ローカルニッポン

「自然と心地よく暮らす」を提案する/LANKA

福岡市の中心部から50分ほど電車に乗って、久留米市の田主丸(たぬしまる)町へ。屏風のように切り立つ耳納連山と九州一の大河・筑後川を擁し、これぞ風光明媚、といった美しい風景が広がる長閑なエリアです。
その耳納連山のふもとに、「山苞の道(やまづとのみち)」という道があります。「苞」という字には、ワラに包まれたみやげものという意味があり、源氏物語の中の「山苞にもたせ給へり紅葉」という句に登場する言葉。その名の通り、脇に果樹園、菜園、植木農園のほか、ワイナリーや酒蔵、ギャラリーが並ぶ、田主丸町の魅力が詰まった5.7㎞です。

山に包まれた道、おみやげの多い道、という「山苞の道」にはこんな看板が

今回取材に伺ったのは、山苞の道沿いでインドやスリランカの伝統医学「アーユルヴェーダ」に基づいたオイルや石鹸を製造・販売する「LANKA(ランカ)」です。
木が生い茂るエントランスは、このあたりでも際立つ空気感を放っています。木陰が気持ちいいアプローチを通って、代表の秋山恵利さんに話を聞いてきました。

森の近くにあるLANKAの入り口

きっかけは、自身の肌荒れ

LANKAで販売しているのは、スリランカ産のゴマから搾った無添加・非加熱のセサミオイルと、そのオイルから作った石鹸やコスメ。セサミオイルと聞くと一般的なゴマ油を想像するかもしれませんが、LANKAのセサミオイルは全くの別物です。

LANKAで販売しているセサミオイル

このセサミオイルと秋山さんの出合いは、25年ほど前。

秋山さん:
「以前、私は多忙な毎日を送るなかで、極度の疲労とストレスによる酷い肌荒れで悩んでいました。痒くて痛いし、赤くなるし、仕事にも集中できず、何をしても改善せず、本当に辛かった。そんな時に新製品開発のためにスリランカへ出張する機会があり、現地で勧められたセサミオイルを使ってみました。
そうすると肌荒れがすっかり改善したんです。ニキビ痕のクレーター、シミやシワも目立たなくなり、悩みから解放されてメンタル面でもすごく救われたんです。一生手放せない良いものに出合えた気分でしたね」

スリランカはスパイスやハーブが身近で、世界最古で高度な生命哲学といわれるアーユルヴェーダが根付いた国。さらに地理的にも赤道が近く、太陽の恵みを存分に享受できる環境にあります。その地で育ったゴマのセサミオイルは、一般のものとどう違うのでしょう。

秋山さん:
「調べたところ、スリランカのゴマは栄養価が段違いに高く、抗酸化物質であるセサミンを通常の5~10倍も含みます。それを現地では低温のままゆっくり石臼で生搾りします。抗酸化力が高く、生きた酵素をたっぷり含んでいて、肌を再生させるオイルができるというわけです」

田主丸にあるLANKAでは、現地の農園で栽培された上質なゴマと低温生搾りという、秋山さんのこだわりが詰まったオイルを販売しています。サラリとした手触りで、肌馴染みもよく、地域の人たちをはじめ全国にファンがいる逸品となっています。

「LANKA」店内では、オイルのほか石鹸やクリーム、化粧品を販売する

スリランカの不思議な魅力とは

なぜスリランカ産のセサミオイルは栄養価が高いのでしょう。秋山さんの話では、ゴマだけでなくコーヒーやカカオの実などがほぼ野生で育っていて、現地の人は、野生の木の実を必要な分だけ採って食べることで生活しているそうです。

秋山さん:
「現地に農園を持っているので年に何回かは渡航しますが、スリランカの文化の高さにはいつも驚かされます。もともと仏教が根付いた国で、国民はお寺で説法を聞いて育つため、自然や動物、虫にも風にも神が宿るという考えが定着しています。その視点でいうと、人間は自然を汚す存在。自然を壊さないよう、自然に逆らわない生き方が主流になっているんです。食べ物は野生のものだし、時計もほとんど使わないんですね。
ゴマの収穫の儀式に参加したときは、子どもたちが集まってきていて、自然に感謝をしてから蜂の幼虫を食べていました。自然から得られるものは栄養価が高く、調味料がなくても美味しいし、何より生命を頂いているということを、身をもって感じられます。不思議と不足感がなく、これ以上に動物の肉を食べたいという欲求もあまり起こらないんです」

