ローカルニッポン

終わりじゃない、「始める」ための3日間。リノベーションスクール@豊島区|最終日

まちのことをまちの中で考え、行動し、実践していく。一定の短い期間でまちづくりの実践技術を学ぶ場所がリノベーションスクールです。北九州からはじまり、全国的に広がりを見せているこのスクールが2015年3月6日〜8日の間、リノベーションスクール@豊島区として、西巣鴨にある大正大学を会場に東京で初開催されました。「まちへダイブ!」を合言葉にまちづくりへの希望と熱気に包まれた3日間の様子を3回に分けてお届けしたいと思います。

最終日はいよいよ、物件のオーナー、ゲストアドバイザー、一般のお客さんの前で公開プレゼンテーションが行われます。緊張感と共に高まる期待。最終日の様子をお届けします。

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ここまで来たらもう止まれない

3日間に渡るリノベーションスクール@豊島区の最終日は、2日目の夜から始まっていました。休むことなく、アイディアを形にすることだけを考え続けるスクールメンバー。ユニットマスターも共に行動します。そこには、明らかにひとつの絆が生まれていました。


最終日の公開プレゼンテーションは14:30から始まります。物件のオーナー、ゲストアドバイザー、一般の聴衆を前に自分たちが3日間で作り上げた事業計画を発表し、ここで集大成といえるものを見せなければなりません。時間は刻一刻と迫っていきます。前日にやっと見つけた「まちづくりゲストハウス」という一つのキーワードを軸にして、より具体的に、より魅力的な事業にすること。昨晩から寝ることも、食べることも後回しにし、そのことだけを考え、ひたすら気持ちを込めていく時間が過ぎていきます。

自分たちが伝えたいことを伝えるためのプレゼン資料。当たり前のことですが、それを形にするのは、簡単なことではありません。何を、どう伝えればいいのか。各メンバーがそれぞれ役割分担をして、必要なページを埋めていきます。ある人はロゴを作り、ある人は画像を探す。足りないデータがあれば調べ、足りない言葉があればそこを補っていく。もう互いに遠慮する時間も余裕もありません。大島さんが初日に言っていた「気を使わないこと」「待っていたらダメ」「発言した者勝ち」という言葉の意味を、ユニットDのメンバーは体験から理解したのでした。

プレゼン資料ができ始める一方でプレゼン発表の練習も繰り替えされます。混沌とした状況の中、公開プレゼンテーションの時間ギリギリまで資料作りとプレゼン発表の練習は続けられました。

いざ、公開プレゼンテーションへ


公開プレゼンテーションの会場は超満員。最前列に物件のオーナーと全国各地でリノベーションによるまちづくりのプロデュースをしているアフタヌーンソサエティの清水義次さんをはじめ、建築のプロからメディア運営者まで幅広い分野で活躍する面々によるゲストアドバイザーが並びます。一般の聴衆もずらり。立ち見も多く見られます。「どんな話が飛び出すのだろうか」そんな期待が熱となり、会場を満たしていました。

公開プレゼンテーションの発表はまず、セルフリノベーションコースから始まりました。

3日間でマンションの一室をリノベーションすることを課されていた受講生。「自分が住みたい空間は自分で作ることができるんだ」という、気付きと自信を得て生き生きとした顔をしていました。全員が参加したプレゼンテーションは、セルフリノベーションチームの絆を表しているように感じました。


続いて、事業計画コースの公開プレゼンテーションが始まりました。事業計画コースは、前半8分がプレゼンテーションタイム、後半12分がゲストアドバイザーによるブラッシュタイムになります。発表順はユニットD〜A。そうトップバッターがユニットDです。

ユニットDが出した事業プランは「まちぐるみゲストハウス」というコンセプトを軸に作られた、ディープな外国人が集まるゲストハウス。その名も「シーナと一平」です。「椎名町」にある「とんかつ一平」という場所を活かしたネーミングです。「シーナと一平」は、ゲストハウスでありながら、まちの案内役であり、まちのダイニング・キッチンにもなるような場所。そして、ゆくゆくは、椎名町に今なお残っている空き部屋をゲストハウスにリノベーションし、その拠点を「シーナと一平」にするという将来像を描いていました。

