ローカルニッポン

今ここで、できること。 三重県いなべ市

コロナウィルスという見えないものに対峙し、当たり前が当たり前でなくなった今、改めて働き方や暮らし方を考える方も多いのではないでしょうか。
何が必要で不必要なのか、本当に好きなもの面白いと思うモノコトは何なのか。こんな時におたがいさま、おかげさま、お疲れ様と伝えあえる相手は誰なのか、を立ち止まって考えること。

一方で、様々な地域の個人商店や顔なじみの飲み屋さん、自然と人が集まるシェアスペース等、今まで当たり前に訪れていた場所が危機に直面して困窮していることに心が痛みます。

集まろう、集まろうとしていたことができなくなった今、活動がシェアされることで、じんわりと広がるエネルギーになればという想いをこめて“ローカル”で行われている「今ここで、できること」を少しずつご紹介していきます。

子どもたちの自由な発想を止めない

今回お話しを伺ったのは、三重県いなべ市で野外保育サークルの活動をしている「おさんぽの会ててて」の代表 才賀美奈さんです。おさんぽの会ててては、 “どんな社会であっても、原点は自然にあり、子どもは特にその自然の中でたくさん五感を使って遊ぶことを失わないよう、環境を守るのは大人の責任” という想いから2017年に発足しました。週に1回、乳幼児とそのお母さんお父さんたちでいなべの四季折々の自然の中をおさんぽしたり、手仕事をするなどして1年間を過ごします。

才賀さん:
「毎週くりかえし一緒に過ごすことで、母親同士がつながり合い、喜びも大変さも分かち合うことができます。それは、“お母さんたちみんなで、子どもたちみんなの成長を見守る”という目指すコミュニティの在り方にもつながってきました」

これら野外での活動は感染リスクが低いと考え、当初は参加者同士で感染予防の共通意識をもちながら活動を行うことで、休校中の小学生の居場所になるようにと声をかけていたそうです。その後、感染拡大の様相を受け、3月末の活動日をもって現在はお休みをしています。

いつもの形で活動が出来なくても、“つながり続けること”の意義を共通認識とし、オンライン上で歌を歌ったり絵本を読んだりおしゃべりしたりするなど、子育ての時間を共有しているそうです。また、それぞれの家族で過ごしたお散歩時間を写真や動画を通して、つながりを感じる等様々な工夫をしてきました。

才賀さん:
「ただ、長い自粛生活が続いてくると地域の動き、元気が無くなっていくことが気がかりでした。また、日頃から身近な自然の中におさんぽに出かけないご家族は小さい子どもたちとどう過ごしているのか?心配にもなりました。子どもにとって、太陽の光の下で遊ぶこと、自由な発想で遊んだりものを作ったりできること、誰かが喜んでくれる顔を見られること、は大人が呼吸をしたり寝たり食べたりするのと同じくらい大切なことです。そこで、私たちができることは何だろうと考えました」

そんな時に、才賀さんの友人であり、いなべ市在住の彫刻家 はしもとみお氏から、「いろんな人の玄関先に子どもたちが作った作品を展示するギャラリーとかできたらいいね!」という提案があったそうです。それを聞いた才賀さんは、「これだー!」と直感し、すぐに動き始めました。

作って、見て、表現する楽しみ

才賀さん:
「この時思ったんです。普段は何気ない家の近所を、子どもと一緒にふらりとお散歩してみると、道端に今まで気が付かなかったようなお花や生きものたちに出会う。ふと見ると、よそのお宅の玄関先に、可愛い作品が並んでいる、するとまた違うおうちの軒先にも可愛い作品が飾られている、楽しい楽しい発見が続くおさんぽをしてなんだかほっこりうれしい気持ちになる。“近所も意外と楽しいね!またおさんぽに行こうね” そんな風に思える豊かな時間が増えるんじゃないか。さらに、玄関先の作品を見て、”私たちも作ってみようか!” と作品づくりに没頭できるんじゃないか」

実は、のきさき美術館の発想は、美術関係者の間ではずっと前からあったもので、彫刻家として活躍されるはしもとさんがまだ学生さんだったころ、おうちの一角の外から見えるスペースにギャラリーを作っていた美術の先輩がいらして、そこで個展をさせてもらった事があったそうです。はしもとさんは、“日本の子供達の美術教育は、絵を描く、物をつくるという事はやっていても、発表する、評価される、作ったものについて意見を交わし合うという機会がとても少ない。それを増やしてあげたい“ という願いから、子供達の作品も同じように見えるところに展示する試みができないか、と考えていました。外に出歩けない今だからこそ、何気ない日常を楽しくできないか。こうして、はしもとさんと才賀さんとで、「のきさき美術館」がスタートしたのです。

才賀さん:
「子どもたちの想像性にまかせたものづくりをする中で、我が子の個性や集中力、はたまた才能に気づけるきっかけにもなるかもしれませんね。何より、作ること見ること表現することのよろこびを、今このときに味わえたら!そんなことを願いながら、『のきさき美術館』を始めました」

左「おそらとおやまとおはな」は、おさんぽで見つけた宝物を飾る場所にもなります

才賀さんは、4月の終わりにSNSで「のきさき美術館」について情報を発信し、ゴールデンウイークの期間中にそれぞれの軒先で “展示してみませんか” と呼びかけてみました。その後も、それぞれがテーマに合わせて作品展示を続けていくことで、美術館の認知度が少しずつ高まり、愉しんでもらえたらと考えています。

こどもの日にならんだ、かわいらしい鯉のぼり

森の動物さんにお弁当プレート、松ぼっくりはエビフライ

才賀さんは、今 “できることは何だろう?” “何が新しい喜びになるだろう?”を問いかけながら、いなべ市にとどまらず全国で「のきさき美術館」が広がりつづけることを願っています。
そして、今こんな時だからこそ生まれたアイディアもあるそうです。

才賀さん:
「今後、なかなか野山へ遊びに出かけられない都市部の親子のために、何かお届けできるものがあるのではないかと『里山暮らしおさんぽの会ててて・あそびのレシピおすそわけ』を考えました。例えば、山菜や野遊びの材料となる木の実や草花などをオンラインショップで販売する予定です。その売上は、現在制作中の『ショートムービー おさんぽててて遊びのレシピ(仮称)』の製作費に充て、作品が完成し、状況も落ち着いたら『いなべの自然 美術展(仮称)』を開催したいですね」

陽のあたる場所で、集い、おしゃべりすることはできないけれど、今までと変わらず日常の中で子供たちの五感を刺激する「のきさき美術館」。休校がつづき、表現の場が減ってしまった今、子どもたちの無限の発想から生まれる、作り手も受け手もほっこりできる作品はこれからも少しずつ増えていくでしょう。