ローカルニッポン

自然を大切に・・・私らしくひょうたんの魅力を伝えること

宇都宮市は栃木県の中部に位置しており、宇都宮城址公園や大谷資料館など有名な観光地があります。東京からは約100kmの距離で、JR宇都宮駅がある中心地には百貨店やタワーマンションなどが並びますが、車を20分位走らせると田んぼ、畑、山などの自然が見えてくるほどよい田舎町です。

栃木県の特産品にはイチゴやかんぴょうがあり、収穫量は日本一です。夕顔の実の中身をくり抜いて作った「ふくべ細工」や宇都宮の中心を流れる田川沿いで染色職人が注染(ちゅうせん)という技法で染めた「宮染め」などの伝統工芸品も有名です。

夕顔から作られたかんぴょうは栃木の名産ですが、前述の「ふくべ細工」にはひょうたんも使われることから、同じウリ科のひょうたんも栃木の名産と言ってもいいのかもしれません。

ひょうたんとは、ウリ科の植物で、最古の栽培植物とも言われています。原産地のアフリカから食用や加工材料として、世界各地に広まったと考えられています。形は、上下が丸く真ん中がくびれたものから球状や楕円形、棒状や下端の膨らんだものまで様々です。長さも5㎝くらいの極小のものから、2mを超える大きなものまで、品種によって様々なサイズがあります。

この宇都宮で産まれ育ち、自然を大切にしながらひょうたん作家として活動されている檜山さんにひょうたんとの出合いを聞いてみました。

檜山さん:
「8年前、あるお店でひょうたんランプの手作りキットを購入したのがきっかけでした。ひょうたんの軽くて硬い手触りやしっとりとした質感などに癒しを感じ、しばらく手から離せなかったのです。キリを使ってひょうたんにポツポツと穴を開けていく作業は、時間を忘れてずっと続けていられる。この時間をたくさんの人に味わってもらいたいと思いました」

取材を通して、私もひょうたんの穴開けに挑戦してみました。乾燥したひょうたんはとっても軽く、でも表面はしっかりとあたたかく。ひょうたんの表面にキリを刺すと、すっとひょうたんの中にキリが吸い込まれ、思っていたより簡単に穴を開けることができました。次々と穴を開けていると、檜山さんが話していたように時間を忘れて没頭してしまう感覚がありました。ひょうたんに魅了された檜山さんは、どのようにして作家を目指すようになったのでしょうか。

2014年頃、趣味で作った作品を初めて個人のSNSに投稿してみたら、友達に「私にもひょうたんの雑貨を作ってほしい」と依頼されたのがきっかけ。そこからは作れば作るほど作品づくりにハマっていき、40歳で“ひょうたん作家”となり屋号を持ちました。

檜山さんが作るのは、ひょうたんのランプ。ただ穴が並んでいるだけでなく、ひょうたんの特性を活かしたアート作品と言えるのではないでしょうか。

作品づくりのモットーは“もったいない”です。ひょうたんのかけらも捨てることなく、素材の全てを使って作品を作ります。ひょうたんである意味を最大限に活かすために、つるもつけたまま。形や質感には一切手を加えず、着色なども不要と考えています。

デザインはシンプルに。ランプを作る時に出たかけらは、ピアスや髪ゴムなどのアクセサリー制作に利用しています。ひょうたんのタネは、乾燥させて来年の栽培に使用したり、つながりのある作家さんの作品に取り入れてもらったりしているそうです。

始めはお店で乾燥したひょうたんを材料として購入していたのが、作れば作るほどもっと素材であるひょうたんが必要になります。ついに檜山さんは自分で栽培することを決めました。

ひょうたん栽培のこだわりと縁(えん)

ひょうたんの畑とトンネル

「ひょうたんを一から自分で栽培する」と決めてから、ひょうたんの栽培ができる畑を探し始めました。畑を借りるのに時間をかけてあちこち探していたところ、当時働いていた職場の上司から畑を借りることになります。偶然にも、貸主の方は檜山さんのお父様とつながりがあり、それがきっかけで、ずっと使われていなかった畑を借りることができたのです。檜山さまのお父様は既に他界されていますが、これはきっとお父様が用意してくださったご縁だったと思います。

ひょうたん栽培にあたって、檜山さんが心がけていることは農薬や化学肥料を使わずに自然の中で育てること。化学薬品を使って育てると、綺麗で大きなひょうたんが育つことは分かっていますが、関わる全ての過程に優しくありたいから使わないと決めているそうです。

その考えはご自身のお子さんが小さい時にアレルギーを持っていたことに由来します。自然の中で優しい子育てがしたい。都会ではなく田舎で暮らしたい。という昔からの考えが影響しているのかもしれません。