満月の夜にゴマを収穫する儀式の様子

スリランカの人たちがいわゆる原始的で後進的な暮らしをしているかというとそうではなく、日本と同じようにスマホやSNSも普及していて、むしろ他国より高次元で自然との共生ができているのではないか、というのが秋山さんの考えです。

秋山さん:
「生活や技術だけが進化しても、人間の体は昔から進化していないので、自然を味方につけないと心地よく暮らすことはできないと思います。昔の私の肌荒れが、薬ではなくセサミオイルで改善したように、本来は自然がもつ酵素や再生の力をうまく活用したほうが、心地よく暮らせると思うんです」

スリランカという遠く離れた国の暮らしぶりや価値観は、秋山さんに多くの刺激を与えてくれたようです。それが、今のLANKAのものづくりに生きています。

自然と生きることを考えてみて

LANKAの店舗では、アーユルヴェーダに基づいたカウンセリングやマッサージを受けたり、カフェとしての利用もできます。田主丸の自然豊かな場所を選んで店舗を構えたのも、理由があるそうです。

秋山さん:
「アーユルヴェーダのマッサージの専門家を呼び寄せたんですが、アーユルヴェーダを行う場所は自然が感じられる場所でないと効果がないという話で。耳納連山と筑後川があり、自然と人の暮らしが近い田主丸のこの場所が、人々の疲れを取るためにもぴったりだと感じています」

カフェへ繋がるアプローチ。野生の植物と木の実やベンチがあり、まさに自然と暮らしが近い

カフェでは、スリランカの紅茶や珍しい食材も扱っていて、秋山さんの話を聞きながらオイルやコスメを選ぶのも楽しいひととき。さらに、木が生い茂るアプローチには切り株やベンチがあって、子連れの家族が訪れて自然の中で遊ぶこともできます。

秋山さん:
「私の価値観を人に押し付ける気はありません。ただ、“自然と共生する”ということを考えるきっかけになればと思っています。LANKAはセサミオイルやコスメを販売するだけでなく、アーユルヴェーダについて学んだり、マッサージを受けたり、庭で寛いだりと、日頃の疲れを癒せる場として発信しています。
田主丸という地域は本当に長閑で、果樹園や植木業の方も多く、自然とともに生きている点で、スリランカと似ているように思うんです。昔は店舗が街中にあったんですが、田主丸を選んでこの店舗を作っています。
最近は、地域の方たちとともに民泊事業を行っています。福岡県大川市~大分県大分市と筑後川流域を味わっていただくのが狙いで、私はここで田主丸という地域とスリランカの食材を体験してもらうワークショップを行っているんです」

そう話しながら出してくれたのは、スリランカのカカオの実。これで、チョコレート作りを体験できるのだとか。

秋山さん:
「これを焙煎して食べたら、砂糖を加えてなくてもチョコレートの味がしますよ。石臼で挽くとオイルが出てくるので、スリランカ産のサトウキビを混ぜればチョコレートが作れるんです」

実際頂いてみると、香りがまさにチョコレートで、甘味はないものの苦味がなく、驚きました。自然から得られる木の実を使って、自分の手で食べ物を作る体験というのは、日本ではなかなかできないこと。こんな体験から、食べ物のありがたさや自然の恵みに思いを馳せてみてもいいでしょう。

スリランカ産のカカオの実。香ばしく美味しかった

スリランカの人々の、自然に抗わない心地よい暮らし。そのおかげで、野生でも上質な農作物ができ、酵素が活きたセサミオイルができるように、人と自然がうまくサステナブルな関係が築けているように感じました。私たちにとっては一朝一夕に真似できることではないものの、生き方のヒントにはなるのではないでしょうか。 秋山さんのスリランカとの関係は、セサミオイルをきっかけに始まり、今や地域の人や家族を巻き込んで大きな輪となっています。私も小瓶のオイルを買って帰り、一滴に感謝をしながら使ってみようと思うのでした。

文・写真:とがのみほ(一部、秋山さん提供)

リンク:
LANKA株式会社