近年、自閉症スペクトラム、注意欠如・多動性障害(AD/HD)、学習障害などを含む、いわゆる「発達障害」と診断される児童の数が増加しており、教育現場はその対応に追われています。文部科学省の2012年の調査では小中学校の通常学級に通う生徒のうち約6.5%が発達障害の可能性があるとのことですので、もはや他人事ではありません。この発達障害について、私達はどう対応していくべきなのでしょうか。南房総で発達障害児やその家族の支援を軸とした新しい取り組みが始まったので、ご紹介します。
発達障害とは
みなさんはこれまで発達障害と診断されたお子さんと接したことはありますか?発達障害は「じっとしていられない」「注意力がない」「聞く・読む・書く・計算する能力のいずれかに困難がある」などの様々な症状があり、脳の先天的な機能障害と言われています。
また知的に問題はなく、一般の生活に比較的適応している方もいれば、知的障害を伴う重度の自閉症の方もいて、幅の広い診断名でもあります。ここではまず、発達障害は「社会性」や「適応力」に困難を抱える人に対する呼び名であると大きく理解しましょう。
あわ発達障害児応援団「たからばこ」
障害児の支援といえば、2007年学校教育法の改正によって、障害児対象の特殊教育から「特別なニーズをもつ子ども」対象の特別支援教育への転換は歴史に残る大きな出来事であったといえます。
しかし、障害児とその家族にとっては、学校に子どもを預けている時間を含む社会生活全般が様々なバリアの連続。特に発達障害は、まだ世間に認知されてから日の浅い障害です。そこで、本NPO法人の現理事長 武田由美さんの取り組みから発達障害児の保護者と医療関係者、教育関係者ら9名の思いが集まり結成されたのが、地域団体あわ発達障害児応援団「たからばこ」でした。
“はじまりは、息子が2歳半で重度の自閉症であることがわかってから、所属している育児グループで発達障害の勉強会を開催したことでした。障害を抱える彼らが、少しでも自分らしく生きられる地域社会を実現しようと呼びかけたところ、親だけでなく、この障害が診察室や教育現場だけで解決する問題ではないことを感じていた医療・教育関係者からも賛同の声を頂いたんです。”
発達障害は、社会性や適応力に困難があることから、周囲とのズレを生み、これによっていじめや不登校、引きこもり、強迫神経症、不安障害などの二次障害を引き起こす可能性があります。これを予防するためには、彼らを取り巻く地域社会全体の理解と環境整備が必要だと考える医療や教育現場の関係者らが立場を超えた同志として武田さんや他の親達と共に立ち上がったのです。
グラデーションで発達障害を捉える「たからばこ」の視点
「たからばこ」では、発達障害を赤から白のグラデーションで捉えています。仮に顕著な発達障害者を「赤」、その特性を全くもたない人を「白」とすれば、赤に近い濃いピンクの人もいれば、薄いピンクの人もいます。もちろん「赤」に近い人を一般的に発達障害者と認定するのですが、そこに線はなく、もしかするとピンクの人の中にも発達障害者と同じような悩みを抱えている人がいるのではないでしょうか?
“このグラデーションの中には世界中の全ての人が入っています。大人としては落ち着きがなく、片づけが苦手で、しゃべりだしたら止まらない私もピンクが濃いんですよ(笑)。たからばこでは「ピンクが濃い」というのはほめ言葉になっちゃうんですけどね。”
NPO法人たからばこの設立
2009年に、あわ発達障害児応援団「たからばこ」が地域団体として活動を初めてから4年、地域への発達障害の啓発や親子の交流活動を行う中で、発達障害だけでなく様々な気になる特性を持つ子の親や、色々な専門職、地域の応援者らが次々に仲間として加わり、2013年NPO法人の設立(正会員:45名 賛助会員:47名)に至りました。NPO法人化してから行ってきた主な事業は以下の通りです。
―気になる子、そして全ての子を温かく支え育む地域づくり事業―
館山市、南房総市、鴨川市の子育て支援拠点に出張して、親子遊びと座談会を開催。身体を使った親子遊びで楽しんだ後、たからばこ会員の発達障害児の親を交えて子育ての座談会を行っています。
―子どもの発達凹凸に悩む方の駆け込み寺 ほっとカフェ事業―
子どもの発達に悩んでいる時、障害の診断を受けて途方にくれた時、また同じ立場の仲間に話を聞いてほしい時などに親子でゆっくりくつろぎながら情報交換ができる場として、たからばこ事務所をオープンスペース「ほっとカフェ」として月2回開放しています。
―冊子発行と講演会開催による子どもにやさしい地域づくり事業―
発達障害児の親の率直な想いや、医療、教育などの現場で働く支援者の声を集めた冊子「たからばこ~みんなの想い~」を発行し、この刊行に合わせて発達障害児に関する講演会を実施しました。
発達障害者とその家族を包み込むコミュニティ作り
~誰もが自分らしく生きられる地域社会へ~
その他、定期的に開催される「お茶会」や発達障害児やその家族らとみんなで遊ぶ夏の「合宿」、野外遊びの会「ひなたぼっこ」など年間を通して催しに暇がありません。こうして、積極的に発達障害について考え、意見を交わし、誰もがありのままの自分でいられる交流の「場」を作り出していることの背景にはNPO法人たからばこメンバーの強い願いが関わっています。
“親亡き後、この子達が個人として尊重され、地域の中で生き生きと暮らしていくことができるのか、これは障害をもつ子の親であれば誰もが常に頭の片隅にあることです。福祉制度がより充実していくことも有り難いことですが、障害や個性というテーマを通じてお互いの特性を尊重することに繋がれば、きっとそれは一般の人々にとっても過ごしやすい社会であるはず。いつか、たとえ子どもに障害があっても嘆く必要のない、そんな社会の実現のために、個性を認め合う地域の輪を広げていきたいと思います。”
障害というと、医療や教育、福祉の問題として自分とは直接関係のない世界のことと棚上げしてしまう傾向もあるかと思います。しかし、障害をもった人やその家族または現場の人々にとっては、福祉環境が改善されてきた歴史を振り返った上で、次なるステージこそ地域社会全体なのだということを知りました。発達障害児者支援を通じて豊かで彩り鮮やかな社会を創造しようとするNPO法人たからばこを、地域の一員としてこれからも応援していきたいと思います。
文:東 洋平
NPO法人たからばこ