ローカルニッポン

シラハマ校舎の小屋暮らしvol.6~5年目の二拠点生活~

書き手:多田佳世子
安房郡(現・南房総市)白浜町出身。東京―白浜の二拠点&別居婚生活を経て、2013年に白浜へUターン、夫と同居を始める。母校である長尾小学校を利活用し、2016年よりファミリー・ビジネスでシラハマ校舎を運営している。

シラハマ校舎で展開している「無印良品の小屋」エリア。ここでは東京住まいの方々が小屋を建ててから二拠点生活を始めるケースがほとんどですが、中にはシラハマ校舎がオープンする前から、海沿いに部屋を持ち、白浜で週末を過ごしてきたという人も。

蟻川幸一さんとそのご家族。実はシラハマ校舎の前身である「シラハマアパートメント」のシェアハウスから「無印良品の小屋」にシフトした唯一のメンバー。もうすぐ5年目に入る蟻川家の二拠点生活はどのように変化したのでしょうか。

家族でシェアハウスへ

蟻川さんが千葉の海に通いだしたのは、20年以上も前のこと。学生時代はウィンドサーフィンに親しみ、社会人になってからはサーフィンに転向。休日になると波を求めて片貝、一宮、夷隅(いすみ)…と外房方面へ。一泊できる時は最南端の白浜に宿をとり、天気予報を見ながら翌日のスケジュールを立てます。岩場が多い白浜にはメジャーなサーフスポットこそありませんが、内房・外房どちらにも行きやすいという点ではとても便利。そこで白浜町内にあるシラハマアパートメントのゲストルームを利用する機会が増え、2016年1月より同じ建物の3階にあるシェアハウスの一室に入居することになったのです。

シラハマアパートメント。朝日の差し込む角部屋が蟻川家のアジト

シラハマアパートメント。朝日の差し込む角部屋が蟻川家のアジト

シラハマアパートメントでの日々

こうして始まった蟻川家の二拠点生活。部屋を借りる大きな決め手となったのは、南向きの大きな窓から広がる美しいパノラマ。深い群青色の海に伊豆七島のシルエットがくっきりと浮かび、水平線には大きな外国船。目まぐるしく変わる空の色は、日暮れまで眺めていても飽きません。

そしてそれ以上に面白かったのは、シェアハウスという生活スタイル。その頃の入居者は子育て世帯と独身世帯が半々、さらに常連客やスタッフなど様々な人たちと場所も時間も共有していました。サーフィンの合間に畑仕事に駆り出されたり、カフェの手伝いをしたり、学校や会社だけでは遭遇しない出会いや経験がたくさんありました。

当時シラハマアパートメントを運営していた多田朋和さんのモットーは「規則より規律」。蟻川家では「細かいルールはなくても、どうしたら皆が気持ちよく過ごせるかを考えて行動する」という理解のもと、当番制がなくても掃除する、共用スペースでは次に使う人のこと考える等、一つ一つを子どもに体現して教えられたことがよかったそうです。

このとき蟻川家の長男は既に高学年に入っており、細切れ時間を受験勉強に充てながら、見事志望校に合格。勉強に付き添っていた奥様は、さらに途切れ途切れの時間をやりくりしてファイナンシャル・プランナーの資格を取得。「自分たちは場所や時間に制約がある方が集中できる」というのが家族みんなの新しい発見でした。

シラハマアパートメントの家庭菜園にて。鍬を握ったのはこれが初めて

シラハマアパートメントの家庭菜園にて。鍬を握ったのはこれが初めて

さよならシラハマアパートメント

順風満帆な二拠点生活ではあったものの、入居した翌年の10月、白浜は今まで体験したことがない規模の台風に襲われました。シラハマアパートメントの2階・3階では窓ガラスが割れ、建物前の国道は潮水で冠水して通行止め。元々老朽化が進んでいた建物ではありましたが、コンクリートブロックが崩れ、内部の鉄筋が大きく露出してしまいました。結局、建物の補修が叶わず、シラハマアパートメントは閉館の方向へ進みます。

余談ではありますが、2019年9月に千葉県の広域を襲った台風15号で、シラハマアパートメントのあった建物は更なる被害を受けました。屋上の柵が落ち、窓ガラスはサッシごと飛ばされ、外の非常階段がもぎ取られ大きく損壊。惜しまれながらの閉館ではありましたが、誰も住んでいなかったことが不幸中の幸いでした。

二軒目の二拠点「無印良品の小屋」

シラハマアパートメント閉館に向けてシェアハウスの旧メンバーが近隣のリゾートマンションやアパートに移っていくなか、蟻川家はロングボードだけを多田さんに預け、一旦白浜の住居を引き上げます。すでにシラハマ校舎では「無印良品の小屋」が建ち始めていましたが、目の前に海がないせいか今ひとつイメージが具体的に描けません。また、長男が進学したことで家族の週末スケジュールも確定できず、小屋を購入するには至りませんでした。そんなとき、シラハマ校舎の「無印良品の小屋」には期間限定の賃貸スタイルで住める方法があることを知り、入居することになりました。

