ローカルニッポン

みんなで幼稚園の古民家拠点を「DIYエコリノベ!」/NPO法人南房総リパブリック


建物の改修によって性能を向上させ、住まいに新たな価値を加える「リノベーション」。地方だけでなく都会でも空き家や空き部屋が増加している現代、建築の分野では目覚ましいスピードでリノベーションの研究が進んでいます。そこで今回ご紹介するのは、東京と南房総の2地域居住や里山学校を主宰するNPO法人南房総リパブリックによる「DIYエコリノベ!」というイベント。幼稚園の拠点として使われている一軒の古民家を、専門家の指導のもと参加者協働でリノベーションして、学び合おうという取り組みを取材してきました。

建物の未来を考えるHEAD研究会

まず初めに、「DIYエコリノベ!」が立ちあがった経緯について、同NPO理事で本イベントを企画し「カントク」役を務める建築家内山章さんに伺ってみましょう。

“これからの新しい建築技術や部材・設備を考える一般社団法人HEAD研究会という組織がありまして、この中の「エネルギーTF」というグループに所属しています。超高齢化や人口減少、様々な要因で建物が余りつつある今、従来の建築を見直してエコロジカルで省エネ、サスティナブルな暮らしを創る転換期にあって、この技術の研究と普及に取り組む有志の建築家やリノベーション会社、メーカーの集まりです。”

NPO法人南房総リパブリック理事 スタジオA建築設計事務所代表 内山章さん

NPO法人南房総リパブリック理事
スタジオA建築設計事務所代表 内山章さん

NPOの空き家調査

“一方で、NPO南房総リパブリックは昨年から「空き家調査」を自治体や研究機関と連携して行ってきました。「空き家」の問題を考える時、その解決策として「移住」そして「仕事の創出」が頭に浮かびますが、僕らは「ライフスタイル」の提案こそ重要なことだと考えています。豊かな食や自然に囲まれて、地域の温かいコミュニティの中で生きるライフスタイルを、快適な暮らしと共に実現することは「空き家」の解決に繋がらないだろうか。こうした話し合いを続ける中で、HEAD研究会の取り組みが合流して、今回「DIYエコリノベ!」を開催することになりました。”

NPOの空き家調査

日本の総住宅数6063万戸のうち空き家の数は、2013年に820万戸(空き家率13.5%)と過去最高を更新し、南房総市の空き家率22.3%は首都圏1都3県のトップ10に入っています。この状況で多くの地方自治体が空き家を活用した移住促進に乗り出していますが、同NPOは2014年から始まっている「空き家調査」と並行して一歩踏み込んだ空き家の活用を検討しており、この第一弾として始まったのがHEAD研究会と連携した「DIYエコリノベ!」です。

DIYエコリノベ!

南房総市で屋外保育を実践する「森のようちえんハッピー」の屋内施設「はっぴーハウス」にて1月30、31日と2月6、7日の4回に渡って開催されたイベントのうち、筆者が参加した2月6日イベント当日の模様をご紹介します。

1.断熱ワークショップについての説明

開会の挨拶とラジオ体操を終えて身体を温めた参加者は、講師の竹内昌義さん(建築家・みかんぐみ共同主宰)、河野直さん(設計施工家・つみき設計施工社代表)による当日のワークショップ概要を聞きました。

テーマは「断熱」。温かい空気は上昇するため、古民家は特に天井から熱が逃げており、襖や障子の隙間から洩れ入る外気も熱を奪っています。今回は「古民家の雰囲気を残しながら」断熱を行うため、4回のワークショップで天井と床下の対流を徹底的に抑えて、断熱障子を製作するという説明がありました。

断熱ワークショップについての説明

2.断熱障子の制作(外:すのこデッキ作り)

班に分かれてさっそく断熱障子の制作が始まりました。断熱性の高いポリカツインというパネルを障子の内側にはめ込んで角材で固定し、その上から障子紙を貼ります。外では、森の幼稚園ハッピーのスタッフや保護者と共に、子ども達が外でお昼を食べる時に敷く「すのこデッキ」制作が行われました。

NPOの空き家調査

3.お昼の座学 講師:竹内昌義さん

断熱障子作りが終わり、参加者みんなで昼食をとって一休みしてから、竹内昌義さんによる建物とエネルギーの関係について、世界の事例から比較した日本の状況、そして断熱改修の未来について話を聞きました。

お昼の座学

4.床下断熱(外:カマド作り)

