ローカルニッポン

離れていても、日々に里山を感じる発酵食 鴨川里山トラストの味噌づくり

書き手:根岸 功(KUJIKA)
千葉県南房総市在住。編集者、ライター。南房総の里海・里山の自然、つながる人々の豊かさに、胃袋ともども感謝する日々。目下、小規模有機オリーブ栽培に奮闘中。サーファー。2児の父。

私たち日本人が、つい数十年前まで長きに渡ってサスティナブルな暮らしを享受してきた里山というフィールド。徐々にその担い手が高齢化するなかで、その業や知恵を地域住民、都市住民で分け隔てなく受け継いでいこうと始まったのが、鴨川里山トラストです。

天水棚田での昔ながらのお米づくりを真ん中に据えて、その周辺に繋がる暮らしの業や知恵を学んでゆきます。気温が低い冬は、日本食のベースとなる発酵調味料を仕込む時期。今回は、有機で育てられた地の大豆『小糸在来』で、手前味噌を仕込みます。

味噌は日本食のベースにある発酵食

18時間の浸水後、3時間かけて煮あげた大豆

18時間の浸水後、3時間かけて煮あげた大豆

和食の風味付けの基本と言われる、料理の「さしすせそ」。後半の“す=酢”、“せ=醤油”、“そ=味噌”は主に米や大豆、麦など、私たちの身近にある穀物や豆類を活用して醸されます。酢は米から、醤油は麦と大豆から、味噌は米と大豆からというようにです。

なかでも、米麹と大豆、塩だけで仕込む味噌は、仕込みの流れさえ覚えてしまえば比較的簡単、かつ風味は抜群の自家製味噌ができあがります。そして、米麹をつくるところから始めたなら、その手前味噌はさらに特別なものに仕上がります。

肩を寄せ合い、ひとつひとつ暮らしをつくりあげることは喜びや安心に繋がる

肩を寄せ合い、ひとつひとつ暮らしをつくりあげることは喜びや安心に繋がる

鴨川里山トラストは、里山での暮らしの中心となるお米づくりを中心に、それに紐づくスキルをシェアするプログラムです。行程は全7回。春の田植えから始まり、草とりの合間に学ぶ箸づくりや、刈った稲を束ねるためのすがい縄の準備、稲刈り、1年間の里山の恵みを分かち合う収穫祭、育てた稲藁でお正月の準備をするしめ縄飾りづくり、そして冬季の味噌づくりというラインナップです。

「なぜ、米づくりの最後に味噌づくり?」と思うかもしれませんが、ご自身の日々の食卓を思い浮かべていただけると答えは簡単。ご飯とお味噌汁は家庭の日本食の基本です。昔はよく田んぼの畔に大豆を植えて育てたほど、味噌の原料となる大豆は身近なものでした。さらに、味噌づくりのもうひとつの主役が米麹。そう、育てたお米を麹にしたものが主原料です。
このように、年に一度の味噌づくりは米づくりと同様、里山の暮らしのルーティーンなのです。

シンプルでカンタン、だけど美味しい手前味噌

味噌の材料はとてもシンプル。大豆と米麹、塩、そして水だけです。
分量は、10kgの大豆に対して、同量の米麹、4kgの塩と約4.5kgの水分です。大豆は同じ房総半島の君津市周辺で代々受け継がれてきた地豆・小糸在来の有機大豆、米麹はこの鴨川里山トラストで育てたお米を地元の糀屋(こうじや)さんに持ち込んで醸してもらったものを使います。なんとも贅沢です。これで完成品は約 40kgになります。大豆と米麹の量はお好みで1:1の割合を変えてもよく、麹の量を多くすると発酵も早く甘い味噌ができます。ただし長期保存の場合、熟成も早くなり、味が深まるのも早くなるので、何年か試してみて自分の好みを見つけられるといいですね。

塩と米麹、粗く潰した大豆を混ぜ合わせたあと、さらに細かく仕上げる

塩と米麹、粗く潰した大豆を混ぜ合わせたあと、さらに細かく仕上げる

次に手順です。まず仕込む前日に大豆を洗って汚れを落とし、丸一日(約18時間)浸水させます。そして仕込みの当日は大鍋に火をかけ、アクを取り除きかき混ぜて、煮詰まってきたら足し水をしながら約3時間、大豆をじっくり煮ます。そのあいだに大きなフネ(ケースなど)をふたつ用意して、それぞれ麹5kgに対して塩2kgを混ぜ合わせた塩切り麹をつくります。塩切りとは、麹の塊を塩と一緒に両手ですり合わせるようにほぐしながら混ぜていく行為を言います。

終わったら、塩切り麹をフネの端に寄せ、煮上がった大豆をそれぞれのフネに入れて、マッシャーやすりこぎ棒を用いて大豆をつぶします。大雑把につぶし終えたら、両手でフネの端に寄せておいた塩切り麹とよく混ぜ合わせます。
仕上げは、混ぜ合わせた大豆と塩切り麹をミンサーに通してより細かく砕いてペースト状にします。その際に種水として大豆の煮汁を投入口から一緒に注いで、程よい固さと水分量のタネができあがります。

種水として大豆の煮汁を適度に加えながら、程良い水分量で仕上げていく

種水として大豆の煮汁を適度に加えながら、程良い水分量で仕上げていく

味噌ダネを団子状にして容器に投げ入れる。この年度最後の渾身の一投

味噌ダネを団子状にして容器に投げ入れる。この年度最後の渾身の一投

最後に、タネを適量の団子にして、樽などの容器のなかに叩き投げるようにして詰めていきます。ギュッと握って団子にするのも、叩き投げるのも、なるべくタネのなかの空気をなくすために行ないます。タネに隙間があるとそこからカビが発生したり、腐敗が進んでしまったりする可能性があり、それを回避するためです。最後は、タネの表面を平らにしてラップなどで空気に触れないようにし、重石とフタをして、常温で10~12カ月熟成させたら完成です。1年後が待ち遠しいですね。

袋に入れて持ち帰ったら、家庭でフタの閉まる容器に移して約一年熟成させたら完成

袋に入れて持ち帰ったら、家庭でフタの閉まる容器に移して約一年熟成させたら完成

2020年度も鴨川里山トラストをよろしくお願いします

春の田植えから追いかけてきた2019年度鴨川里山トラストの全日程がこれで終了しました。今年度は、稲刈りも束の間、立て続けにやってきた台風と集中豪雨の激しさ、そしてそれを前にした私たちの無力さを思い知った年でもありました。が、それと同時に、人と人との繋がりや、ともに支え合い、助け合う精神の大切さも深々学び、心に滲みた年でもありました。

三寒四温の折、7年目となる2020年度鴨川里山トラストの準備ももうすぐ始まります。次年度もその活動に磨きをかけながら、都市と里山とを豊かに繋ぐ架け橋になるプログラムを用意して、みなさまのお越しをお待ちしています。

離れていても、日々に里山を感じる発酵食 鴨川里山トラストの味噌づくり

<2020年 無印良品 鴨川里山トラスト 年間スケジュール>

2020年
5月9日(土)田植え
6月13日(土)草取り
7月11日(土)草取り
9月12日(土)稲刈り
10月24日(土)収穫祭
12月19日(土)しめ繩飾り

2021年
2月13日(土)味噌仕込み

文・写真:根岸功