また、表面の色を白く綺麗にするためにひょうたんを漂白剤に漬け込むことをあえて省き、自然そのままの色を活かし、それも個性だから。と受け入れる。それだけではなく、「漂白剤を畑に流したくない」と話される檜山さんの自然を大切にするものづくりへのこだわりが感じられました。

人とのつながり

ワークショップの風景(左)お子様向けマラカス(右)ひょうたんのランプ

檜山さんは2017年秋に宇都宮で開催されたマルシェに初めて出店しました。マルシェでは様々な人との出会いがあり、自分で畑をやっている方からアドバイスをもらうこともあるそうです。檜山さんの作品を手にして、その表情にお客様の多くが優しい笑顔になります。

雑貨の販売と同時に開催するワークショップでは、子どもたちの発想力にびっくり。あえて先の尖った道具を使うことで、気をつけて扱わないといけないことに子どもたちは気づき、その経験が今後に活かされると話します。

マラカスづくりのワークショップでは、小豆、コーン、鈴などの複数の中身を用意して色々な音色を子供たちが試せる環境づくりをしています。「全部入れたらこんな音?じゃあ鈴だけにしようー」など子供たちとの会話も楽しんでいました。

また地域の学校のPTA活動にも参加しており、講習会の講師もしています。普段は子育てに奮闘しているお母様たちと日常を離れゆったりとした時間をとることで、素晴らしい作品が生まれることもあるそうです。

お母様たちからは、「どんなデザインにするか迷う。失敗したらどうしよう」などの声が聞こえてきますが、「キレイに作ることだけでなく、気持ちのままに思うように作るだけで素敵な作品ができますよ」とアドバイスをしています。

楽しそうに作業をされる、お母様たちのアート力に感動。でき上がったランプを並べて写真撮影するお母様たちの姿は、日々忘れがちな自分だけの時間の有効活用ですね。

檜山さんは現在もマルシェに出店、地域の作家さんやお店との交流を積極的に行っています。全国の無印良品で開催している「つながる市」は地域の方々と一緒にその地域で作られたものを屋台で販売し、ヒトモノコトをつなぐ期間限定の市場です。

実は、檜山さんは昔筆者とともに無印良品の店舗で働いていたことがあり、今も共感しあい、つながる市では出店者の方々を紹介していただいています。檜山さんに共感した、こだわりを持ったつくり手たちが集まり、回を重ねるごとに出店者同士が顔見知りになり、和気藹々とつながる市を開催することができています。

2019.10 初めて開催した第1回「栃木つながる市」の様子(檜山さん:前列右から2番目)

2年前の外出自粛期間中は、「おうち時間を少しでも楽しんでもらいたい」という想いからランプづくりのワークショップキットやひょうたんのタネを今までマルシェに来て頂いたお客様やひょうたんに興味を持っている方に配布したそうです。ひょうたんのタネを採って命を繋いでください。と手紙と一緒に郵送し、育ったひょうたんを写真で送ってもらう。そんな素敵な企画をやっていたそうです。
コロナ禍で人と人とのつながりが薄れていく中でも、小さなことでも自分にできることを考え、行動に移していたそうです。

檜山さんのこれからのビジョン

ひょうたんの花

ひょうたんは夜に白い花を咲かせるそうです。
真っ暗な畑に白い花がホワーっと咲いている。「ひょうたんは受粉が必要だから暗い中でも虫に見つけてもらうために白い花を咲かせているのかな?」と楽しそうに話をされる檜山さん。

自然を大切にする活動だからこそ、自然との戦いは大変な苦労もあるようですが、ゆっくりと時間をかけてひょうたんを励ましながら育てている姿は、檜山さんの作品にも表れていると感じました。

活動を始めた頃からの檜山さんの夢は、ひょうたん畑の隣に店舗を構え人と人が自然とつながれるようなコミュニティの拠点を作ること。そこは、地域のだれもがしたいことをなんでもできる空間。そして自給自足ができるところ。例えば、何かに疲れてゆっくりしたい人は、地べたに寝ころんで自然から力をもらう。

例えば、ぼっとしたい人は、気負わずに自然体験ができるところ。
大人でも子供でもだれもが自然に触れることができて、ほっとできる場所の提供をしたいと夢を語ってくれました。

物腰がやわらかく、話していると自然に笑顔になれる、そんな檜山さんからすこしだけ予想外の一言がありました。「私のものづくりの考え方は、無印良品で働いていた時に培われたものだと思います」

もったいない、オーガニック、環境を考える、などがいつも根底にあると言います。現在もこうやって一緒に仕事をしていることがとても嬉しいことであり、これからもずっと大切にしていきたいつながりだと感じています。

文:今井美樹
写真:檜山桂子