作品として美しい建物をつくりたい。東京から地元である宮崎県日南市に戻った6年前、ただ純粋にそう思っていました。
しかし、ここ日南市のまちづくりに携わる機会をもらい、この地域のことを知れば知るほど課題に出くわし、ただ見た目が美しいだけの建物は求められていないことがわかりました。一方で、その土地が育んできた眠れる古き良きものに出会うことになります。私は今、設計デザインのノウハウを活かした、地域課題を解決しながら、地域資源を循環させる仕組みづくりに夢中になっています。
ベンチャー気質な日南に導かれ帰郷
私の住む日南(にちなん)市は、宮崎空港から車で1時間ほど南に位置する人口5万人の町。豊かな自然に恵まれ、古くから飫肥(おび)杉の生産やカツオ一本釣り漁で栄えてきました。また、飫肥城下町は九州の小京都と称され、江戸時代の武家屋敷や石垣など風情ある街並みが残っています。
そんな日南市が地方再生のモデル都市として注目されるきっかけになったのは、シャッター街と化していた油津商店街の再生。実は私が10年下積み時代を過ごした東京から、地元日南に戻ることになったのもこれがきっかけでした。「油津応援団」という街づくり会社で、商店街の新規店舗や誘致されたIT企業の内装デザインを担当したのです。
外部目線と地域目線で変化をおこす
その後、「パークデザイン株式会社」として飫肥城下町に事務所を構えたのが2017年。ちょうどその頃から重要伝統的建造物群保存地区に選定されている飫肥エリアの民間活用が活発化し始めました。例えば、東京や京都の民間企業が、古民家を改装して一棟貸しの宿をつくったり、地域おこし協力隊として県外でバリバリ働いていた方が文化財と芸術・食・音楽がコラボレーションしたイベント「DENKEN WEEK」を開催したり。
「飫肥って素敵じゃん!」と外部の方がこぞって縁もゆかりもない地域のために尽力してくれている姿を見て、すごく嬉しかったのと同時に、もっと地元の人が頑張ってもいいんじゃないか。よりこの土地を知っている地元の人が、飫肥が前に進もうとしている変化に立ち会った方がいいんじゃないか。自分が携われば、もっとこの地に愛着を持って誇らしく思えるじゃないか。そう、より地域目線で飫肥のことを考えるようになりました。
地域に眠る魅力と課題
地域の魅力と課題。それはいつも表裏一体でした。たとえば、地方では過疎化や老朽化にともない情緒ある建物を解体しなければならないことが多々あります。現場に足を運ぶといい風合いの建材や古家具、修繕すればまだまだ住むことができる空き家が処分されていく風景を目の当たりにします。一見、いらなくなったゴミのような古い木材も、適切に洗って磨いて補修すれば、建築資材として価値を取り戻します。むしろ古材には、時間と風土が作り出す味わい深い風合いや傷や割れが織りなす歴史を感じる模様など、人工的に作れない価値が詰まっているのです。
気づけば解体現場に行くたびに「これ、引き取っていいですか?」が口癖になっていました。そして、その古材をストックし、空間デザインの依頼があるたびに集めた古材を活かした提案をしていきました。出来上がった空間をお披露目すると「古材ってすごくいいですね」と目を輝かせるお客様が多く、「これだ、ぼくのやりたいことは」と感じ始めました。つまり、地域に眠る資源を発掘し、新しい価値として再び活かすことで地域循環を促す事業をすること。そして、結果的に地域課題を解決することです。
持続可能な建築デザインとは
正直、日南に帰るまでは “美しい作品としての建築” をつくりたいと思っていました。依頼があったら図面だけをひたすら描き、作りたい作品に合わせて予算をつくってもらうほうが利益も多く出るでしょう。しかし、そんな建築は自分のエゴでしかなく、過度なお金を出していいデザインの建物をつくっても、サスティナブルでなければ意味がないと思うようになりました。
3年前に、たった1人で始めたパークデザイン株式会社は、現在では私を含め5人の仲間がいます。それぞれが建築デザインのプロ、グラフィックデザインのプロ、家具修繕のプロとして役を担っています。メンバーにいつも伝えているのは自分たち自身がデザインやものづくりを通して “地域課題を解決できる事業” を実現すること。普段からお互いが自分の思っている地域の課題感を雑談的に話し、それを理解し合い、「いい作品をつくりたい」のその先を一緒に考えられるようにしています。もちろん、雑談なので最近見つけた好みのデザインの共有や大好きなクラフトコーラの飲み比べ等、常に好奇心を持って周りを見渡す癖が自然と身に付く環境かもしれません。
地域資源を活用した循環型の仕組み
そんな中で、私たちの考える日南の地域課題は大きく分けて3つあり「遊休資源の活用」「適切な魅力発信」「地域コミュニケーションの希薄化」です。今はこの3つに対して、自分たちの持つデザインのノウハウや思考を軸に、いくつかの事業を複合的に取り込むことで循環型の仕組みづくりを進めています。
