気ができていったらいいんじゃないかな。そのためには、人と人とが触れ合える場ができるといいですね。今の方向で行けば、そうなっていくと思います」

加藤さん:
「まずは住民の皆さんと一緒に、“やりたいこと”をやっていく。そうしているうちに、人が集まってきて、『私も何かやってみたい』と輪が広がるかもしれないし、地域のみなさんの“やりたいこと”が実現できる商店街になって、少し離れたところからも人が来てくれる場所になるかもしれないと、期待しています」

「いつもと違う」商店街の姿

各ワークショップブースは親子連れにも人気でした

「ゆりの木クリスマスフェスタ」に来場した人の感想は、「楽しかった」「またあったらぜひ来たい」といった、前向きなものばかり。初めての取り組みとしては、かなり手ごたえがあったようです。

「当日は、普段よりもお客さんの年齢層が高かった」と言う人もいれば、「若い人が多かった」と言う声も。きっと、どちらも本当のこと。それぞれがこの日、いつも自分が来ている時とは違った「商店街」の様子を見ることができたのではないでしょうか。

甲斐さん:
「特に、ご高齢の方の反応はよかったですよ。電車に乗って遠くに行かなくても、素敵なものが買えるのはうれしいと言ってね。今は、70代以上といっても、新しいものに興味がある、オシャレな感覚の人はとても多いですから」

加藤さん:
「イベントを企画運営してみて、出店者や来場者の数については大満足。来た方も楽しんでくださったのではないかなと。ただ、安全面などの課題はありますし、運営を手伝ってくれる人手はまだ足りていません。いろいろな年代の方と知り合えるのも、こうしたイベントのいいところ。今後はもっと関わってくださる方が増えるように、動いていきたいと思います」

最後に、来年のクリスマスといわず、近々また、マルシェ形式のフェスタをやりたいですか?と尋ねてみると…皆さん口をそろえて「やりたい」とのこと。

加藤さん:
「最初は月に2~3回程度だった店内シェアテーブルでのワークショップも、今では、20回前後も開催するほどに。回を重ねるごとに、いろいろな方の目に留まることも増え、地域の皆さんの間で話が広まって、『私もこんなことができるんですけど…』と、シェアスペースの使い方を“自分ごと”として考えてくださり、話を持ってきてくれるようになりました。勧誘などの催しはできませんが、持ってきていただいた話を『ぜひ!』と受け入れていたら、自然と『こんなこともやってみたい』という声が、少しずつ増えてきたように思います。

また、住民の皆さんがやりたいと言ったことについて、商店街に話を持ち掛けると、皆さん快く承諾してくれるんですね。お店の中のシェアスペースもそうですが、商店街の広場も、皆が楽しめて迷惑にならない方法を考えれば、それぞれのやりたいことを自由にできる場所という認識が広がると嬉しいです。

これからも商店街の皆さん、住民の皆さんが、顔見知りを増やしてつながるためのお手伝いができたらと思います。フェスタに限らず、顔見知りを増やすきっかけとなるイベントを、これからも継続して、定着させていくことが大切ですよね」

甲斐さん:
「来年は、団地の設備も新しくなるので、そのタイミングに合わせて、何か人が集まることを仕掛けられたらいいでしょうね。これまでも、『何かやらなきゃ』という思いはあったけれど、具体的に何を?というとなかなかアイディアが出てこなかった。でも今は、MUJIcomさんも中に入って、新しいことが始まっている感じがあります」

変わるもの、変わらないもの。「あったかい」まちをめざして

クラフト販売ブースのひとつ、「サンキャッチャー」。日を受けてキラキラ輝きます

加藤さん:
「私、“昔ながら”の雰囲気がとても好きなんですね。自分が子どもの頃に通った商店はもうなくなってしまいましたが、『光が丘ゆりの木商店街』には、郷里のお店に通じる雰囲気を感じます。最近は、知らないお店に入ったり知らない人と話をしたり…といったことが難しくなっているのかもしれないけれど、まずはここに住んでいる人たちが“顔見知りを増やす”ことから、人のあたたかさ感じられる商店街をつくっていけたらと思います」

甲斐さん:
「ここは東京だけれど、長屋みたいな雰囲気がまだ残っているまちです。最近も、小さな頃からずっと知っている子が大人になって、商店街に店を出しましたしね。そうやって地元で頑張っている人が愛されて、応援されるまちですよ、ここは」

取材の当日は、甲斐さん、加藤さん、松浦さん、yui nuiさんが、1つのテーブルを囲んで和気あいあい。皆でお茶を飲みながら、思い思いに話が盛り上がりました。その中で、「来年のフェスタは、隣の団地の広場を飲食ブースのエリアにしたらいいのでは?」「今度、子どもたちを集めて卓球をやってみたい! 絶対に盛り上がる!」など、「次」に向けてのアイディアもどんどん出てきました。

“あったかい”まちづくりに向け、第一弾として開催された「ゆりの木クリスマスフェスタ」ですが、次回に向けての野望も満タン。次のイベントは、クリスマスよりも早い時期に開催されそうです。乞う、ご期待!

写真:Cashatto★Photo Yoko.M