ローカルニッポン

ローカルエネルギーが暮らしにある未来 04 “ライフスタイル” に合わせ、エネルギーを選ぶという可能性

書き手:來嶋路子
編集者。東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など。2011年に北海道へ移住。2016年に岩見沢の山間に山林を購入。その経緯をまとめたイラストエッセイ『山を買う』を出版。森の出版社 ミチクルという出版活動を行っている。

この連載では、人々とバイオマスエネルギーとの新たな関係づくりを目指す株式会社sonraku(以下、sonraku)代表の井筒耕平さんをナビゲーターに、岡山県西粟倉村や北海道厚真町、北海道士別市で行われている再生可能エネルギーの取り組みについて紹介してきました。こうした中でバイオマスへの関心の高まりを感じつつも、実際にはガスや灯油に次ぐエネルギーの選択肢としての存在感は、まだまだ薄いという現状も見えてきました。バイオマスエネルギーが生活に密着したものになるためには何が必要か。今回、“ライフスタイル” という側面からエネルギーの課題に向き合うべく、良品計画で地域創生に関わってきた鈴木恵一さんとの対談を行いました。

良品計画で取り組むサスティナビリティとは?

井筒さんが鈴木さんと出会ったのは8年ほど前。当時、井筒さんは岡山県美作市で地域おこし協力隊として活動中で、その様子を鈴木さんが取材したことが始まりでした。

鈴木さんは、合同会社西友に入社し、以後、良品計画に転籍し、販売畑で活動してきました。井筒さんの取材をした当時は、「感じ良いくらし」をさまざまな角度から追求し、使い手のみなさまとともに進むことをめざす無印良品の「くらしの良品研究所」で、お客様と双方向のコミュニケーションを取り、それをモノづくりに生かす取り組みをしていた頃。その後、2013年に故郷の札幌に戻り、地域連携や地域再生のサポートを行う部門に配属となりました。

出会いから折に触れ、二人は情報交換をしてきており、井筒さんが今年に入って北海道での事業に注力するようになり、この対談が実現しました。

北海道でバイオマスエネルギー事業を進めようとしている井筒さんは、日々、課題にぶつかっています。それは原料となる木材の調達など多岐にわたりますが、なかでも難しさを感じるのはバイオマスエネルギーという分野が、なかなか一般に広がっていかないという点です。

井筒さん:
「あるとき、コンベンションセンターで開催されていたバイオマスの展示会に行ったことがあるんですが、その隣で大規模なライフスタイルに関する展示会が行われていました。会場の規模の差に愕然として、エネルギーもライフスタイルの中に入らなければならないと痛感しました」

そこで今回、さまざまなライフスタイルの提案を行っている良品計画が、再生エネルギーについてどのような視点を持っているのかをヒアリングしつつ、未来の連携の可能性を模索したいという思いで対談の提案を行いました。

この春、神戸から北海道へ移住したばかりの井筒さん。

この春、神戸から北海道へ移住したばかりの井筒さん。

良品計画では、「感じよい暮らしと社会の実現」を企業の使命ととらえ、社会や環境に配慮したものづくりに取り組んでいます。お客様が着なくなった服を回収し、ReMUJIとして再生したり、ペットボトル飲料を廃止し、アルミ缶素材に切り替えたりと取り組みは多彩。

さらに、ものづくりとともに棚田の再生やキャンプ場の運営を通じて環境保全活動も行っています。

鈴木さん:
「再生可能エネルギーの取り組みとしては、埼玉の鳩山にある物流センターの屋上に1,400kwの太陽光発電パネルを設置しています。一般家庭の年間消費電力として約228世帯分をまかなうことができる規模です。このように、いくつかの取り組みはありますが、まだ不十分だと思いますね」

鈴木さんによると、エネルギーについては今後もっと取り組んでいかなければならない分野であり、今回の対談で、企業としてどんなサポートが可能なのかその道筋を探りたいと考えていました。

現在は、無印良品 札幌パルコで道内各地の生産者が屋台を出す「つながる市」を企画

現在は、無印良品 札幌パルコで道内各地の生産者が屋台を出す「つながる市」を企画

井筒さん:
「僕が考えているのは、サスティナビリティやローカルに意識を向ける企業に、エネルギーの選択肢としてバイオマスがあることを知ってほしいと思っています。例えば住宅設備に関して言えば、お客様に給湯や暖房について提案する場合、電気やガス、灯油に並ぶものとしてバイオマスボイラーがあることも伝えてほしいと思います」

バイオマスの熱利用に関する補助制度は、山形県で家庭用のバイオマスボイラーに補助金が出されるという画期的な制度が創設されたものの、全国的には制度の整備は進んでおらず、一般家庭にバイオマスボイラーが広まっていかないのが現状だそう。しかも、「エネルギーは、あって当たり前」という意識が強く、価格以外に付加価値がつけにくいことも課題と言います。こうした意識を変えていくには、意志を持った企業による提案が重要ではないかと井筒さんは指摘。

