公園は、親子連れをはじめとするすべての人にひらかれた憩いの場。東京にもたくさんありますが、近年、外遊びをする子どもは減少傾向にあります。いざ公園に行ってみても、すべり台やブランコ以外に何をして遊んだらいいのかわからない…保護者からは、そんな声も聞かれます。
『おそとカフェ』は、地域資源である公園を近隣に住む人たちが有効に活用できる方法を探すためのプロジェクト。スタートのきっかけから現状、コミュニティデザインの未来まで、お話をうかがいました。
『おそとカフェ』は、多くの人に「公園」をもっと活用してもらうことをめざし、2012年に板橋区でスタート。3年を1フェーズとして、平和公園、しのがやと公園とロケーションを移し、現在は赤塚新町公園で開催中です。
当初は、板橋区社会教育会館(社会教育指導員・杉浦典和さん)と東京家政大学尾崎ゼミが主導し、親子連れを主な対象として、さまざまなプログラムを提供してきました。現在は家政大だけでなく淑徳大や他大学の学生たちも参加しながら、より多様な住民に向けて、実行されています。
今回、『おそとカフェ』の名づけ親である東京家政大学准教授・尾崎司先生、赤塚新町町会長・三枝節夫さん、チーム赤塚代表理事・野上隆憲さん、東京家政大学児童学科育児支援専攻4年生・桝田美紗さんに、それぞれのスタンスから見た『おそとカフェ』の像や関わり方、公園の楽しみ方について、お話をうかがいました。
減少する“外遊び”と“地域交流”の機会
尾崎先生:
「昨今、子どもの外遊びの機会は失われています。これは、保育を研究する我々から見ると危機的な状況です。子どもたちに、外遊びに没頭する時間を持ってほしい。そこで、『おそとカフェ』というプロジェクトを企画しました。
また、今は、近所の人同士といっても気軽に関われる社会ではなくなっています。親子向け外遊びの提供をめざした『おそとカフェ1.0』、そこに多世代を加えた『おそとカフェ2.0』。そして現在は、地域主体の活動に移していく『おそとカフェ3.0』のフェーズにあります。
当初は大学の研究として行っていました。そして今は、どこの行政も、公園という「場」をどう活用していくか…“パークマネジメント”が大事だと気がついています。『おそとカフェ』も、板橋区の社会教育会館やみどりと公園課による情報提供や協力も得て、試行錯誤しながら進めてきました」
三枝さん:
「私はもともと町会長などをやってきたこともあり、地域のつながりを育む活動には深い関心を持っています。『おそとカフェ』には、しのがやと公園でのフェーズ2.0の時から参加しました。そして、3年間で一区切りだと聞き、それなら自分の地域で継続してはどうかと考え、今は赤塚新町公園で、季節に一度の開催です」
桝田さん:
「尾崎先生のゼミで、こういうものがあるからと紹介されて。強制ではなく、参加したい人が参加できる時に参加できます。先輩たちからどんなことをやってきたか教わって、自分たちでやりたいことを考えて、継続して関わってきました」
活動主体を住民に手渡し、真の“地域活動”にするには
『おそとカフェ』は、フェーズ2.0の段階で、野上さんを中心として、地域住民による実行委員会がつくられました。そして、フェーズ3.0は、野上さんが、隣接する町域に住む三枝さんと協力し合う形で行われています。
野上さん:
「私は、“特定非営利法人チーム赤塚”という、地域活動の中間支援組織を運営しています。その中で『おそとカフェ』を知り、手伝うようになりました。平和公園でのフェーズ1.0の時からですね。
その時、公園で火を使っていいということに衝撃を受けたんですよ。地域住民でも、正当性をもってきちんと手続きを踏めば、行政の許可を得て公園で火を使っていいということを知らなかったので、びっくりして…それなら公園で、いろいろなことができるなと。
ただその時は、自分の住んでいる地域での活動ではなかったので。ゆくゆくはこれをすごくコンパクトにして、参加した人が自分の地域に持ち帰って、それぞれの形でできるようになったらいいなと思いながら、参加していました」
野上さんや三枝さんは、町会の老人会や中学校のボランティア部、区内の大学の学生など、すでに地域にいる人たちを「つなぐ」ことによって、『おそとカフェ』を発展させてきました。
三枝さん:
「今は、公園の花壇づくりも、ボランティアチームを組織するような形で、住民や学生たちを巻き込んで続けています。土から自分たちで育てた花壇となれば、愛着もわきますよね。
でも以前は、公園の土を掘り返して、自分たちで花壇をつくっていいなんてこと、知りませんでした。こういうことは、住民だけではなかなか思いつかないです」
自分たちの“やりたい”思いと、行政のバックアップを結びつけて、“できること”を広げてきた『おそとカフェ』。また、三枝さんや野上さんたち、実際に地域に住む人たちが、大学や行政にはなかなか実行が難しい地域に対するきめ細やかな周知やフォローをすることで、『おそとカフェ』が、地域に根づき始めていると尾崎先生は言います。
