東急東横線妙蓮寺駅からすぐそばのマーケットスペースを使い、2021年4月から1年間、毎月開催される「くらしサポートマーケット」。
「くらしサポートマーケット」は、東急沿線の開発に取り組む「東急株式会社(以下、東急)」、自分の住む街までを“住空間”と捉え、“住まう人の暮らしを整える仕組みづくり”に取り組む「無印良品 東京有明」と、妙蓮寺エリアで創業60年を迎える「住まいの松栄」の3社が協力しはじまった、まちの方に気軽にお立ち寄りいただけるイベントです。
このイベントが、どのようなきっかけで誕生したのか、どのような想いで開催されているのかなどを、主催の3社に聞いていきます。
ほどよい不便さが丁度いい、くらしのまち妙蓮寺
落ち着いた街並みと商店街が広がる、神奈川県横浜市の妙蓮寺。
自家製ウィンナーが有名なお肉屋さん、手作りおでん専門店、フランスで修業を積んだ美味しいパン屋さん、リーズナブルな八百屋さん、ご夫婦で営むとんかつ屋、老舗の和菓子屋さん、まちの本屋さんや洋菓子屋さんなど、個性豊かな小さな商店が頑張っていて、さらには数十年通う常連客も多いスーパーマーケット等が、住む人々の生活を支えています。
ゲームセンター・パチンコ店がなく、ファストフード店が少ないことも特徴で、一見地味にも思われがちな街ですが、公園・市民プール・地元商店街が充実しているので治安も良く、ゆったりとした雰囲気が魅力です。
まちのシンボルでもある菊名池公園では春には桜、秋には紅葉が楽しめ、隣の菊名池公園プールは夏には多くの子供たちで賑わいをみせます。わざわざ遊びに行くというタイプの街ではありませんが、“くらしのまち”という言葉がぴったりな街です。
この街で長年、空間の問題だけでなく、街や人とのつながりも大切にしたいという想いから、街に根付いた街づくりをされているのが「住まいの松栄」で、そんな地元企業と一緒になにかをできないかとお声がけしたのが、東急でした。
「リモート時代のワンルーム(以下、1R)の模索」から始まった物語
創業以来、“まちづくり”を軸に社会課題の解決に取り組んできた東急は、長年培ってきた暮らしのノウハウをもとに、より多様な暮らしのニーズに応えられる住まいとして、“もっと自由に、もっと楽しく”をコンセプトに掲げた賃貸住宅「スタイリオ」を展開しています。
「スタイリオ」のブランドネームは“英語 Style(スタイル)+イタリア語 io(私)”に由来し、自分らしく輝ける暮らしを提供したいという、東急の想いが込められています。
当ブランドは、駅近で高品質志向のプレミアム賃貸住宅「スタイリオ」、気軽に安心できる住まいを求める人のためのスタンダード賃貸住宅「スタイリオフィット」、シェア型賃貸住宅の「スタイリオウィズ」、コンセプト賃貸住宅の「スタイリオX」による4つのシリーズから構成されています。
たとえば、ガレージの愛車を眺めながら暮らせる住まい、みんなで料理を楽しめる大きなキッチンがあるシェアハウスや、保育園やコモンラウンジを併設した賃貸マンションなど、さまざまな暮らしのニーズに応えられる賃貸住宅として、入居者からの支持を集めています。
そんな人気のスタイリオシリーズに、2021年春、リモート時代の1Rの住まいを提案した「スタイリオ妙蓮寺Ⅲ」が加わりました。
東急 木所さん:
「スタイリオ妙蓮寺Ⅲは『単身者向けマンション』として開発していたため、コロナ禍の引越しに対する不安や悩みを、サポートできるような新しいくらしの提案が必要でした。
重要なキーワードは“リモートワーク”。きっかけは2つの企画の実現でした。ひとつめは、自分が住むまちの施設を、自分の部屋の一部のように使いこなしてほしくて、『住まいの松栄』さんに、お声がけをし、コワーキングスペースの石堂書店「本屋の二階」を入居者に体験してもらう企画が始まりました。ふたつめは、部屋のなかでの“コンパクト1Rの在宅ワーク”をモデルルームで表現しようと考えていたのですが、限られた空間でのレイアウトや、賃貸ひとり暮らしに見合った家具の選定の難しさなど、多くの課題に直面しました。そこで、”感じ良いくらし”を追究していて、幅広い世代から支持を受けている『無印良品』さんに、お声がけをしました。」
住まいの松栄代表 酒井さん:
「リモートワークの普及による都心離れの影響で、妙蓮寺に住まいを移す方のご相談が増えています。出社は減ったものの、週一回位は出社するという方も多いので、“都心まで通える距離”で、くらすのに不自由せず、落ち着いた雰囲気の妙蓮寺が丁度良く、人気が高まりつつあるのだと感じます。先日、東洋経済新聞社に“コロナで魅力がアップした5つの街”のひとつとして、妙蓮寺を取り上げていただいたほどです」
こうして、くらしサポートマーケット誕生の物語が動き出します。
「ちょうどいい余地」のあるくらしの基本とは?
