ローカルニッポン

行政、企業、民間プレイヤーがつながる豊島区

池袋という巨大ターミナル駅を抱えながら、昔ながらの木造住宅地も残る豊島区。いくつもの顔を持つ豊島区で、ともにまちづくりに取り組む方々がいます。豊島区役所「わたしらしく、暮らせるまち。」推進室の宮田麻子さん、日出家守舎の中島明さん、良品計画ソーシャルグッド事業部の藤岡麻紀さんです。

行政が、企業や個人とフラットに関わる

宮田さんは行政、中島さんは民間のプレイヤー、藤岡さんは企業と異なるバックグラウンドをお持ちです。それぞれどのような経緯でまちに関わるようになったのでしょうか。

宮田:
私自身は、豊島区に住んで30年ほどになります。IT企業でマーケティングや広報の仕事をした後、フリーランスでPRの仕事をしていました。
豊島区は2014年に消滅可能性都市に指定されてから、女性や子供へ向けた政策に重点を置いてきて、2016年に「女性にやさしいまちづくり担当課」を発足しました。その際、課長のポストを一般から募集していて、ちょうど地域に光をあてる活動をしたかったので応募し、採用されました。
2017年には組織名を「わたしらしく、暮らせるまち。」推進室に変更して、女性に限定せずお年寄りや外国人など、誰もが自分らしく暮らせるまちを目指しています。

宮田さんは2019年4月からは「わたしらしく、暮らせるまち。」推進アドバイザー兼マーケティングコミュニケーション専門監として区のまちづくりに携わる

中島:
僕はもともと企業内でのコミュニティづくりの仕事をしていました。だんだん自分が住んでいる豊島区のコミュニティに関心を持つようになり、2014年から地元の面白い人を発掘する「としま会議」を、2016年にはシェアアトリエ「日の出ファクトリー」をスタートさせました。そのほかにも、現在、シェアオフィス「RYOZAN PARK大塚」や、ローカルメディア「大塚新聞」に関わっています。

一般的に行政が「地元の人」というと、町会や商店会に入っている人を指すことが多い。でも、そういう組織に所属していなくても、まちにプレイヤーはたくさんいます。「としま会議」ではそういう人を招いてトークライブをし、集まった人たち同士がつながる場をつくっています。いずれは行政や企業とも関わりたいと思っていたところで、宮田さんとお会いしました。「としま会議のまわりにいる人たちと組める気がする」と言ってくれましたね。

宮田:直感で「ここだな」と思いました。私もそもそも行政の人間じゃないから、目線が住民そのものなんですね。

3人が協働で開催している地域コミュニティの場「HINODE MARKET」 (写真:西野正将)

以来、宮田さんと中島さんは情報や意見を交しながら、後述する「HINODE MARKET」をはじめ、さまざまなプロジェクトを展開しています。

一方、東池袋に本社をかまえる良品計画は、2017年に区と「FFパートナーシップ協定」を締結しました。FFとは、Female/Family Friendly(女性/ファミリーにやさしい)の略。宮田さんが指揮をとるまちづくりと密に連携しています。

藤岡:
ここ数年、社内で「土着化」というキーワードが浸透し、全国の店舗をはじめさまざまな地域とどうつながっていくかを考える姿勢が整ってきました。FF協定を結んだ3ヵ月後には私のいる「ソーシャルグッド事業部」という部署がたちあがり、本格的に組織としてできることが増えました。

宮田:
良品計画さんは先端をいかれてますが、最近は企業も従来のCSRなどの枠を超えて、実ビジネスにより社会的な文脈をもたせる流れになっている。行政の方も「公民連携」を盛んに言うようになった。ただ、そのパートナーシップの組み方を、誰もがわかっているわけではない気がします。

藤岡:
協定を結んでから1年以上たちましたが、区職員のみなさんとほぼ毎週意見交換をしていますよね。まるで同じ会社のようにビジネス上の取引はなくて、お互いが蓄積しているノウハウやリソースを提供し合いながら、まちでなにができるか考えている。ベテラン、若手分け隔てなく、毎回10人くらいは集まっています。

宮田:
庁舎内の7~8部署を横断してチームを組んでいます。チームづくり自体も大変でした。普段は部署内の仕事のみしている職員が、共通のテーマに向かってそんな頻度で仕事をすることは、いままでなかったんじゃないかな。

藤岡:
宮田さんの視点がフラットなのがありがたいです。生々しい話だと、私たちの事業では、「行政と組む」と言ってもモノを提供することだと見られやすい。あるいは、「大きな店舗を建てて商売したいんだろう」と思われても仕方がない。宮田さんのような方が行政にいると、進め方も違いますね。

民間のプレイヤーを補助金なしで支える仕組み

「としまぐらし会議」では、子育てや多世代交流、農園プロジェクト、カルチャー発信、ヘルスケアなど、さまざまなテーマのプロジェクトが生まれた(写真:西野正将)

「わたしらしく、暮らせるまち。」推進室の代表的な事業が「としまぐらし会議」です。これは、豊島区に暮らす人、企業、団体などさまざまな立場の人が一堂に会すまちの作戦会議。全4回にわたるワークショップで、10のプロジェクトが生まれました。

