ローカルニッポン

今ここで、できること。 千葉県南房総市(シラハマ校舎)

書き手:多田佳世子
安房郡(現・南房総市)白浜町出身。東京―白浜の二拠点&別居婚生活を経て、2013年に白浜へUターン、夫と同居を始める。母校である長尾小学校を利活用し、2016年よりファミリー・ビジネスでシラハマ校舎を運営している。

集まろう、集まろうとしていたことができなくなった今、活動がシェアされることで、じんわりと広がるエネルギーになればという想いをこめて“ローカル”で行われている「今ここで、できること」を少しずつご紹介していきます。今回は、「シラハマ校舎の小屋暮らし」でお馴染みのシラハマ校舎からお届けします。

ここ南房総でも、外出を自粛するようになってから1か月以上が経ちました。この3月はシラハマ校舎の桜を眺め、何となく気分を紛らわしていた記憶があります。花が散るころには収束を…と淡い期待を抱いたものの、4月7日には緊急事態宣言が発令され、千葉県も実施すべき区域として指定されました。シラハマ校舎については休業要請の対象になく、対策をとりながら慎重に運営を続けています。人との接触を8割減らす目的で敷地に立ち入る人数を大幅に制限したため、閑散としてはいますが、後ろ向きな気持ちはありません。私たちなりに「今ここで、できること」について考え、まずは子供たちの“自宅学習”について取り組むことからスタートしました。

一斉休校は突然に

2月28日、子供たちが両手に大きな荷物を抱えて下校してきました。過疎地の超スモール校・白浜小学校が、都心部と同様に一斉休校の要請を受け入れるとは思ってもみませんでしたが、白浜では子供が高齢者と同居・近居している世帯が多く、医療や介護の現場で働く保護者がいることも考えると、致し方なかったと感じます。

その流れで卒業式も大幅縮小、卒業を迎える子供と先生のみで執り行われ、保護者は窓の外から眺めることもできませんでした。親御さんのことを考えると少々厳しいような気がしましたが、1か月たって振り返れば、必要な対処だったように思えます。

シラハマ校舎敷地内の桜ブランコにて

シラハマ校舎敷地内の桜ブランコにて

受験生からのSOS

世界初AIを使った学習教材Qubena

世界初AIを使った学習教材Qubena

卒業生と同様に心配なのが来年受験を控えた中高生です。3月が丸々休校になり、遅れを取り戻すはずの3学年1学期はなかなか始まりません。白浜中学校は昨年の大型台風でも1週間休校しましたし、生徒たちの不安や焦りは募る一方です。そんな受験生を抱えたご家庭から、シラハマ校舎に相談が来たのが4月始めのことでした。

実は、シラハマ校舎の中にあるコワーキングスペース・アワセルブズでは、昨年の台風以降、タブレットを使ったAI教材による数学のホームスクール事業が始まっていました。しかし今回のような先行の見えない休校は想定しておらず、あくまで学校の授業の補修程度。そこで休校の長期化に備え、広い範囲で教科書単元の復習と予習ができるような学習コースを急ピッチで整えることになりました。試験運用ではありますが、受験生には時間の制限をなくし、コワーキングスペース・アワセルブズで好きなだけ自習可能としました。

もちろん、安全に運用するためには換気や消毒のほかに利用人数を制限する必要があります。室内は66.25平米の広さがありますが、社会的距離を保つため、同時利用人数は3名程度に抑えることにしました。その後、不要不急の外出制限が要請されてからはタブレットを貸し出し、管理画面で生徒の学習状況を見守ることにしました。

コワーキングスペース・アワセルブズでの自習風景

コワーキングスペース・アワセルブズでの自習風景

どうする!?小学生

さて、個人差はあれど自分で勉強できる中学生はさておき、小学生以下はどうしたらよいのでしょうか。タブレット学習でも、飽きずに続けるのは大変です。デジタルネイティブとはいえ、勉強する習慣を身につける難しさは、昭和の子供と大して変わらないのかもしれません。昔ながらのドリルを渡しても質問自体が理解できなかったり、答え合わせの必要があったりして、大人の手助けが必要になってきます。そうはいっても、根気よく子供の勉強に付合ってばかりもいられないのが、私も含めた親の本音ではないでしょうか。

