ローカルニッポン

「どうせなら楽しく」で、いつの間にかお祭り男に

「どうせなら楽しく」で、いつの間にかお祭り男に / 吉永光男さん


酒蔵を利用したライブイベント、クラシックカーが大集合するイベント、伝統的な白壁を彩るプロジェクションマッピング…。かつて観光で賑わいながらも、現在は過疎に悩む島根県津和野町。「活気がなくなってきた」と言われる城下町に、ちょっと目につく面白いイベントが。

いつもその裏側にいるのが吉永光男さん。「特別な事なんて別にしてこなかったよ」と語る、彼の暮らしとそのルーツを伺いました。

イベント風景1


━━食事も喉を通らない東京生活:吉永さんは1969(昭和41)年に、津和野のお米屋さんで生まれました。高校卒業と共に漠然とした「町を出たい」という想いがら「いつか津和野へ戻る」という約束つきで上京、そのまま東京で就職しました。

「プログラミングの仕事で、月曜日から金曜日まで家に帰れない生活をしてたなぁ。隣の家に誰が住んでるかすら知らないまま、仕事詰めの生活だったよ。」

━━猛烈なアタックでUターン:目が眩むような東京生活から、津和野へと戻る事に。

「親父たちと「30歳までに津和野へ戻る」と約束していたんだけど、26歳の頃に実家の店に空きが出て「帰って来てくれ」っていう連絡が来たんだよ。戻るつもりはなかったし戻りたいとも考えてなかったから、初めは断ってたんだよね。それがもうね、あまりにも猛烈な勧誘で。(笑)で「まぁ仕方ないか」って結局津和野に戻ったんだよね。」

━━違う生活、違う人間関係:再開した津和野生活は退屈だったと語ります。

「帰ってきた後の津和野の生活は退屈だったかなぁ。商工会とか春秋会っていう町の商人で力を合わせて行事なんかをする会があるんだけど、やっぱり目上の人たちの手伝いをして。あとは仕事で、特別何かするわけでもない普通の生活をしてたからね。町にお金を払えば遊べるっていう場所があるわけでもないでしょ。」

━━退屈だった津和野生活が、刺激的に。

「30歳くらいの頃かな、町の会に参加していると、やらなきゃいけない事とかお願いされる事も増えて。それをやってお金が貰えるとかいう訳ではないんだけど、でもさ「どうせやるなら楽しくやろう」って周りの仲間たちと考えたな。他がやってない事をしようって試行錯誤して、それでだんだん楽しくなってきたんだよ。お金を払って買うんじゃなくて、皆で創る事が楽しかった。」

━━津和野の“田舎式”コミュニティでした。

「都会では周りの人間なんて放っておけばいいんだけど、津和野は田舎だから誰も放っておいてくれないし、放っておけなくなるんだよね。色んな人と色んな事で関わってると、だんだん皆で盛り上がってお互いに楽しもうっていう気持ちになっていったね。」

━━夏の津和野の隠れた名物ともなっているイベントは、この頃から。

「『祇園町夜市』っていうお祭りが止まってたんだよ。飲み会で「復活させようぜ」って話して、本当に復活させる流れになったんだよ。そこでも「どうせなら楽しく」って色んな事をした。仲間たちに出店を出してもらって、音楽を流して。で一番反響があったのは、家の壁面をスクリーンにして映像を流すTSP(Tsuwano Screen Project)。」

イベント風景2

TSPは島根県の景観賞の奨励賞も受賞

━━町の会から離れても「どうせなら楽しい事をやろうぜ」と続けた生活や仲間は変わらぬまま。

「町の会は40歳で引退っていう決まりで、自分も引退したな。それでも仲間たちとは飲み会なんかで「何かやろうよ」とか「何かやってよ」っていう話はしてて、ボランティアとか遊びの延長っていう形で続けたな。仕事よりもそっちの方が忙しいんじゃないかってくらい。(笑)」

━━当たり前に生活しているつもりが、町のお祭り男に。そして、その生活がそのまま現在に続いています。

「ただ「どうせなら楽しく」が積み重なって知らないうちに「町のお祭り男」みたいになってて、町の外からも色んな人が会いに来るようになったんだよ。何度も言うけど、俺は何か特別な事をしようとかはないんだよ。「田舎は何もない」なんて言いもするけどさ、それでもお洒落で格好いいことはしたいし、皆で集まって面白い事ができる空間も欲しい。だから自分たちで創ってきただけなんだよ。」

━━最後に「町のこれから」について問いかけた際の印象的な言葉を。

「この町はこうなるべきだ!なんて言うつもりも無いし、俺がやる事に「楽しいね!」って言って欲しいとも考えてない。ただ皆が同じように、1つ1つすべき事があるならそれを「どうせなら良く、楽しく」ってできれば、面白い町になるし、楽しい生活になると思うんだけどな」

吉永さんのお店には町の内外からいつも人が集まり、「仕事をさせてくれ」と吉永さんも楽しそうに苦笑い。日常から1つ1つ「どうせなら」と皆で楽しく工夫ができれば、特別になっていくのかもしれません。

店頭風景

吉永さんのお店『鯉の米屋』にはいつも誰かがやって来る。

文:井上寛太

リンク:
鯉の米屋
(吉永さんが営む『鯉の米屋』のfacebookページ)
ブログ
(吉永さんの活動記録も見る事ができるブログ※最終更新は2013年7月)
TSP
(TsuwanoScreen Projectが島根県の景観賞の奨励賞を受賞した際のページ)
津和野の一日
(吉永さんが出演する津和野のPV『津和野の一日』)
T-time
(吉永さんも編集に関わった冊子『T-time』は、渋谷ヒカリエの展覧会で島根県の代表誌に選出された。)