2015年4月17日にNPO法人棚田ネットワークによるイベント「棚田へ行こうよ!棚田入門&棚田米試食」が東京駅新丸ビル内にあるエコッツェリアで行われました。
そもそも棚田について、みなさんはどのくらいの知識をお持ちですか?棚田とは、平野部の水田とは異なり、傾斜のある地域に段々でできた田んぼのことです。そのまま「段々たんぼ」や「千枚田」などとも呼ばれています。この棚田の応援団として、活動している団体が棚田ネットワークです。「応援」する内容は以下のように多岐に渡ります。
・記録する→棚田の現状や問題を調査し、データベース化
・伝える→イベントの場やSNSを使用した情報発信
・交わる→棚田の保全団体との交流や、NPOとの協働、子どもの環境学習の開催
・場を作る→イベントや農作業体験などの開催
・つなぐ→人と人、団体と団体をつなぐ。棚田のオーナー制度を行う団体の情報をまとめた「棚田百貨堂」の運営
・手伝う→棚田農家の耕作支援。農家さんたちの地域の情報発信を手伝う。
この棚田ネットワークの代表を務め、「棚田博士」とも呼ばれている早稲田大学名誉教授の中島峰広さんと事務局長の高桑智雄さんのお話を中心にイベントは進められました。
棚田の魅力
はじめに、高桑さんから全国の代表的な棚田の紹介がされました。
一望できる棚田としては日本最大級の三重県の丸山千枚田、日本の二大棚田の一つ長野県千曲市姥捨の棚田、高さ8.5mにも及ぶ石積みでできた佐賀県唐津市の蕨野の棚田など、どれも雄大な日本の自然美を感じさせるものばかり。棚田の形はそれぞれの地域によって大きく異なります。例えば、ゆるやかな谷底では「谷津田型」、急傾斜の地域では「山地型」、日本海側の海辺では「臨海型」、西日本に多くみられる「石積みの棚田」といったような感じです。
「棚田はひとつとして同じものがないんです。地域によって違います。人間と一緒で表情が豊か。見ればだいたいどこの棚田かわかるのが特徴です」
それは、人間の都合に全て合わせるのではなく、その土地が持つ自然の形に合わせて開墾したことを意味します。昔から棚田は自然に寄り添いながら作られたものなのです。
棚田が日本に必要な理由
日本全国にある棚田ですが、その面積は日本の水田面積である約250万ヘクタールのうち、8%にあたる約22万ヘクタールになります。それが今、耕作放棄によってさらに減っているのです。1970年から始まった減反政策の影響に加え、近年の大きな問題では農業従事者の高齢化、新しい担い手不足などが原因として挙げられます。そうしたさまざまな理由が重なり、現在の棚田の放棄率は40%にものぼるそうです。
「棚田は平坦地の水田に比べて、労力が2倍で収穫量は半分と言われています。だったら、棚田はもう必要ないのでしょうか?いや、僕らはそうは思ってはいません」
そう言って高桑さんは、棚田の機能・必要性について説明してくださいました。以下はそれを簡単にまとめたものです。
◆食料生産機能
「平坦地の水田に比べて昼夜の温度差が大きいため米がゆっくりと熟成する」、「水源に近いためきれいな水で育つ」、「棚田でははざ掛けし、天日干しするところが多い」などの理由から、米が美味しく育つと言われています。
◆水源かん養・保水機能
日本の国土の70%を占める山地。棚田は山間部にあることが多いのですが、森林と同じように土地に水を蓄える機能があります。このことにより、日本の水資源を守る機能も担っていると言えます。
◆洪水調整機能
棚田は、山林に降った雨を蓄えるので、「小さな治水ダム」とも言えます。食料生産と治水の2つの役割を果たす棚田には先人の叡智が詰まっています。
◆国土保全機能
地すべりが起こったあと地を利用して造られた棚田は少なくないと言われています。また土砂災害が起こりやすい場所を居住地ではなく棚田とすることで再度、土砂災害が発生した際の減災につながります。さらに土砂災害により棚田が流れても、また造り直すという循環型の土地利用により、長年にわたり棚田は維持されてきました。
◆生物多様性・生態系保全機能
棚田がある場所は豊かな自然が残っているところが多く、絶滅危惧種と呼ばれる生き物が多く生息しています。数少ない豊かな生態系がそこで育まれているのです。
◆保健休養機能・ヒーリング効果
棚田を見ると落ち着くという声を多く聞くことができます。それは、日本人のDNAが共鳴するものがあるのでは、と言われています。
こんなにも多くの機能を持ち合わせている棚田。知れば知るほど守っていかなければと思いました。
「日本人が長い時間をかけて築き上げたひとつの形を知ってもらい、残すというのが我々の使命だと思っています」
棚田の存在そのものが日本人にとって失ってはいけない「文化」であると言えるのではないでしょうか。
棚田米の試食
お話を聞いた後は、実際に棚田で作られたお米の試食が用意されました。このお米は棚田ネットワークが開催している西伊豆松崎町にある石部棚田のイベント「昔ながらのお米づくり体験!」で作られたキヌムスメという品種のもの。俵型に形作られたお米を実際に口にしてみると、一粒一粒がしっかりしていて、存在感があります。もともと美味しいお米だと思うのですが、お話を聞いた後に食べるとより一層味わい深く感じました。
参加できる取り組み
最後に、棚田ネットワークの活動に参加できる方法を教えてくれました。
まずは、棚田ネットワークの若者たちのアイディアで作られた「棚田百貨堂」というウェブサイトについて。ここでは、全国の棚田オーナー制度を行っている場所を探すことができます。棚田オーナー制度とは、年間会費を払うことで一定区画の田んぼのオーナーになれるというもの。田植えなどの体験はもちろん、その場所で収穫したお米は自分たちでもらうことができます。棚田百貨堂では、場所の情報だけでなく「作業量」「収穫量」「参加費」などの情報も一緒に掲載されているので、個人が希望するスタイルがきっと見つかると思います。
もう一つの参加方法は、実際に棚田体験イベントに参加することです。5月16日(土)~17日(日)には石部棚田での田植え体験があります。田植え体験自体は以前よりもだいぶ増えてきている印象がありますが、棚田での体験はなかなかできるものではないと思います。
「僕達の活動に興味を持った方たちがいたら、ぜひ声をかけてください。いつでも参加を待っています」
日本には素晴らしい文化がありますが、棚田もその一つとして見てみるとまた新しい発見があるはずです。まずはその美しい姿を見に出かけてみてはいかがでしょうか?
※トップの写真は、駿河湾を一望できる西伊豆松崎町石部棚田。田植えを終えた5月中旬の風景。