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2地域居住による「暮らし」の相対化 / 馬場未織さん

千葉・南房総

2地域交流, 2地域居住, 自然学校, 遊休不動産活用

都会と田舎どちらにも住まいがある生活、憧れませんか?田舎での住まいを別荘と呼ぶこともありますが、最近は働き方やライフスタイルの変化から両方住まいとして利用する人も多く、こうした生活が2地域居住または多地域居住と呼ばれています。そこで今回は、東京と南房総での暮らしを長らく実践し、昨年このテーマで本も出版したライター馬場未織さんに2地域居住について、また設立したNPOの活動について聞いてみました。

馬場さんにとって2地域居住とは

  2007年に始まった馬場さん家族の2地域居住。その発端は息子さんの動植物への好奇心や自然派の旦那さんの一声にあったそうですが、これまで丸8年間にわたる週末の田舎暮らしが、壮絶なドラマに溢れていることを馬場さん自身の筆跡から窺うことができます。それもそのはず、馬場さんは東京生まれ東京育ち、30歳過ぎるまで鍬も持ったことがなかったという純粋な都会人。その人が8700坪農地付きの広大な敷地で、雑草やイノシシとの悪戦苦闘、また自然の中で得た1つ1つの新しい発見を十分に咀嚼して持ち前の文章力で綴っているのですから、都会に住む人々にとっては自分事のような臨場感があります。そんな都会と田舎の橋渡しのように活動し、発信し続ける馬場さんに、ここで改めて2地域居住を振り返ってもらいました。

馬場未織さん

“2地域居住は自分をリセットする、もっというと都市生活を相対化する機会を与えてくれました。都市に住むことしかなかった私は、今思うと、限定的な暮らし方に無意識に縛り付けられていたような気もします。南房総での生活は8年になりますが、では南房総にも縛られるのかというとそうではなくて、この2つの地域に暮らすことで、それぞれの場所を客観的に捉えることができることで心が自由になり、さらにそれぞれへの愛着も増すという相乗効果が生まれることが分かりました。”

  もはや第二の故郷となりつつある南房総ですが、今でも到着すると「今週もここにやっと帰ってきた、と体中が弛緩して毛穴が開く感覚」があるという馬場さん。これは常に一方の暮らしを俯瞰してみることができる2地域居住ならではの良さではないかと語ります。しかし、良いとこ取りに終わらないところが馬場さんらしいスタイル。

“別荘や観光であれば気にしなくていいと思うんですが、2地域居住は「住む」ことに重きが置かれますので、田舎の良さを享受してばかりの生活にはどこか引け目があったんです。何か恩返しができないか考えていた矢先に、偶々SNSで繋がった人や昔からの友人らと「里山と都市をつなぐことはできないか」と議論する機会を得て、一気に2011年のNPO立ち上げに至りました。”

  例えば別荘のように余暇を過ごすだけの場所であれば域内の交流は必要なさそうですが、暮らすとなると地域には昔ながらの相互扶助が残っています。農作業や暮らしの知恵を地域の人々から教わり、有意義な田舎暮らしが実現できた御礼として、何かこの地域に貢献できないかということで、自ら実践する2地域居住に焦点をあてて都市部と地域を結ぶ取り組みを始めたのですね。

トラクターの操作方法を学ぶ馬場さん

トラクターの操作方法を学ぶ馬場さん

NPO法人南房総リパブリック

  名称のリパブリックは馬場さんが2地域生活を始める頃から綴っていたブログの名前から継承したものでRepublic(共和制)とは異なり、里山をRe(新しく)Public(みんなで)利用していこうという意図が含まれています。NPO南房総リパブリックはこれまで以下の事業を主に行ってきました。

①里山学校
  主に都市在住の子育て家族対象に「里山の生きものを見て、触って、知ることの楽しさを伝える」ことを目的として定期的に開講されているプログラム。南房総の動植物の専門家と共に里山に入り、野草を採ったり、水辺で生きものを探したりと、自然の恵みや仕組みを学び体験し楽しみ尽くします。

里山学校

②三芳つくるハウス
  馬場さんが住まう旧三芳村の里山内に多用途のビニールハウスとその周辺の環境をつくりつづけるプロジェクト。でこぼこの土の上は落ち着かないから床をつくり、外で楽しむための家具をつくり、電気は太陽光発電、水は山の湧水と、できる限りローコストに自立した環境をみんなで少しずつつくり、つくった人が使います。都市生活はインフラや物流にどうしても頼りがちなもの。先の震災の教訓も関連して「暮らし」の土台を学ぶことができます。

三芳つくるハウス

③洗足カフェ
  南房総の野菜が「美味しい」という声から2011年10月に東京都目黒区で始まった、産地直送野菜をつかった日替わりオーナー制度のカフェ。カフェをやる夢をもった地域の方々が日替わりでオーナーを務める取り組みで、南房総のアンテナショップを都心に住まうNPOが主催するというユニークな形が実現しました。2014年9月から日替わりオーナーの1人に店が移譲され、常時運営しています。

洗足カフェ

2015年度は一歩踏みこんだ空き家状況の調査へ

  これまでの事業は「体験すること」または「南房総を知ってもらうこと」に重点を置いて活動してきた南房総リパブリックですが、いよいよ来年度(2015年度)から建築関係者が多く建物に強いNPOならではの事業が立ち上がるようです。

“来年度は、市や大学と連携して「空き家」の課題について一歩踏みこんだ事業を組み立てています。ほんとはもっと多いはずの空き家ですが、現状「空き家バンク」などに登録されている件数は少ない。これは大家と新規で利用する側の新しい課題ですので、丁寧に調査していく必要があると思っています。”

  空き家は現在、全国総世帯数の約15%を占め、ここ南房総でも20%以上もの家が空き家であることがわかっています。しかし、維持管理の労力や固定資産税が発生するにも関わらず、空き家物件はなかなか公開されず、意外にも需要と供給バランスが逆転しているのが実態です。借りたい人がいるのに、何らかの原因で貸せないのはなぜか。この点を、オーナーの心情に寄り添いながら明らかにしようというのが、来年度事業の柱だということ。

“また南房総には素敵なコンテンツをもっている農家さんや独創的で魅力的な生活を送っている方が沢山いることがわかりました。来年度はこうした方々や団体とタイアップした里山学校の企画も組み立てていこうと思っています。南房総での暮らしに焦点をあてて、人のつながり、地域のつながりを支えていければ嬉しいです。”

娘さんと畑に出る馬場さん

娘さんと畑に出る馬場さん

  NPOが立ち上がってから早4年、すでに南房総地域と東京都市部でNPOの活動への認知が進んでいる背景には、都会に住む人々が求めるニーズも踏まえて地域をプロデュースするという新しい形が実現しているからなのかもしれません。1地域に「住む」ことは、その地域の良さに慣れてしまうことでもあります。常に両方の良さを相対化することができる2地域居住をテーマに活動する団体だからこそ、良い面または課題をより明確に抽出でき、新しい暮らしを提案できるのではないでしょうか。今後のさらなる展開が楽しみです。

(文:東 洋平)

参考文献:『週末は田舎暮らし―ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記―』(馬場未織著/ダイヤモンド社2014年)