シラハマ校舎の過ごし方vol.6 ~二拠点生活の畑づくり~
安房郡(現・南房総市)白浜町出身。東京―白浜の二拠点&別居婚生活を経て、2013年に白浜へUターン、夫と同居を始める。母校である長尾小学校を利活用し、2016年よりファミリー・ビジネスでシラハマ校舎を運営している。
千葉県南房総市に位置する廃校利用の「シラハマ校舎」では、シェアオフィスを借りるともれなく花壇が付いてきます。そして旧校庭部分に建つ「無印良品の小屋」を買うと、60~90平米程度の庭が自由に使えるようになります。始めのうちはタープを張り、テーブルセットを置いてBBQ、時々ハンモックが定番。
やがて小屋暮らしを始めて数か月が過ぎると、土いじりがしたくなるのか、大半の方が芝生を剥がして畑づくりを始めます。農具を共用したり、水やりを融通し合ったりできるのが、このコミュニティのよいところ。今年は天候に恵まれ、またコロナ禍にあって家庭菜園がトレンド入りしたこともあり、シラハマ校舎の菜園は例年にない盛り上がりを見せています。
一番人気!トマト
南房総で二拠点を始めた方から「畑を始めたいんですが、何を植えればいいですか」という質問を受けます。白浜育ちの私もプロの域からは程遠いのですが、「僭越ながら…」と前置きをしておすすめするのがミニトマト。夜露がたっぷりと降りるシラハマ校舎では、夏の間に枯れることがまずありません。
育て方はとても簡単で、春先にホームセンターなどで苗を1つ購入して植え付けます。苗が成長するにつれ、葉や茎の間から“わき芽”と呼ばれる新しい芽が出てきますので、これを切り取り、畑のあいている場所やプランターに挿してみて下さい。簡単に発根して育ちますので、苗は次々に自家生産されていきます。この“わき芽”ですが、放っておくとどんどん伸びて養分を使ってしまうので、苗を増やす目的がなくても、摘み取るようにしましょう。
ミニトマトの果実は使い勝手がよく、生でも加熱してもおいしく食べられ、料理に彩りも添えてくれます。家庭菜園ではポピュラーな野菜なので、品種改良が進んでおり、糖度の高い物や皮の薄いものなど選択肢が多いのも魅力。注意点として、トマトは南米原産で雨の少ない乾き気味の土壌を好む性質があります。雨天が続くと病気になってしまったり、根っこが水分を吸収しすぎて、果実が膨張し亀裂が入ったりすることがあるので、雨よけのビニールをつけるとより安心です。
あると便利な薬味
お世話が楽という点ではハーブもおすすめです。小屋暮らしでは、釣ってきた魚や地元で買ったサザエや伊勢海老を網焼きにすることがよくありますが、定番の塩コショウにハーブ類を加えれば、風味が豊かになって味の幅が広がります。
例えばアジやイワシを包丁で細かく叩いたたたきやなめろう、そしてこれをフライパンで焼いたサンガ。いずれも房総ではポピュラーな漁師料理で、シソや生姜、みょうが、味噌などを混ぜた各家庭の味があります。この薬味をディルやフェンネル、セージなどに変えてオリーブオイルを加えると、ワインに合うおつまみが出来上がります。フレッシュハーブは臭み消しの役目もあり、シラハマ校舎のレストラン「バルデルマル」では、自家製の生ハムやハーブソルトを作る時にも多用しています。
子育て世代の小屋暮らしでは、そうめんやパスタが食卓に上ることが多く、子供向けの味付けでは物足りないなと思った時に、畑で生育中のパセリやバジルが重宝します。意外なところで、一番人気はパクチー。好みの分かれる個性的な香りが特徴ですが、シラハマ校舎ではドレッシングをかけて葉物野菜として食べる方たちもいらっしゃいます。
さて、ハーブは種からでも育てられますが、畑に直播きすると虫や鳥に食べられてしまうため、発芽するまでは苗ポットに入れて室内で管理するのがよさそうです。種類によっては育ち過ぎないように管理することがポイント。1年で株が倍ほどになるレモングラスや、横に根を伸ばして無限に広がるアップルミントなどはプランター栽培に収めるのが無難です。
暑さをしのぐグリーンカーテン