畳をはがすと床が現れますが、実はこの床の下は地面。老朽化した板は至る所が隙間だらけで、これでは寒いことも当然です。そこで床下には、気密シートを貼りつけ、その上に断熱に優れたスタイロフォームを敷きます。この上に畳を敷いた時点で表面温度が2度も上がりました。外では、森のようちえんはっぴーの希望でカマドを作ります。子ども達も参加でき、2日目の完成にむけて順調に仕上がりました。

床下断熱(外:カマド作り)

省エネの進まない日本

さて、一通り1日のイベント内容を見てきましたが、ここでHEAD研究会エネルギーTF委員長でもある竹内昌義さんに、なぜ今こそ断熱改修なのか、この背景について聞いてみました。

“日本は京都議定書(1990年)で公約した2008年から2012年の間で温室効果ガスを6%削減する目標に対して、逆に8%も増えてしまいました。再生可能エネルギーの固定価格買取制度も始まりましたが、現在二酸化炭素排出量で世界第4位、特に欧米先進国と比べて住宅の省エネが極端に進んでいない国です。そこで、2015年COP21では2030年までに2013年度比で26%の削減目標が立てられたわけですが、この目標に対して住宅の省エネが果たす役割は大きいと考えています。”

みかんぐみ共同主宰 一般社団法人HEAD研究会エネルギーTF委員長 竹内昌義さん

みかんぐみ共同主宰
一般社団法人HEAD研究会エネルギーTF
委員長 竹内昌義さん

日本の住宅は全体の約8割が断熱されていない

“国内で消費される総エネルギーの内訳をみてみると、建築物でのエネルギー消費が33%。実のところ、この半分は住宅で消費されているのです。そこでHEAD研究会では新築、中古や都市と地方といった環境ごとになるべくエネルギーのかからない住宅の提案を行っています。断熱という観点でいうと、日本の住宅は全体の約80%が断熱されていません。また年間4,866人もの人がヒートショックが原因で入浴中に亡くなっている状況です。特に古民家は効果が表れやすく、素人でも十分改修が可能なので、まずはこうしたイベントを通じてより多くの人に自分でも出来ることを知ってもらえたらと思います。”

障子に断熱版をはめ込み、角材で固定する参加者たち

障子に断熱版をはめ込み、角材で固定する参加者たち

竹内昌義さんは『未来の住宅』『図解エコハウス』などの著者でもあり、日本が抱える住宅とエネルギーの問題について具体的なアイデアを実践する建築家。高性能な新築住宅を建てるだけでなく、手頃な価格の質の良い資材を利用し、古民家の断熱改修も含めて環境負荷の少ない中古住宅を増加させることが、ひいては日本の総エネルギーの減少や事故死の防止に繋がるよう活動を展開しています。脱衣室や廊下との温度差によって入浴中に年間4886人(緊急搬送後に死亡した患者数17,000人以上)もの人々が、命を落としているのです。

「体感」から課題解決につなげたい

それでは最後に、4日間の古民家改修を通して驚くほどの断熱効果が確認された「DIYエコリノベ!」ですが、今後の開催について企画した内山さんはどうお考えなのでしょうか。

“快適さというのは、見た目の好き嫌いと違ってとてもわかりやすく体感できるものなんですよね。また今回のように大工さんなど専門家の手ほどきを受けることで想像以上にスムーズに改修ができ、協働作業の楽しさを改めて実感できました。そして結果的に幼稚園の拠点が温かくなり、快適に過ごすことが出来るようになりました。今後も他の場所で、こうしたイベントを開催して、参加者だけでなく地域の人にも体感してもらうことで、地域内の「空き家」問題の解決にも繋がっていくといいですね。”

床下断熱改修後に温かさを体感 改修後は2週間~1か月温度測定によりデータがとられている

床下断熱改修後に温かさを体感 改修後は2週間~1か月温度測定によりデータがとられている

古民家の断熱改修を業者に依頼すると最低でも100万円以上かかり、古民家に暮らす人、そして古民家暮らしを考えている人にとってはハードルの高い出費。もちろん専門家の指導が必要なところもありますが、より多くの人々と共に自分達の力で楽しみながらやってみることで、改修費も安価に、そして学びを共有できることがわかりました。参加者の感動が各人の家で再現され、イベントも第2弾、3弾と数を重ねて他地域へ伝播していってほしいと思います。

文:東 洋平