新型コロナの影響もあり、我々の生活は大きく変化しました。ウィルスは一つのきっかけですが、そもそも私たちのくらしは、年齢や家族構成、住む場所や趣味の変化など、様々な要因で変わるものです。東急からの相談を受け、無印良品では、初めての取り組みとなる、新たな“くらしの基本”を提案しました。
無印良品 新井さん:
「一人暮らしを始めるとき、借りる部屋になにもないとお金がかかりますし、備え付け家具などがありすぎても、自分の好みの選択ができなくて不自由に感じるものです。自身の経験で感じたことでもありますが、一人暮らしは想像以上に大変で、暮らし方によっては生活習慣の乱れから生活が堕落してしまうこともあります。
物件や空間が良いだけでは、人の生活は良くならないものです。本当に必要なものを自ら選べて、街に愛着の湧く暮らしがイメージできること。住んだ後も健やかな生活ができること。私たち無印良品では、自分の住む街までを住空間としてとらえ、住まう人の暮らしを整える仕組みを考えています」
住む方にとって“ちょうどいい余地”のある部屋のラインを考えたとき、造作と収納家具を最低限必要な「くらしの基本」として、予め揃った空間を用意しました。そうすることで、個々の好みが分かれる、ソファーやベッドなどのインテリアや収納用品などは、自身で選ぶことができるという“ちょうどいい余地”がある空間が実現しました。
また、在宅勤務と上手に付き合うポイントは、ON・OFFの切り替えにあります。
実際に、コロナ禍における長引く在宅ワークの増加によって、無印良品がお客様から受ける相談にも変化があったそうで、圧倒的に増えたのが“収納相談”と“働く環境”です。
当初、突然始まった在宅ワークに対応するため、一時しのぎでワークスペースを確保して仕事をされていた方も、1年が経過した現在、「今後も続く在宅ワークのために、ワークスペースをもっと使いやすくしよう」と環境整備の第2段階に移行し、“本格的に働く環境を考える人”が増えてきています。
無印良品 新井さん:
「ひとつの空間で気持ちよく暮らし、働くために、家具を動かすことでON・OFFの切り替えを行える空間作り『変えられる1R』を考えました。
無印良品の『大小キャスタ付きスチールシェルフ』を移動することで、棚や間仕切りとして、状況に応じて簡単に模様替えすることができます。
集中して作業したいときには、ベッドと机の間にシェルフを置くことで、OFFを想起させるものを隠すことができますし、オンラインミーティング時には背中にシェルフを置くことで、気になる背景の映り込み問題が解決します。また、くつろぎや団欒の時間には、シェルフをキッチンスペースへ動かすことで、簡単に開放的な空間を作ることもできます」
住んでからの、くらしをサポート
“感じいいくらし”は、部屋の綺麗さやおしゃれさなどといった空間デザインだけでは実現しません。
東急 木所さん:
「わたしたちは、物件を作ったら終わりではなく、地域やその街の方とのつながりや、住んでからの暮らしやすさが大切だと考えています。そんな想いから暮らしの困りごとをサポートする無印良品の『くらしサポートサービス』を、入居者に利用して頂けるようにしました」
全国の無印良品には、約100名のインテリアアドバイザーと約500名の整理収納アドバイザーが在籍しており、年間約18,000件もの収納にまつわる相談を受けています。
それらの相談ノウハウを生かし、アドバイザーがスタイリオ妙蓮寺Ⅲの入居者向けに、インテリアや収納の相談、掃除・お片付けのサポートを開始、4月・6月のくらしサポートマーケットと同時に「スタイリオ妙蓮寺Ⅲモデルルームツアー」も開催しました。
実際にツアーに参加した方からは「住んでみて使いづらいと思っていたキッチンの収納について、収納のプロである無印良品のアドバイザーさんに相談でき、さっそく使いかたのコツを教えてもらえてよかったです」という声をいただきました。
東急 木所さん:
「お引越しをして、これからインテリアをどうしようかと考えているときに、無印良品のアドバイザーさんと定期的に話せる機会があるということはとても心強いですよね。くらしサポートマーケットを通じて街の方たちのリアルなご意見や様子を身近で感じることができているので、これらの声を開発側にフィードバックし続け、よりよい住まいづくり、感じ良い沿線開発に生かしていきたいと思っています」
くらしサポートマーケットで街とのつながりを
自分が住む「スタイリオ妙蓮寺Ⅲ」が開催地となるイベントを開催することで、入居者がやわらかく街につながるきっかけ作りになれば、と始まったのが「くらしサポートマーケット」です。
無印良品の出張販売は、毎月異なるテーマを掲げており、4月は「新生活を整える」、6月は「夏に備える」という各テーマに合せた商品が並びました。
6月の開催では、約70種類の商品が並び、突如現れた無印良品のマーケットに、驚きながらも購入されていく街の方たちの姿が印象的でした。
創業から60年以上妙蓮寺に根付いて営業してきた住まいの松栄は、地元の素敵なお店を誘致し、地元の隠れた名店を地域の皆様に広く知って頂く機会を作っています。4月は妙蓮寺と菊名の間にある人気のパン屋さん「イケダベーカリー」を、6月は白楽の人気パティスリー「焼菓子工務店」をお招きし、イベント開始前から行列ができるほどの盛況となりました。
無印良品 新井さん:
「妙蓮寺のまちの印象は、いろんな人を受け入れる“大らかな街”という印象。ひとりひとりの生活者が、自分なりに暮らしを営んでいる空気を感じました。2回目の開催を終え、毎月変わる出店内容を楽しみにお越しくださる方、いつもと少し違う街の様子を楽しまれている方、住んでいる方が街に愛着を持っている。そんな、印象を受けました」
この「くらしサポートマーケット」は、3社がここ妙蓮寺でタッグを組み実現させた、唯一無二の取り組みです。
新たな試みで、月に一度というタイトなスケジュールでの開催にも関わらず、一切妥協がないのがすごいところ。
当日のお客様の反応はもちろん、アンケートを元に毎回異なる内容のイベントを開催。各社それぞれの得意分野を存分に発揮し、ブラッシュアップし続けながら挑戦し“共創”している姿が印象的でした。
3社にとって、「くらしサポートマーケット」は、まだまだ序章にすぎないように感じます。残りのマーケットと、今後、各社が“地域×ヒト×モノ”をどのような形で繋げていくのか、引き続き目が離せません。
文・写真:ミョウレンジャー