さて、シラハマアパートメントのシェアハウスと「無印良品の小屋」、最も大きな違いは庭付き一戸建てであること。多肉植物などを収集している蟻川さんは、マンションで大きく育てたアガベやプルメリアなどを持ち込んで庭造り。さらに100㎡ほどある自分の区画にテントを張って友人家族を招き、BBQや花火を楽しんでいます。

3000坪のシラハマ校舎に友人の子どもたちも大喜び

3000坪のシラハマ校舎に友人の子どもたちも大喜び

白浜での過ごし方

千歳海岸だけでなく、千倉~和田~鴨川と外房方面はサーフポイントがたくさんあります

千歳海岸だけでなく、千倉~和田~鴨川と外房方面はサーフポイントがたくさんあります

日中をシラハマ校舎で過ごす子育て世代や畑仕事メインのクラインガルデン組とは異なり、蟻川さんのアクティビティはサーフィンが中心。早朝から波を求めて愛車のジープを走らせます。波がない時には外房、逆に海が荒い時は内房へ。一番のお気に入りは千歳海岸。砂浜が広く、見晴らしのよい海岸線が続いています。

房総の海のよいところは、海辺で暮らす地元の人たちが「海はみんなのもの」という感覚でいることではないでしょうか。房州弁には「ローカル」も「ビジター」もなく、語気荒く注意を受けるのは、過去の海難事故や時化(しけ)を知らずに丸腰で海に入っている人たち。漁師や海女の声が大きいのは、命に関わることが多いからかもしれませんね。

「オン」と「オフ」の間で

シラハマ校舎にあるコワーキングスペース。蟻川さんの白浜での仕事場でもあります

シラハマ校舎にあるコワーキングスペース。蟻川さんの白浜での仕事場でもあります

平日は東京で働き、休日は海辺の暮らしを楽しむ。一見、オン/オフを分けたメリハリのある生活の様ですが、実際はちょっと違います。むしろ「混じり合ってる方が自然で面白い」というのが蟻川さんの持論。 仕事と遊び、刺激と癒し、会社とプライベート、立ち位置を意識した時期もありましたが、そのうちに分けなくていい、むしろ楽しいことは、みんなその境目にこそあるように思えてきたそうです。

それからは南房総でも仕事の延長のようなオンタイムを過ごす機会が増えてきました。特に、企業の人事部に所属しながら取得したキャリアコンサルタントという国家資格は、人々の職業選択や能力開発に関する非常に身近なもの。現在はシラハマ校舎のシェアオフィスを借りて個別相談なども行っていますが、企業だけなく教育や仕事支援など幅広い分野で必要とされていて、移住者の定着化やインバウンドなどの目標を抱える南房総でも一役買いそうな予感がします。

ほかには、MBAや同じ分野の仕事仲間を集めての勉強会。自然豊かな場所でのブレインストーミングは、開放感から普段とは違う視点が持てたり、いつもと違う行動や発見があり、シラハマ校舎で実施するメリットが見えてきたようです。さらに今年は「SDGs De 地方創生 公認ファシリテーター」の認定証を取得、これからも南房総との関わりが増えてきそうな気配がしています。

5年目の二拠点予想図

年が明けると、蟻川さんのデュアルライフは5年目に入ります。真っ白なビーチサンダルはオールシーズンのアイテムとして定着し、冬場でもブーツやグローブは付けずに海に入り続けています。一方、温厚で親しみやすい人柄もあって、南房総でも自然と人脈が広がり、地域の活動に参加する機会が増えてきました。

2019年秋は「南房総二拠点大学」という自治体プログラムの「不動産・スペース活用チーム」に入り、メンバーと共に白子ポイント(南房総市千倉町)近辺の山林13,000㎡の有効活用についてプランニングし、企画案をまとめあげました。サーファーにとって身近な場所であるだけに、実行段階でも関わって行きたいと考えているそうです。

さて、蟻川さん一家がデュアルライフを始めて、もうすぐ4年が過ぎようとしています。休む・遊ぶだけではない、文字通り2つ目の拠点として南房総との関わりが少しずつ始まりました。来たる子(ねずみ)年は、この地での一層の活躍を期待し、小屋暮らしを見守りたいと思います。

利用メンバー:1~10人
利用頻度:月に2~8日
庭の利用方法:庭木、キャンプ、ボードのお手入れ
白浜での過ごし方:サーフィン、勉強(会)
近隣のおすすめスポット:千歳海岸(南房総市千倉町)

リンク:
シラハマ校舎
無印良品の小屋