ローカルニッポン

女性限定の農業体験ツアー開催-NPO法人南房総農育プロジェクト


農業は体力勝負だから女性には不向き、そんな風に思われている方も多いかと思います。しかし実は近年「農業女子」がキーワードとなって様々なプロジェクトが立ち上がるなど女性目線での「農業」に期待が高まっています。そんな中、2015年2月に南房総館山では「女子力アップツアー」という女性限定の農業体験ツアーが開催されました。このツアーの内容と主催したNPOの取り組みについてご紹介します。

女子力アップツアー1日目

9:30に館山駅にて参加者を迎え、そのまま車でNPO代表 安西淳さんの農園へ移動してツアー説明と簡単な自己紹介がありました。参加者は、千葉県内や東京都内、遠くは小田原と広いエリアに住む方々で、普段の仕事も建築関係、小学校の先生、主婦など動機や関心も様々。中にはイタリアに住んだ経験から、南房総で地元野菜を使ったイタリアンレストランを開きたいという方もいらっしゃいました。

‐トウモロコシの種まき‐

一通り説明が終わると、トウモロコシの種まきからスタートです。安西さんのトウモロコシ「味来」の収穫は6、7月ですが、この時期に種をまいて栽培が始まっているのですね。小分けされたケースに土と肥料をまき、1ケース1粒ずつ指で種をいれていきます。こういう細かい作業は女性の方が得意だとか。

トウモロコシの種まき

‐種のお話‐

種まきが終わると続いて、おひさま農園 岩槻さんによる種の話が始まりました。品質を一律にするために現在ほとんどの種が「F1(雑種第一代)」という交配種であること、またそれに対して地域ごとにずっと昔から作られて品質が固定した「在来種(固定種)」があることなど専門的な話もあり、参加者からの質問も沢山ありました。

種のお話

‐菜花摘み‐

そこから隣の農地へ移動して房州の特産「菜花」摘みへ。美味しい部位や品種の話を聞きつつ、生でポリポリ食べ歩きながら菜花を収穫しました。

菜花摘み

‐昼食‐

菜花摘みの背後には、防砂林に囲まれた昼食会場が用意されています。天気も良く房州らしい海風がそよそよと肌をなでる中、先ほど収穫した菜花を使った天ぷらや豚汁を食べました。昼食の材料は、もちろん農家が集まったNPOゆえに朝採れ旬野菜が中心です。

昼食

‐レタス狩り~鍬使い‐

ゆっくりした後は、いよいよ本格的な農作業に入ります。次の日の料理教室用のレタスを狩り、その後、鍬を使って、土を両脇に盛りながら進むワークショップを実践しました。農作業は同じことを繰り返し長時間することが多いので、効率的な動きが大事。このコツがあるので、80歳のおばあちゃんでも朝から晩まで農作業ができるのだそうです。

レタス狩り~鍬使い

こうして少しハードな農作業を体験した一日でしたが、日が暮れる頃には1日目終了。平砂浦海岸沿いで夕日を見ながら温泉に入り、夜は地元の女性農家を招いて一緒にディスカッションが行われました。「野菜の宅配ならば、花を一緒にいれて送ったら喜ばれるのでは?」または「流通をうまくすれば、保存を前提としない旬の味を生かしたソースやドレッシングの提供ができるのでは?」といった女性目線でのアイディアが交わされました。

女子力アップツアー2日目

‐料理教室‐

2日目は朝9:30から旬野菜を使った料理教室が始まりました。講師は、館山出身の料理研究家 川上文代先生。渋谷で料理教室を主宰する他、館山市ではクッキング大使を務め、地元野菜を生かした創作料理を提案しています。今回は先生と館山市で共に作り上げた「旬の食材ガイド」という冊子の中からこの季節の野菜や果物を使った「レタスらっきょうチャーハン」や「いちごとタコのサラダ」などを作りました。

料理教室

‐畑deちょっといい話‐

ツアー最後は、今回の企画を担当したNPOメンバー岡本高憲さんの畑(おかもファーム)へ。岡本さんは南房総オーガニックの会員でもあり、土の力だけで野菜を育てている少量多品目の野菜農家。前日の岩槻さんの「種のお話」とも呼応して、前年の野菜が種を落として自然にできた野菜の見学や宅配を通じて直接消費者とつながる農業経営についての話がありました。

NPO法人南房総農育プロジェクト

本ツアーを主催したNPOは、館山市の若手農家が集まって「農を通じて食を知り、感じ、楽しむ」ことをテーマに2014年に設立された団体。職業としての農業だけでなく、食べ物が生産される過程や栽培の仕組みを知り、体験することを通じて、農についての理解を深め農業の価値を高めようと様々な企画を提案していきます。今回は、この第一弾としてのツアー企画でしたが、今後の活動について代表の安西淳さんにお聞きしました。

オレンジTシャツを着ているのがNPOメンバー

オレンジTシャツを着ているのが
NPOメンバー

「第一弾ということでインパクトのありそうな企画を考えてきたわけですが、農家側にとっても予想以上の学びがあった2日間でした。これからの農業は女性の知恵や繊細さが求められています。女性に農業を知ってもらうことで新しい農業の形がみえてくるように思います。今後もこうしたツアーを開催して、交流を増やし楽しく学びあいたいですね。」

就農希望者向けに本格的な農業指導

「2015年度は、就農を考えている方向けに、1年間の農業サイクルが学べる通年講座を開催します。農業は土地や気候と密接な関係にあって、就農を「どこで」するかで適した作物や経営方法も変わってきます。偶然にもこのNPOは館山全域の農家が集まって、それぞれ特徴のある農業経営を行っているので、この具体例をもとに実践的な農業指導、コミュニティとして就農後のサポートもしていきたいと思っています。」

次回の企画は年3.4回のセットで現役農家による就農指導を行うとのこと。就農の窓口や研修機関は数多くありますが、個人経営の若手農家(30~40代)が技術指導や経営方法を直接教える取り組みは珍しく、選択に幅のある農業経営や就農後の生活についても教わることができるようです。就農を考えている方は是非この機会を利用してみてはいかがでしょうか。

文:東 洋平