今、昔ながらの暮らし方が見直されています。新型コロナウイルスの出現により日常も一変、我々の価値観を改めさせられる機会も多くなりました。そんな中、昨年宮城県仙台市内、仙台駅から程近い場所にオープンした「tsugi」。 “ごみを減らし、暮らしを楽しむ豊かな街へ” というテーマで様々なプロジェクトを行い、人々の新たな暮らしの提案を行う場所です。tsugiについてプロジェクト代表の渡辺沙百理さんに伺いました。
tsugiを始める経緯とは
渡辺:
「地球環境のことやそこに繋がる暮らしのことなど未来に向けて考え行動していかなければならないことを伝え、自分ごととして考えるきっかけの場にしていきたい、そんな想いで2020年の9月にtsugiを作りました」
そう語るのは、市内でイベントプランナーとして活躍される渡辺沙百理さん。
渡辺さんは以前、仙台市内の小規模スペースを利用して、人が集まるためのコミュニケーションスペースの場作りを手伝った事がきっかけで、イベントプランナーとして活動を始めました。ただ人を集めるイベントではなく、背景や世界観を持たせ、それらに共感してもらえる人たちへアピールするイベントを開催することに重点をおいて企画を行っています。
元々アパートとして使われていたとても古い建物を建て替えるのではなく、思い出や雰囲気を残したまま新たな価値を与えて再生させたいというオーナーの想いから、地元の事業者である株式会社エコラがリノベーションした建物。ここにtsugiは位置します。
道路に面した1階スペースとウッドデッキでリノベーションオープニングイベントが行われた際、たまたま渡辺さんも足を運んだ事がきっかけでこの場所に魅了され、ここで何か出来たらという想いが生まれ、tsugi開始までの “想いのリレー” が始まっていきます。
実は、渡辺さんはtsugiを始める前から「せんだいリノベーションまちづくり」という公民連携でのまちづくりを実行する団体に所属していました。同じく団体に所属する仙台市役所職員から、現tsugiの場所である一角を「まちづくり団体に所属する事業者の中で使ってくれる人を探している」という話が渡辺さんの元に舞い込んできます。
その後、場所を管理するリノベーション事業者との話し合いの末、渡辺さんが兼ねてから企画運営していた「量り売りマルシェ」(作り手の思いを感じながら、食品ロスやゴミの削減問題を解決するヒントが見つかるマルシェ)を通して得た新たな価値観を、もっと多くの人と共有できる場所にすべく動き始めます。
伝えたかったのは、“商品が手元に来るまでの過程にはどんな生産背景や環境があるのか、どんな人が関わり作られているのか” “先人たちが築いてきた素晴らしい知恵、昔の人たちの知恵は理にかなっている事が多く、そんな知恵を次の世代に繋いでいく大切さ” といった価値観。これらを広め、〜次に継いでいく〜という意味を込めて「tsugi」と命名しました。
tsugiに設置する什器は古民家から不要になった端材を貰い受け、学生建築施工団体REDが製作してくれたそうです。渡辺さんが必要な大きさを伝え、それを元に学生たちが端材を利用して自分たちで設計、デザイン、施工して作り上げました。ここでもまた、無駄をなくして循環を作り上げています。
環境問題に対して想いはあっても何から始めたらいいのかわからない人は多いはず。大きなことを突然始めるのではなく、小さくとも暮らしに取り入れることのできる範囲から始められる提案をしていきたいと渡辺さんは語ります。
そうして始動したtsugiですが、tsugiとしてゴミのロスやものが循環する仕組み作り等のやりたい事を実際に形にするまではもう少し準備時間がかかるため、足を運んでもらうきっかけづくりからスタートしました。まずは近隣住民や市民の方にこの場所を知ってもらう為にも、マルシェ等の開催で物販イベントを行っていきます。
ただ、物販だけの企画だとtsugiの想いを伝えきれないため、最近では事業者の方々とのお話会やワークショップなどを行い、少しずつこの場所の “コンセプト” を伝える企画へと移行しているそうです。こちらの想いを伝えることで、価値観を共有できるお客様が少しずつではあるが増えている実感もあると渡辺さんは言います。
渡辺:
「価値観を理解して賛同してくれる方以外にも、ふらりと立ち寄れるようなコンテンツがあれば、人々が集う場所になっていくと思います。意識をしなくとも、資源が循環できる仕組みは作ることができると、この場所を持ったことで実感しています。また、“場” を作ることで、その地域や人に伝えたいこと、解決したいことを強く発信できるのだと気づきました」
tsugiでやりたいこと、目指すもの
今はとにかく渡辺さん自身が思いつくtsugiでやりたい企画が沢山ある一方で、関わる全ての事業者の方たちから得られる新たな発想もあるそうです。
自分一人が作り上げるのではなく、みんなで作り上げていく場所にしたいと渡辺さんは考えています。
その中でも、このtsugiだからこそやりたい1番の企画は、生ゴミを堆肥化させるコミュニティーコンポストを作ることだそうです。コンポストと聞くと面倒なイメージもあるかもしれませんが、初心者でも始められるキットを使えば簡単に始められるとのこと。コンポストの知識を高めるワークショップを行い、初めての方にも分かり易く始めやすい仕組みを共有したり、出来上がった肥料を使って近隣の大学の花壇にお花を植えたり、街中農園と連携して野菜を育てることも考えています。こうして、“循環の楽しさ” を追求していけることを目指しています。
渡辺:
「私自身、はじめから環境問題に意識が高かった訳ではありません。ですのでコンポストのこともほとんど知りませんでした。ただ周りの方からコンポストの話題がよく上がることから影響され、コロナ禍で自宅にいる時間が増えたタイミングで始めてみたところ、毎日出る生ゴミをコンポストに入れてかき混ぜることが楽しくなったのです。出来上がった堆肥で野菜やお花などの栄養になるという循環も嬉しく、すっかりハマってしまいました」
嬉しそうに語る渡辺さんをみて、私自身もコンポストに興味をそそられました。
マンション暮らしなどで、自宅に庭のない生活をする人が多い現代に、自分が出したゴミが嫌にならずむしろ好きになる、楽しくなる術を知れるとしたらいい事しかありません。興味が有る、無いの前に、知らないという環境が “循環” を体験しにくい状況を生み出しているのかもしれません。こうした循環を身近に体験する企画に参加する事は、この地球に生きるための学びにつながると言えるのではないでしょうか。
tsugiが目指す理想の形は、この場をきっかけに、“捨てない暮らし” “資源循環” を知って、学んで、実践して、自らの生活の一部として根づかせていくことです。
もはや環境問題は他人事ではありません、気候の変動や新型コロナウイルスの発生により我々の生活からも身近に感じられている今だからこそ、今一度私たちの暮らしに疑問を投げかけるいい機会ではないでしょうか。杜の都と謳う仙台だからこそ、環境問題に向き合う都市として率先し動いていけば、それが一つの街づくりとしての大きな成果になるのではないかと私自身も考えています。
渡辺さんが発信するように、大きなことから突然始めるのではく、生活に根付いて行けそうな小さな変化を起こすことからでも問題に向き合うことは可能です。とはいえ何をしていいわからないのであれば、tsugiの活動を参考にしてみる、ワークショップに参加してみる、お店に行ってみるから始めてみるのはいかがでしょうか。
文:白鳥ゆい
写真:白鳥ゆい・はま田あつ美