一つ目は「空き家事業」 です。地域に眠る遊休不動産の利活用を、 ”ローカル” を活かしたハードとソフトのセットで提案する “新しい切り口” で推進しています。 例えば、2020年にオープンした築140年以上の武家屋敷を改修した全5室の温泉旅館「Nazuna 飫肥 城下町温泉 小鹿倉(こがくら)邸」では、建物のリノベーションデザインと共に、飫肥城下町エリア活性化のための周遊デザインも担当しました。 飫肥城下町は美しい武家屋敷街が保存され、またエリア周辺には数々の観光スポットという魅力ある観光資源がありながら、宿泊を伴う観光客を十分に取り込めていない問題がありました。さらに後継者不足による商店の減少や、横のつながりの希薄化により、エリア全体の活性がうまく図れていませんでした。
そこで、その飫肥エリア周遊のハブとなる観光拠点として、空き家になっていた「⼩⿅倉邸」を旅館として再生し、5つある客室はそれぞれ飫肥の特徴をテーマとしたコンセプトルームをつくりました。
また、街へ周遊を促すための6つの施策をたて、地元商店と観光目線としての外部民間事業者を融合させ、行政がバックアップする三位一体型モデルの運営体制でこれらを推進していきました。このように、私たちは単に空き家を美しく生まれ変わらせるだけではなく、課題解決型の仕組みを地域資源を使って地域の人々と共にデザインすることまでを一つの仕事として考えています。
二つ目は、古物事業「PAAK storage(パークストレージ)」です。
地域の魅力をつめこみ、次につなげるためのストレージ機能。私たちは、解体を余儀なくされる地域の物件情報や、不動産情報にも掲載されないレベルの地域の口コミ情報を集め、実際にその現場に行って再利用可能な古家具・古道具・古建材を引き取ったものをストックする倉庫をかまえています。ここで再利用できるようにクリーニングやリペア・加工を施し、積極的に社会に戻すことで少しでも歴史の継承に役立てる事業として活動を行っています。
三つめは、滞在型宿泊事業「PAAK hotel(パークホテル)」。
賃貸または購入した遊休不動産を必要に応じて改修をし運営までを一貫して行う、滞在型の宿泊施設をオープンする予定です。
最後は、「適切な魅力発信」にも関わる事業として始めた、オンラインショップ「PAAK supply(パークサプライ)」。元々都市と地域を結ぶ接点を作りたいと考えていた時に、コロナ禍でさらにその思いは強くなり、地域の魅力を全国に届けられるセレクトショップと産直ショップの中間のようなモデルを目指し、開設しました。商品の作り手は空間デザインを手掛けたお客様ばかり。「出品しませんか?」と声をかけると「ちょうど、ネットショップやりたかったんだよね!」とすぐに賛同してもらいオープンに至りました。
このように、様々なアプローチから地域課題に向き合ってきましたが、共通して言えるのは、すべての取り組みは地域との “コミュニケーション” があってこそ成り立つものだと感じます。というのも、何かを始めようと協力をあおいでも、地元の人は初めは反対するのが大半。でも、ことあるごとに商店に足を運んで直接自分の言葉で説明したり、道端で出会う地元の人に自分から話しかけて様子を伺ったり、お互いが「何をやっているか、何をしたいのか」を紐解いて理解し合うことをやり続けました。すると地元の人たちは、本来は自分たちでもやりたかった事があり、そのきっかけがなくて足踏みしている現状が見えてきたり、もっと若い人の背中を押したいのに、若者が地元にいないことでエネルギーがありあまっている方もいました。改めて私たちはいかに “きっかけ” をつくり、地域の変化に挑戦できる土壌をつくることが重要だと感じています。
地域課題解決型のデザイン集団を目指して
どんな地域にも課題があります。一方で、そこにはかならず地元の方が昔から大切に育んできた歴史や文化、産業があり、それこそが地域資源なのです。その魅力を引き出し、現代に受け入れてもらうために再定義するのが私たちの役目であり、その動きを見た地元の人は、古き良きものは ”価値あるもの” として再認識し始める。こういったプロセスを経て、例えば、地元の人自ら空き家問題に取り組むようになったり、古家具をリメイクし再利用し始めたら面白いですよね。私たちは、そんな地域の資源が緩やかに循環する社会になるきっかけになれたらと考えています。
まだまだ私の住む街にも課題が山積みですが、同じくらいの可能性を感じています。これからも私たちは地域資源を使ってその土地の抱える課題を解決し、還元できる循環型の仕組みをつくりつづけていきます。
文:鬼束 準三
写真:パークデザイン株式会社