そんな時にアドバイスを求めたのがシラハマ校舎のニューカマー・網代剛さん、コワーキングスペース・アワセルブズの利用メンバーです。サラリーマンから大学の先生に転身し、専門は教育工学。今年に入って地元・館山にUターンしたユニークな経歴の持ち主です。

子供とのマンツーマンがしんどいのはみんな同じ。そこで部分的にでも自宅学習や知育遊びをシェアできたら、親たちの負担が減るのでは?というのが網代さんの考え。一か所に集まれない今だからこそ、手の届くところにコンテンツを設置し、オンラインを活用してたくさんの人を繋いで行こう…こうしてまたシラハマ校舎で新しいプロジェクトが始まったのです。

網代剛さん。書き手・多田佳世子とは高校の同窓でもあります

網代剛さん。書き手・多田佳世子とは高校の同窓でもあります

オンラインで読み聞かせ共有

ところで、夜間の外出制限が要請されてから、オンライン飲み会が流行りだしました。子供同士も昼間にビデオ通話でお話ししたらよいのですが、大人のような会話のキャッチボールは続きません。そこで網代さんが考えたのが「オンライン読み聞かせ」。絵本の読み聞かせは数分で終わってしまうものですが、これを他の親子と一緒にやれば、順番に読み合わせをしたり、感想を言い合ったりしているうちに時間は過ぎていってくれます。

2~6世帯をビデオ通話で繋ぎ、参加する世帯がみんな同じ絵本を持っていれば、親たちは数ページずつ交代で音読していきます。文字数が少なければ親たち全員が最後まで読み、「話し手によって、雰囲気が変わるね」と落語のような楽しみ方ができるかもしれません。

共通の本がない時は、担当の親が最後まで読み、感想発表会へ。結末への不満や好きなシーンについて順番に発言し、それぞれの感じ方の違いを観察してみましょう。上手く言葉が出てこない子供でも発言できるよう、一つの絵本に対して、あらかじめ質問を用意しておくとよいと思います。

しかし、この「あらかじめ用意する」が親にとっては結構な負担。ここをデジタルデータ化して、誰でも簡単にアクセス可能にしようというのが、網代さんの計画。読了後の質問だけでなく、登場人物の整理、声のトーンのアドバイス、クライマックスの演出方法など。それが簡単にまとまっていたら、初めての絵本でも面白おかしく読んであげることができるかもしれません。

そして、一旦このコンテンツを作ってしまえば、マンツーマン育児やお友だち同士の読み聞かせでも、今だけではなくこれからの子育ての様々な場面で楽しんでもらえるものになるでしょう。現在は、周りの子どもに読み聞かせを行い、反応を見ながら絵本を選定している段階。夏休みに入る前には、コンテンツがウェブ公開できるようにしたいと考えています。

まずは定番の絵本の読み聞かせからスタート

まずは定番の絵本の読み聞かせからスタート

みんなでシェアするライブラリ

このプロジェクトでは簡単な算数やゲームなど自宅できることをデジタルコンテンツ化し、利用方法や台本をセットにしてライブラリを充実させていくことを目標にしています。本棚から書籍を取り出すように教材を選び、台本に沿って進め、余裕があれば感想をライブラリにフィードバックします。

そして年齢が上がり、興味の対象が多様化する年代の子供たちには、友達と遊ぶことにとらわれず、関心を掘り下げるヒントを別のライブラリに用意してあげたいと思います。将来的には、学校教育とは別のところで多様な学びのお手伝いができるコミュニティスクールを展開していくことも視野に入れており、この状況下だからこそ湧き出たアイディアの灯を消さないよう毎日を前向きに過ごしていきたいです。

文・写真:多田佳世子

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