良品計画では住宅事業も展開しており、鈴木さんはこの事業を行う株式会社 MUJI HOUSEにも在籍していたことがあります。「無印良品の家」には、「木の家」「窓の家」「縦の家」「陽の家」という4つのプランがあって、住む人それぞれが自分なりの暮らしのかたちを発想でき、時が経つにつれ生じるライフスタイルの変化にも対応できるフレキシブルなつくりが特徴です。

鈴木さん:
「実はこれまで『無印良品の家』は北海道に上陸していなかったんです。屋根の形状や寒冷地仕様の問題などがようやくクリアでき、来年の春に2棟建てることが決まりました。北海道の住宅では暖房をどうするのかというのはとても重要です。道内の森林資源の活用や熱利用という観点から、バイオマスエネルギーについても考えていく必要がありそうですね」

こうした戸建て住宅とともに、「MIJI×UR団地リノベーションプロジェクト」では、地域再生も含めたリノベーション事業も展開しています。このプロジェクトでは、団地それぞれの特性を生かしつつ、人々のにぎわいをもたらすような新たなスペースづくりを実施。鈴木さんは、寒冷地の熱供給の方法として、ここでもバイオマスエネルギーを取り入れる可能性があるのではいかと語ります。

鈴木さん:
「4、50年前の北海道の集合住宅は、セントラルヒーティングが多かったですよね。現在でも、長い目で見れば、個別に暖房するよりもコストが抑えられるんじゃないかなと思うことがあります」

井筒さん:
「一戸建てよりも集合住宅の方が熱供給はやりやすいですし、脱化石燃料という社会的な価値とともに、ビジネス的な視点からも意義がある取り組みができると思います。
特に北海道のように暖房と給湯という熱に対する需要が高い地域では、木質バイオマスボイラーによる熱供給は有効です」

下川町で行われているバイオマスの取り組みから考える未来。

集合住宅に木質バイオマスエネルギーを活用した事例として北海道でよく知られているのは下川町の取り組みです。町の面積の9割を森林が占めるこの町では、森林資源の有効活用と町の未来を見据え、1990年代後半から地域有志の研究会が発足され、いち早く行政の調査も始まり、地域の施設で徐々に木質バイオマスボイラーの導入が進められていきました。なかでも大きな取り組みだったのが、2013年に整備された「一の橋バイオビレッジ」です。

町の中心部から10kmほど離れた一の橋は急激に過疎化が進んでいた地区。そこで、点在していた住まいを一箇所に集め、集住化エリアとなる「一の橋バイオビレッジ」をつくり、必要な施設もその近隣に集約。熱を住宅にバイオマスで供給し、さらに産業にも役立てようとビニールハウスでの椎茸栽培もスタートさせ、地域の雇用を生み出しました。

エネルギーの自給と集落再生を目指して建てられた、一の橋バイオビレッジ。

エネルギーの自給と集落再生を目指して建てられた、一の橋バイオビレッジ。

鈴木さん:
「下川町の取り組みは画期的だと思います。しかし、同じような取り組みが、なぜ他の地域になかなか展開していかないのだろうと思うことがありますね」

井筒さん:
「森から木を切り出して、それをチップにして、エネルギーとして利用するためには、工程それぞれに専門家が必要になりますし、物流のインフラも新しく整えなければなりません。また、ガスや灯油を供給している地元企業との調整も重要。あらゆることに細やかに対応できる組織としての能力が高くなければ、実現は難しいのかもしれません」

一の橋地区にある木質ボイラー。

一の橋地区にある木質ボイラー。

下川町の例を見ていくと再生可能エネルギーを暮らしに取り込んでいくためには、住民も行政も一緒になって地域を変えていこうという意識が必要なのかもしれません。

しかし、北海道の歴史を紐解くと開拓時代から補助金がたくさん投入されてきた経緯があり、行政や企業に「何かをしてもらいたい」と考える体質も根強くあるのではないかと鈴木さんは感じることがあるそうです。

鈴木さん:
「ありがたいことに『無印良品が出店してくれたらいいのに』と言ってくださることが多いのですが、住む人自身で必要なものを自分たちの手でつくる意識の大切さも感じています。地産地消とはよく使われる言葉ですけれど、これからは地消地産に変わっていくのではないかと思います」

井筒さん:
「僕がバイオマスを通じてやろうとしていることも、鈴木さんの考えに共通します。地域が地域内の資源を最大限利用して温まる仕組みをつくりたいとsonrakuでは考えています。経済的にも精神的にも自立してこそ、サスティナビリティは可能ですから」

今回の対談を通じて浮かび上がってきたのは、バイオマスエネルギー浸透のためには、人々の意識が変わり、どんなエネルギーを使うのかという選択肢のある環境整備が必要だということでした。

良品計画の活動と、井筒さんがエネルギーを通じて行っている活動は、現在接点はありませんが、そこに共通するのはサスティナブルな社会をつくりたいという想いです。

この連載ではこれからも、ローカルエネルギーを軸に、私たちの未来について考え続けていこうと思います。

文:來嶋路子

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過去の記事:
01 バイオマスで地域の熱をあげる。sonrakuの挑戦。
02 木質バイオマスによるエネルギー事業とは?
03 教育、スポーツ、エネルギー。地域循環に欠かせないピース