「ホームステイからタウンステイへ」

その一言には、活気溢れる椎名町の未来の姿がありました。


後半のブラッシュアップタイムでは、ゲストアドバイザーから事業化に向けての現実的なアドバイスがされます。ここでさらに、事業案に磨きがかかるのです。

ユニットDのプランを聞いたゲストアドバイザーからは、「まちをひとつの拠点にしようという考えや、ネーミングがいい」という声があがる一方で、「2Fの和室をうまく使ったほうがいい」「まちぐるみ感をどうやって出していくかが重要」「ジャンルが違う人を巻き込んで家守舎を作ってほしい」などの意見が出されました。プレゼンが終わり、ほっとした表情のメンバー。その顔にはやりきった達成感と次の一歩に向けての希望が混在して表れているように感じました。

素晴らしい事業計画のプレゼンテーションは続きます。以前は銭湯として使われていた場所を地域のみんなの子育ての場にするというユニットCの案、公園の新しい公共利用の可能性を示したユニットBのコミュニティカフェの案、民間賃貸マンションの別館を担当したユニットAでは、小さな小屋をクリエイターに自由に使ってもらい、まちへと飛び出し、小さな交流の場を地域に増やしていく案が出されました。

素晴らしいプレゼンテーションが展開される会場では、感嘆の声があちらこちらから漏れていました。

それぞれのまちで家守としてリノベーションまちづくりを


興奮冷めやらぬ公開プレゼンテーションを終えた後は、スクールマスターでもある清水義次さんのクロージングアクト「現代の家守たれ!」が始まりました。清水さんが提唱する「リノベーションまちづくり」。清水さんは以下の4つに当てはまるものをリノベーションまちづくりと定義しています。

1.リノベーションまちづくりとは、今あるものを活かし、新しい使い方としてまちを変える
2.民間主導でプロジェクトを興し、行政がこれを支援する形で行う“民間主導の公民連携”が基本
3.遊休化した不動産という空間資源と潜在的な地域資源を活用して、民間自立型プロジェクトを興して地域を活性化する そして、都市・地域経営課題を複合的に解決する
4.補助金に出来る限り頼らない
(清水義次さんの「現代の家守たれ!」ライブアクト資料より引用)

リノベーションスクールは、リノベーションまちづくりをするための事業を考える場所といえます。

「どの案もエリアの活用から考えていたのが素晴らしい。ここで学んだことを活かして、自分もまちも変えて行ってほしいと思っています。豊島区以外の地域から今回参加された方も、それぞれのまちで家守として、リノベーションまちづくりを実行してほしい」

清水さんから、受講者へまちづくりのバトンが渡されたクロージングアクトでした。

終わりの後に本当のまちづくりが始まる

最後は豊島区長の高野之夫さんから受講生たちへ卒業証書の授与が執り行われました。忙しい時間を縫って、今回の公開プレゼンテーションにかけつけてくれた高野区長。親愛の気持ちを込めて、受講生全員がアーチを作って見送ります。それは、民・官がひとつとなって、まちづくりを実現していく、これからの姿を象徴するかのような場面でした。


今回、3日間を通して密着取材をさせてもらったことはとても幸せなことだったと、今改めて感じています。印象に残っているのは、受講生・ユニットマスター・裏方のスタッフそれぞれの笑顔。辛苦さえも情熱に変えて、自分の全てを注ぎこんだ人たちにしかできない輝き。それがたまらなく眩しく感じました。

リノベーションスクールは3日間で「終わる」ものではなく、この3日間でこの先もずっと続く物事を「始める」ためのもの。ここから本当の意味でのまちづくりが始まります。これからまちと人の間にどんな化学反応が起こるのか、今から楽しみでなりません。

文:坪根 育美