宮田:
まちづくりは行政だけではできません。組織との連携はもちろん、民間のプレイヤーの活躍も重要です。これまでは、「としま会議」などで民間からプロジェクトが生まれても、行政とうまくかみ合っていませんでした。例えば、行政が公共施設や遊休地を管理している一方で、そうした場を求めている個人が利用できていなかったり。

そこで始めたのが「としまぐらし会議」です。行政と多様な組織と個人が有機的につながって、アクションをおこしたらパワフルだと思ったんです。

行政が民間のプロジェクトを応援することは大切です。ただ、すぐに補助金を出すと自走しないから、うまい伴走の仕方を考えたい。中島さんにも企画段階から入ってもらいましたね。

中島:
補助金をもらうと活動に制約が生まれやすいし、手間のかかる報告書も書かなくてはいけない。「としま会議」も補助金はもらっていませんが、それでいいと思っています。宮田さんは補助金ではない方法で支えてくれるから、組みやすいんです。「としまスコープ」というメディアをつくって発信してくれるのもそう。

宮田:
「としまスコープ」は、民間のプレイヤーや場にスポットをあてることが目的でした。まちの人々が自分らしく暮らすヒントになればいいし、情報をきっかけに人々が出会ってまた新しいことが始まれば、まちはさらに楽しくなりますよね。

小さな公園で、さまざまな人が空間を共有する

同じ地域内の異なる立ち場のパートナーシップが実現されている

宮田さんたちがまちづくりにあたって特に注目しているのが、公園の活用です。まずは豊島区の公園事情からお話いただきました。

宮田:
豊島区には大規模な都市公園がなくて、一人あたりの公園面積が23区のなかで一番狭いんです。そのわりに、面積に対する公園の数はトップクラス。つまり、小さい公園がたくさんあるんです。もしかしたら、住民には公園とさえ認識されてないかもしれません。

住民へのアンケートによると、豊島区は遊べる場所が少ないから子育てに適していないと思われています。子育て世代でなくても、まちなかにほっとできる居場所は欲しいですよね。だからといって、新たに大きな公園をつくるには土地も予算も必要です。 そこで私たちは既にある公園を活かせないか考えています。良品計画さんとのFF協定でも「区内に点在する中・小規模公園の有効活用」を主軸におきました。

藤岡:
週1のミーティングでも、区内の中小公園を巡ったり、地域のみなさんにヒアリングしたりしましたね。「使い方がわからない」と言われる公園が多くて、「できない」ことが多いことにも驚きました。どうやって変えていこうか話し合ってきて、実はいま、公園と公園をつなぐ面白い仕掛けを準備しています。

宮田:
豊島区はいま、タワーマンションが建ちファミリー世代が増えています。また外国人の人口も増えている。そうした新しい住民はまちとのつながりが希薄で、従来の住民との接点もほとんどありません。彼らとつながるきっかけとしても、オープンな場所である公園に可能性を感じます。

小規模公園を地域コミュニティの場とする試みとして、宮田さんたちは、東池袋にある日出町第二公園で「HINODE MARKET」というマルシェを開催。2017年の冬から季節ごとに回を重ねてきました。

中島:
構想はもともと持っていました。日出町第二公園はタワーマンションのふもとにありながら、古くからある商店街や都電の駅も近い。ここならいろんな人が交わる場をつくれると思いました。出店する店は、近所のカフェなどタワーマンションの人が好みそうな店と、商店街に昔からある店、その両方に声をかけました。

藤岡:
出店者もお客さんも、新旧混ざっていましたよね。

中島:
印象的だったのは、商店街の裏に住んでいるおばあちゃんたちが、販売していたワインを「昼間から飲んじゃおうかしら」なんて言って、うれしそうに飲んでいた姿(笑)。

宮田:そうやって、普段交流しない人たちが、同じ空間にいることが大事なんですよね。

公園を使用するときは、私たち区の職員が必ず町会に挨拶にいきます。町会の方々は長年公園の清掃や行事をしてきた自負を持っていますが、新しい人たちとの接点も求めている。新しい住民と従来の住民同士がつながる機会という意味でも、接点としてまずは同じ空間にいることから始めればいいのかなと思います。

中島さんは2015年に日出家守舎を立ち上げ、かつて日出町と呼ばれていた東池袋エリアを拠点にコミュニティ活動を続けている

宮田:
公園を活用するプロジェクトは、ほかに「としまぐらし会議」から生まれた「農縁公園」も進行中です。東池袋にある遊休地で、まちの人たちと野菜を育てています。本当は公園がよかったのですが、管理の問題からまずはフェンスで覆われている遊休地からスタートしました。

中島:
あのエリアは木密(木造密集)地帯で、火事が起きたときの延焼防止にそういう空き地がいくつもある。もったいないと思って活用方法を考えていたところに「農縁公園」が立ち上がったので、僕も関わることにしました。

藤岡:
中島さんが日頃から考えていることと、新しいまちのプロジェクトが、よくつながりますよね。

宮田:
見ている方向が一緒だから、必然的につながるのだと思います。良品計画さんも、以前から都市農園の構想は持っていましたよね。
みんなが普段から同じ方向を見ているから、こうして連携できるんですよね。

豊島区での行政、企業、民間プレイヤーの連携はまだまだ始まったばかり。これからどんな暮らしやすいまちをつくっていくのか、楽しみです。