住民も、学生も「自分が主役」になれる場所
尾崎先生:
「当初は研究の一環として、地域の親子に外遊びのきっかけや方法を提供することを主眼にしていました。もちろんそれにも意義があったのですが、『おそとカフェ1.0』が完了した時には、反省もありました。要するに、“地域”と“多世代交流”がなかったんですね。大学や行政が活動主体となると、どうしても、サービスを提供する人と受け取る人が明確に分かれてしまい、それは、純粋な“地域活動”ではありません。
一時はもうこれで終わりにしようという考えも頭をよぎりました。ですが、『おそとカフェ』に参加してくれた人たちの中で自主的なグループができていったり、継続してくれる地域の方が現れたりして、次第に、本当の地域活動になってきたと思っています」
野上さん:
「どこかから誰かがやって来て1日限りのイベントをやってくれることよりも、やっぱり、地域の住民から生まれるものを大切にしたいです。
続けてきた中で、老人会の方たちといい関係ができて、炊き出しをやってくれたり、たまたま通りがかって参加してくれたロシア出身の方が、次回は自分がボルシチをつくりますと言って、本当につくってくれたり。ほかの参加者の方もすごく喜んでいますから、こういうことがつながっていくといいなと思います」
三枝さん:
「皆が“自分の場所”という風に思えることが大切なんだと思います。それぞれが、得意なこと、好きなことをやりながら自分の居場所や立ち位置を見つけて、その人の得意やキャラクターを認め合う。そうすれば、“仕方なく”参加するのではなく、自主的に参加したくなると思うんです」
桝田さん:
「大学で学んだことを子供たちの外遊びに生かすことができ、楽しそうな姿を直接見ることができますし、外でみんなで食事やおやつをつくって食べることも楽しい。シンプルに言えば、“自分が楽しいから”参加しているんだと思います」
コミュニティデザインの可能性、世代間から多世代・全世代交流へ
“地域活動”は基本的に、そこに住む人たちがつくっていく活動ですが、続けていくうえでは、活動や関係が固定的になってしまう…といった側面も。そこで活躍するのが“学生”の存在だと、尾崎先生は言います。
尾崎先生:
「たとえば“子どもと高齢者”“女子学生と子育て中のお母さん”など、世代間交流において相性のよい組み合わせというのがあります。ただ、特定の組み合わせばかりで交流すれば、関係が固定化されてしまう。地域にはもっといろいろな人が住んでいますから、めざすのは“多世代交流”です。
そこで学生という、まだはっきり規定されていない人たちの存在というのがとてもいい。学生が入ることによって、固まってしまいそうな空気に風を起こして、直接的な関係を間接的にゆるやかにしてくれるのです。
私は今後、“学生と地域のつながりをつくる”役割を主にして、やっぱり活動主体は地域の方というのが、コミュニティデザインの観点からも理想的。今の『おそとカフェ』には、十分その可能性があります」
野上さん:
「常に新しい人を受け入れていきたいですし、我々もそこにはオープンでいます。ただ、大人にはどうしてもできないこともあって。特に子どもたちは、若い人がいるのといないのとでは全然反応が違いますね。子どもというのは本当に…若い人を見ると群がります(笑)。豆まきの鬼役なんかでも、学生さんは大活躍でした」
三枝さん:
「学生さんが『おそとカフェ』の受付や満足度のアンケートをやってくれていることで、初めて参加した人たちとも円滑なコミュニケーションが生まれます。通りすがりの人がふらっと参加したときにパッと学生さんが声をかけてくれることで、継続して参加する人や、活動に協力してくれる人が増える。これはとても貴重ですし嬉しいことですね」
桝田さん:
「これからも参加できる時に参加していきたい。後輩たちにも、自分たちのしてきたことを伝えたい。そしてみんなで、また新しい代のやり方を生み出してほしいです」
現在は、参加者が毎回100名を超えるようになってきており、地域に住む外国出身の方の参加もよく見られるという『おそとカフェ』。来年度以降は、ただ『おそとカフェ』を継続するだけではなく、もっと周知をしてつながりを広げ、”地域づくり”にいっそう力を入れていきたい…というのが、関わっている皆さんの思いです。
近隣団地の老人会や区内の地域密着型講座を持つ大学に声をかけるなど、発展のためのアイディアも聞かれ、そして、今はグループを中心につながりが広がっているけれど、将来的には、ふだん地域活動に参加していない人たちが気軽に寄れる場所になるといいな…との声もありました。
これからも、参加する学生たちが、参加者同士顔見知りになるきっかけをつくってくれそうな期待も大。今後は、しっかり地域に根差しながら、世代やその他の垣根を軽々と超え、形を変えながら発展していくに違いありません。
写真:Cashatto ★ Photo Yoko.M