ローカルニッポン

まちづくりの新たな希望がここに!リノベーションスクール@豊島区|初日

まちのことをまちの中で考え、行動し、実践していく。一定の短い期間でまちづくりの実践技術を学ぶ場所がリノベーションスクールです。北九州からはじまり、全国的に広がりを見せているこのスクールが2015年3月6日〜8日の間、リノベーションスクール@豊島区として、西巣鴨にある大正大学を会場に東京で初開催されました。「まちへダイブ!」を合言葉にまちづくりへの希望と熱気に包まれた3日間の様子を3回に分けてお届けしたいと思います。

これから、ここからまちづくりがはじまる。

「消滅可能性都市、豊島区へようこそ!」
期待と不安を胸に集まった受講生たちを前に、リノベーションスクール@豊島区は豊島区副区長 渡邊浩司さんのこの一言から始まりました。

「消滅可能性都市」とは、民間有識者でつくる日本創成会議が2014年5月に発表した2040年までに20~39歳の若年女性が半減し、行政機能の維持が難しくなるとみられる自治体のことを示した言葉。この不名誉な称号を23区内で唯一与えられてしまったのが豊島区なのです。その大きな理由として、豊島区が学生といった流入流出の多い世代で成り立っているということ、その反面定住する子育て世代がとても少ない地域だということが挙げられます。さらに空き家の数が23区内で一位(2013年住宅・土地統計調査のデータより)。およそ3万件の空き家が存在しています。リノベーションスクール@豊島区は、これら区が抱えている2つの大きな課題を解決するための糸口となる大きな可能性を秘めています

ユニットDに密着

リノベーションスクール@豊島区は、まちの空き家を再生させる事業企画を生み出すことを目的とした「リノベーション事業計画コース」と自分たちの手で実践しながら家づくりを学んでいく「セルフリノベーション計画コース」の2つがあります。「リノベーション事業計画コース」はさらに各9名A~Dユニットに分かれ、豊島区内にある遊休不動産を担当します。私は今回、ユニットDに密着させていただきました。

ユニットDの先導者となるユニットマスターは建築設計事務所ブルースタジオの大島芳彦さん。まちと人と暮らしに寄り添うリノベーションやまちづくりを多く手がけている、リノベーションとまちづくりに関するプロ中のプロ。サブユニットマスターは、リノベーションスクールの開催などを手掛けるリノベリング所属の三浦雅美さん。一児の母でもあります。

オープニングアクトは嶋田洋平さんと松本理寿輝さん

この3日間受講生たちは、豪華メンバーのまちづくりにまつわるレクチャーを聞くことができます。これをライブアクトとリノベーションスクールでは呼んでいます。一日目午前の部はらいおん建築事務所の嶋田洋平さんの「欲しい暮らしは手づくりで手に入れる」とまちの保育園の松本理寿輝さんの「まちの保育園・コミュニティで子供を育てる」をテーマにしたお話。嶋田さんは、自らが実践してきたまちに根付いた暮らしのお話を通し、既存の考えとは異なる新しいまちへの関わり方を提案。続く、松本さんは、まちの宝である子どもたちをまち全体で育てていくための工夫やアイディアを細やかに教えてくださいました。貴重な二人の「まちとの関わり方」のヒントをもらった受講生はいよいよ外へと繰り出しました。

まちへ

いよいよユニットワークの時間です。外で集合したユニットDのメンバーに大島さんは「気を使わないこと」「待っていたらダメ」「発言した者勝ち」と大きな声で伝えます。このことがリノベーションスクールでどれほど大事か、後々になってわかってくるのです……。

