ローカルニッポン

シラハマ校舎の小屋暮らし vol.2 ~仲間でつくる!「クラインガルデン」~

シラハマ校舎は、2011年に閉校した長尾小学校を再利用した複合施設。広々とした旧校庭部分には、房総の集落の特徴であるマキノキの生垣に囲まれた「無印良品の小屋」が立ち並び、古くて新しい、独特の景観を作り出しています。

そして小屋コミュニティの根底にあるのが、市民農園運動のコンセプト。これは以前からある郊外で畑を借りて野菜を育てるものではなく、個人が小屋付きの分譲地を所有して、各々が望む形で自然と向き合い、休暇を過ごすドイツの「クラインガルデン」をイメージしています。そのため、庭ではバーベキューをしても犬を遊ばせてもよく、小屋からウッドデッキを伸ばしたり、タープを張ったりして居住空間を広げ、キャンプのような楽しみ方をする利用者も多くいます。

その一方で、分譲された庭地のほとんどを花と野菜の畑にしている一棟があります。持ち主は都内から週一回のペースで通う佐藤さん。多くの小屋の利用者が「遊び」や「休み」に来ているのに対し、滞在時間の大半を農作業と庭造りに時間を費やすのには、一体どんな理由があるのでしょうか。今回は、小屋というより庭に比重を置いた佐藤さんたちのデュアルライフをレポートしたいと思います。

1年目に咲かせたヒマワリとコスモス

農園探しの開始

佐藤さんは東京で働くサラリーマン。食事も睡眠もままならない第一線での仕事を続けるうちに、このライフタイルに疑問を感じるようになってきました。同年代の同僚や学生時代の友人たちの中にも同じような思いを抱く人が増え、郊外に引っ越したり、中古の別荘を買ったり、仲間内で少しずつ自然回帰の動きが始まりました。佐藤さん自身は、花や植物を置いて手をかけてみようと思ったものの、マンションの規則により、高層階ではベランダにプランターひとつ置くことができません。やがて、自宅から離れた場所での畑づくりを考えるようになっていました。

1年かけて仕事を整理し、定期的な休日を確保できる目処がたつと、さっそく畑探しを開始しました。場所は日帰りが可能な都心から100km圏内。人が多く、地価の高い湘南方面は避け、アクアラインで通える千葉県・房総方面に絞って不動産屋を訪ねることにしました。

土地探しにワクワクしつつも、初めての畑仕事は心細く、続けられるかどうかも不安。そんなとき、以前からの友人の小川さんが畑の管理に加わってくれることになりました。千葉県出身の小川さんは、かつて外房の海へサーフィンに通ったこともあり、房総半島の地域事情にはとても詳しい。さらに、子供の頃から実家の農業を手伝っていたため、家庭菜園などはお手の物でした。

小学校時代からある桜は庭木として残され、小屋の区画を選ぶポイントにもなっている

「無印良品の小屋」との出会い

畑をやるのであれば、千葉県で一番暖かいとされる最南端の南房総市へ。一口に南房総といっても、酪農のさかんな山あいの地域と海沿いの漁村ではだいぶ事情が違います。佐藤さんと小川さんの二人は、南房総市の中でもさらに最南端に位置する白浜町を目指し、地元の不動産会社を訪れました。

白浜町の不動産会社というのは、リゾートマンションから土地付きの別荘、古民家、更地まで幅広く取り扱っています。佐藤さんと小川さんは、さっそく農地として使える場所をいくつか見せてもらいましたが、肝心の不動産会社が太鼓判を押しません。「一から土地を買って畑をやるのは負担が大き過ぎます。しばらく通えないなんてことになると大変ですよ」そうして勧められたのが、100平米ほどの土地に小屋が付いた「無印良品の小屋」でした。

その当時、佐藤さんも小川さんも、シラハマ校舎のことはおろか、「無印良品の小屋」のことも聞いたことがありませんでした。しかし、既に建設されていた小屋群を見て、その景観に魅力を感じ、ここで畑をやるイメージが浮かびました。説明を受けるうちに、外水道や農具、キッチンやシャワールームなども使えることがわかったことで、心配事が消え、ひと安心したそうです。