恒例化した猛暑に備え、外壁や窓にグリーンカーテンを作る利用者もいます。代表的なツル性植物で野菜が収穫できるものといえばキュウリとゴーヤ。「すごくいっぱいできるよ!」と、どこで聞いてきたのか、期待に胸を躍らせた初心者さんの家庭菜園。キュウリは5株で20本ほど収穫できましたが、ゴーヤは0本。収穫量を考えると、買った方が安いのですが、ツルは良く伸び葉っぱもついてカーテンとしては立派なものになりました。
ゴーヤの敗因ですが、雄花ばかりで雌花がシーズンを通して一つしか見当たらなかったとのこと。雌雄の数が均整に取れるとは限らないことを知り、2年目にあたる今年の夏はたくさんの種を撒いたおかげか、早くも収穫が始まっています。
ツル性植物の中では、多年草であるトケイソウもおすすめです。大きな雄しべが時計の針に見えることから、この和名が付き、文字盤部分は紫と白、独特の造形美を誇る花が特徴です。香りはなく、人工授粉が必要と言われていますが、花は直径8㎝ほどの大きさがあり、授粉作業は綿棒一本で簡単に行えます。もしかしたらツルを徘徊しているアリの助けもあるかもしれませんが、シラハマ校舎では9割以上の確率で花の後に美味しいパッションフルーツができています。
根野菜、地面を掘る楽しみ
成果物は土の中、蓋を開けるまで出来がわからないのがイモ類の面白いところ。まずはジャガイモ。シラハマ校舎のジャガイモ畑では、雨に打たれて「うどんこ病」という病気が流行って全滅した年もあったため、今は3月中に植え付け、梅雨前に収穫することをおすすめしています。準備に余裕があれば、種イモの切り口に灰をまぶし、日光に当てて発芽を促す“芽出し”という一工程にひと手間かけてみて下さい。芽の成長が早く、スタートダッシュが狙えます。
生育途中では害虫駆除が肝心。ジャガイモの葉に付くテントウムシダマシは、益虫とされるテントウムシに似ていますが、シラハマ校舎での通称はワルテントウ。ナスやトマトなど、ウリ科の野菜の葉を食べてボロボロにし、光合成ができなくなった植物はやがて枯れてしまいます。成虫は見つけたら手で取って潰し、卵を産み付けられた葉は切り取って燃やすなどの対処をしています。
ジャガイモの収穫後はサツマイモの準備。梅雨入り直前に植えると水やりの手間が省けてとても楽です。種イモを地中に植えるジャガイモとは違い、室内で保存しているイモから飛び出た芽をツルになるまで水耕栽培し、畑に植え付けます。サツマイモといえばイノシシの大好物ですが、幸いなことにシラハマ校舎のイモは、まだイノシシに襲われたことがありません。
シラハマ校舎にタネを撒こう!
夏の午後。みんなでスイカ割りをして、子供たちがせっせとタネを飛ばしている時のことです。「スーパーで買ったスイカのタネは発芽するか、しないか」が大人たちの間で話題に上りました。ご存知の方も多いかと思いますが、現在のタネ市場ではF1品種と呼ばれる、一代交配のものが主流となっています。何やら子孫を残せないようなイメージですが、これは「種を撒いても芽が出ない」ということではなく、「採った種を撒いても、同じものが育たない」ということのようです。
何でも試してみるのが大好きなシラハマ・キッズスクールでは、レストラン「バルデルマル」の調理場から生ゴミとして出た野菜の種をもらい、場所が許す限り栽培をしています。オクラ、カボチャ、キュウリなど発芽はどれもあっけないほど簡単。オクラやカボチャは畑に移植してからも順調に成長していますが、キュウリは虫や病気に弱く、苦戦しているところです。
自分で畑をやってみると、確実に野菜がもらえる収穫体験イベントでは得られない学びがあります。得手不得手も様々で、クワで土を耕す工程が一番な人や剪定して株を整えることにセンスを発揮する人も。また、せっかく育っても、病気になって枯れたり、虫や鳥に食べられたりといった理不尽が起こります。決して思い通りにはならない自然と向き合う中で、物事に耐える力や乗り切る力をつけること。まさにコロナ禍の今、大人にも子供にも必要とされる精神力ではないでしょうか。
文・写真:多田佳世子
リンク:
シラハマ校舎
無印良品の小屋
シラハマキッズスクール