さて、ユニットDの現場となる舞台は、豊島区内でも子育て世代が明らかに少ない地域である椎名町。駅からほど近いサミット商店街に位置する2階建ての建物「とんかつ屋一平」が今回担当する物件です。ここでは、物件の間取りや状態を知ることはもちろんですが、何よりオーナーの思いを聞き、このエリアが持つ、いいところ、悪いところを体中で感じることができるかが重要になっていきます。なぜなら、リノベーションスクールがするべきことは、ただ見た目が美しかったり、ユニークである建物を作り上げることではないからです。「オーナー」の思いをすくい取り、「地域に住まう人」に必要とされ、「まちの一部」となるものを作り上げることが課されているのです。さらにそれが事業としてきちんと成り立つものでなければなりません。それを3日間で形にするということが、並大抵のことではないことは想像に固くありません。

とんかつ一平は、オーナーの山田さんのご主人のご両親が1Fでお店、2Fを住居として使っていた場所。現在は、築40年以上の空き家ですが、中はとても美しく保たれていました。
「この建物を大切にしたい気持ちがあるんです。ただ壊してなくなりました、というのは嫌だったんです」
山田さんは語気を強めながら語ります。
そんな場所をユニットDはどうリノベーションしていくのでしょうか。

第一の関門

慌ただしく再び大正大学へ戻り、ワーク会場に戻り各々が感じたことを話し合います。今日のメインイベントは17:00から始まるショートプレゼン。ユニットマスターたちの前でユニットA〜Dが各々のアイディアを発表します。この時すでに13:00。14:00からは午後のライブアクトがあるため、話し合う時間がさらに制限されます。

「一日目の目標はエリアを定義すること。家の活用法ではなく、まずは、エリアの活用をどうするかを考えることが重要」とユニットマスターの大島さんがメンバーを導いていきます。

最初は遠慮がちだった受講生たちも、大島さんのアドバイスによって、アイディアや意見を言い始め、共有の空気をまとっていきます。しかし、まだまだ「これだ!」と思えるようなキーワードが出てきません。リノベーションスクールでは、このキーワードやイメージがいかに早く出てくるかが重要になってきます。そこからコンセプトが生まれ、具体的な肉付けが可能となるからです。

しかし、ここが一番の難所。出会ったばかりの仲間とまちと物件。それをいかにスピード感を持ってユニットメンバーと共に解像度を上げていけるかがキーなのです。

ソンミサンマウルのコミュニティ

時計は14:00を回り午後のライブアクトが始まります。
韓国から朴ミラさんを迎えてのテーマは「ソンミサンマウルのコミュニティ」。ソンミサンマウルは自分たちで病院から学校まで、まさに欲しい暮らしを自分たちの手で作っている共同体。そこはもはや、一つの村のよう。そこの住民であるミラさんのお話には、住民同士がつながり、行動するためのヒントが散りばめられていました。

悔しい思いをしたショートプレゼン

ソンミサマウルの話を聞いて興奮しつつも、ワーク会場に戻ればすぐにショートプレゼンに向けて話合いが再開されます。とはいえ、時間は一刻一刻と迫ります。まとまりきらないアイディアと意見をなんとか数枚のプレゼン資料へ落とし込み、自信のなさをにじませながらショートプレゼンへと向かいました。

ユニットD一日目のショートプレゼンは、「子育て」を中心としたまちづくりの提案。具体的な案は結局出すことはできませんでした。プレゼンを聞いたユニットマスターからは厳しい意見が飛び交います。

「まだ椎名町の良さを理解していない」
「子育てという部分に引っ張られすぎている」
「本当にそれでいいの?」

各々が消化しきれない思いを胸にユニットワーク会場へと戻っていきました。

まちへダイブ!

この時点の問題点は明確です。もっとまちのことを知らなければならないということです。そのまちと場所だからこそと言える何かを見つけるためには、よく見て、聞いて、感じて、知ることからはじめなければいけません。あっという間に時間はもうすぐ22時。けれどこのまま各々帰るなんてことはしません。

「まちにダイブしろ!」

大島さんが率いて、ユニットDのメンバーは椎名町の夜歩きへと繰り出しました。時間が少ない中、出きる限りその土地に足を運ぶこと。リノベーションスクールではそこが素晴らしい企画が生まれるかそうでないかの分岐点なのです。

(2日目に続く)

文:坪根 育美