この時、海に向いた南側の区画はすでに全棟完売していたため、土や日照、風向きなどを考慮し、庭として使えるスペースが広い西側の区画を契約しました。

原木に打ち込んだ菌から育った自然栽培の椎茸

畑づくりのスタート

南房総といえば農業や酪農が盛んで肥沃なイメージがありますが、海岸沿いは砂地です。シラハマ校舎のある地区の名前自体が「砂取(すなどり)」と呼ばれおり、水はけのよい土を好むスイカやメロン、またさほど肥料を必要としないとされるソラマメや落花生が育てられています。

しかし、花き(観賞用植物全般)や多様な野菜を育てるため、小川さんは土づくりから始めることにしました。近くのホームセンターで牛ふん堆肥や肥料を買い込み、枯草を燃やして灰を作り、土に混ぜていきます。同じ場所に同じ食物を続けてつくることにより起こる生育障害を防ぐため、土の入れ替えは現在も続行中です。

野菜作りを仕切るのが小川さんだとすれば、佐藤さんは花担当。1年目は、子どもの頃に観た古いイタリア映画のワンシーンに登場したヒマワリ畑を再現しました。2年目の今年は、東京ドイツ村や国営ひたち海浜公園などで有名なコキアを咲かせることを計画しています。

そのほかに、真夏はブーゲンビリア、秋はコスモス、冬はマリーゴールド。水仙の香りが消えるころ、シラハマ校舎オープン前からある桜が花をつけます。1年中何らかの花が咲いていたあの頃、小学校時代の色彩豊かな花壇が思い出されます。

レンガを並べて作った焚火スペース。灰を作るついでに焼き芋も。

小屋の使い方

佐藤さんたちの小屋は農作業のためのものなので、アートやオブジェはありません。室内には簡易ベッド、ゴザ、携帯ラジオそして農具類。なんだか白浜の我が家の物置小屋のようです。

昔から白浜で農業を営む人は、母屋とは別棟に物置を建て、その間取りは土間と畳敷きの小上がりになっています。午後の作業に戻るまで、畑仕事で汚れたままの服装を気にせず休憩をとったり、収穫した野菜を出荷する箱詰めの作業を夜なべでしたり…。決してオシャレ空間とは言えないけれど、飾らない2人の人柄を表すような小屋使いは、昔からある農村コミュニティーのそれを彷彿とさせます。

さて、海風が抜けて過ごしやすいはずの白浜の夏も、2018年は30度を超える日が多く、畑仕事に集中できるのは、早朝や夕方のみでした。小川さんは前日の夜に来て小屋に泊まり、早朝から作業を始めることが多かったようです。とにかく労働がきつい夏ですが、楽しみは夜空。ネオンサインのない満天の星空は天の川や流星群の観測にぴったりです。たとえ、星や星座に詳しくなくても、流れ星を眺めながら過ごす夜は格別なものです。

「色んな野菜を少しずつ」は家庭菜園の理想形

畑でつながるコミュニティ

佐藤さんたちの菜園はバランスよく畝が配置され、常に何かしらの花や野菜が育っています。また、都内から来る仲間の手伝いもあって、昨年は手作りの石垣や池も完成させました。そして現在、小屋の所有者の大半が庭で植物を育てていて、お互いの畑を見に行ったり、訪れたタイミングで水遣りを行ったりという菜園コミュニティが少しずつ出来上がってきました。小屋の所有者たちはシラハマ校舎に来るスケジュールが不定期なので、実際に顔を合わす機会は多くはありません。かといって、SNSで簡単にグループを作ることもしていません。ネットで簡単に繋がることができる今だからこそ、オフラインで、それぞれの時間で、体験を共有していく面白さと居心地のよさがあるのかもしれません。

利用開始時期:2017年秋
利用メンバー:1~5人
利用頻度:週に1日
庭の利用方法:菜園
白浜での過ごし方:農作業、種・土、肥料の買い出し
シラハマ校舎での過ごし方:農作業
近隣のおすすめスポット:としまや弁当